第2話 勝ち組に転生

 エセって、エセ霊媒師って何!? エセの段階でスキルとして劣ってるじゃん! それって駄目じゃん!


 赤子のライトは、乳母に抱かれながら、自分の残念なスキルに全力でツッコミを入れた。


 ただの霊媒師なら、それはまあ、仕方がない。


 前世でも本物の霊媒師に見せる為、知識も詰めこんでやっていたのだから、ある程度想像もつく。


 だが、エセが頭に付くとそれはもう、霊媒師ではないのだ。


 スキルとして成立していないだろう! とツッコミを入れるライトは、まともと言えるだろう。


「バブー……」


 ライトはこの世界で生きるのも前途多難なのでは? と思わずにはいられなかったが、それもすぐに、考えは変わった。


 というのも、ステータスの職業欄に、『ランカスター王国・第十王子』と、記載があったからだ。


「バブー! バブブー!(これは勝った! 勝ち組確定!)」


 ライトはご機嫌でキャッキャッと喜んで、抱っこしている乳母に笑顔を振りまく。


 それはそうだろう。


 これがもし、第一王子とかであったら、帝王学を学んで国の将来の為に励まなくてはいけない大変な使命があるはずだ。


 第二、第三王子辺りは、その王位継承権を巡って争いもありそうなので、平穏なイメージが全く湧かない。


 だが、第十王子だと話が違う。


 王位継承権からは遠く、相手にされない一方で、王家の甘い汁はそこそこに吸える立場ではなかろうか?


 権力闘争にも関係なさそうな立場で、王族として楽な生活が保障されているこの第十王子という立場は、ライトにとってスローライフが約束された地位だと思えるのであった。



 それからのライトは、第十王子という立場を理解する為に、必死になって言葉を覚えた。


 乳母はありがたいことに自分によく話しかけてくれる人だったので、聞き取りをしながら言葉を覚える事が出来た。


 ただし、自分のスキル『エセ霊媒師』の能力の一つ、『読心術』でこの乳母の心を読むとドロドロしていることもわかり、ライトはその辺りは、割り切らないといけなかった。


 というのも、どうやら、この乳母は自分の生みの親であるアイコ・フェイカーの一族から選ばれた人間で、たまたま、出産し子供が乳離れして落ち着いたところだったので自分の乳母に任命されたらしい。


 だから、本来は自分の子供の世話をしたかったのだが、一族と王家からの命令でライトの担当になったということで、不満も多いようだ。


 まあ、自分の世話係には、もう一人子供のメイドが付いていたから、日中は乳母が、それ以外はこの十歳のメイドに担当させている。


 ライトは、この十歳のメイドの心の中を『読心術』で読んでみると、こちらもある意味、ドロドロしていた。


「はぁ……。せっかく『諜報機関・ヘルメス』で育ててもらい、教育も受けられたから、ゆくゆくは外でいい男見つけて、幸せになるつもりだったのになぁ……。よりにもよって、赤ちゃんの世話係かぁ……。これが、年の近い貴族の少年だったら嬉しかったのに……。まぁ、国王陛下直々の命令だから、文句は言えないけど……」


 と十歳とは思えないおませな思考の持ち主であった。


 このメイドがどんな人物かというと、年齢は十歳。


 名前はアリア、王国の諜報機関『ヘルメス』の元訓練兵で、丁度、潜入の為にメイドの仕事を仕込まれていたらしく、護衛も兼ねて白羽の矢が立ったらしい。


 自分の専属メイドらしいので、彼女が貴族の色男と結ばれるのは難しいだろう。


 特徴は赤く長い髪に、同じく切れ長の赤い目、眉目秀麗で将来美人になるだろうことは、今の段階でもよくわかる顔立ちだ。


 確かにそんな容姿なら、いい男を掴まえて幸せになる野望の一つも抱くところだろう。


 それに、諜報機関『ヘルメス』に所属していたことも大きい。


 ここはエリート兵育成機関だそうで、小さい時からありとあらゆる訓練をしてどんなところでも対応できる技術を身に着けるところらしい。


 アリアもメイドの他に、礼節から裁縫、調理なども叩きこまれていたようで、そのこともライトの専属メイドに選ばれた理由の一つであるらしい。


 このアリアはライトの世話をしながら、脳内では訓練の反芻や周囲から得た情報を整理する為に頭を働かせていたから、『読心術』を使うライトにはありがたい情報源であった。


 ライトは、この国の言語の習得と、自分のスキル『エセ霊媒師』にはどんな能力があるのかを研究することに集中する赤子人生を送ることになった。


 なにしろライトの周囲はこの乳母のマーサと専属メイドのアリアの二人が主な人間関係で、他の者達は期間が過ぎるとすぐに入れ替わる為、顔と名前を覚える必要がない者ばかりであったのだ。


 その中で、重要なのがライトの人生を左右しかねないスキル『エセ霊媒師』である。


 ライトはすぐに能力の一つである『読心術』を使えるようになったから、ある程度有用性は理解できたが、人に話せる能力ではない。


 あなたの心が読めますよ、とは口が裂けても言えるはずがないからだ。


 それに、この能力、距離がかなり近くないと発動できないという欠点があった。


 現在の体感では、五十㌢弱くらいのようだから、抱っこしてもらわないと、全く心が読めないのである。


 それとステータス欄を詳細に確認すると、『エセ霊媒師』には、他にも能力があるようだ。


 というのも、『エセ霊媒師』名前の下にタッチできるような表示があるからだ。


 だが、赤子のライトにはその表示に手が届かず、確認することができない。


 だから、もう少し成長したら、そこにタッチして能力の確認もできるようになるだろう。



 こうしてライトは、一歳になるまで、この世界の言語の習得と『読心術』による情報収集に力を入れるのであった。


 そして、一歳を迎えた時期。


 ついに、ステータス表示画面の『エセ霊媒師』の下にあるタッチするところに手が届く瞬間が訪れた。


「ダー!(届きそう!)」


 ライトは、短い手を目いっぱい伸ばして、空中に見えるステータス画面をタッチした。


 すると新たな画面がライトの前に表示される。


『エセ霊媒師』……能力①『読心術』


「ダー!ウー?(やっぱり、読心術はこの能力の一つだったのか! あ、ということはもう一つある?)」


 ライトは能力①ということは②もあるようだと気づき、また、一生懸命空中に手を伸ばしてタッチする。


 するとそこに、二つ目の表示が。


「ダー……!?(能力②『エセ降霊術』……!?)」


 早くも怪しい能力が表示されたことで、ライトは自分のスキルが人に見せられない怪しいものであることを再認識するのであった。

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