転生第十王子は死にたくない!~辺境に追放されたけど、命が危ういのは変わらないので、怪しいスキルを駆使して生き延びます!~
西の果てのぺろ。
第1話 職業・(エセ)霊媒師
偽暮(ぎぼ)頼人(らいと)が異変に気づいたのは、目が覚めてすぐであった。
視界がぼやけ、はっきりとものが見えない状態で、「ライト」と自分の名前を呼ばれる。
でも、名前以外聞きとれない言葉だから困惑した。
それに身動きが取れない。
体がうまく動かせないのだ。
そして、手を自分の顔に近づけてその輪郭を確認し、ようやく自分が新生児だということに気づく。
「これって、ラノベでいうところの転生!?」
偽暮頼人はどうやら想像上でしか起こりえないはずの状況に驚き、それを口にしようとするが、実際には、「バブー!」という言葉しかでてこない。
そして、肉体に感情が引っ張られるのか、戸惑いがそのまま、泣くことへと変換される。
「おぎゃー!」
偽暮頼人は盛大に泣きはじめると、母親らしき人物に抱っこされるとあやされるのであった。
偽暮頼人の転生前は、二十六歳の成人男性であった。
仕事は、霊媒師。
いや、厳密に言うとエセ霊媒師だ。
ブラック企業を辞めて、無職になっていた二十四歳の時、友人の誘いでバイト感覚で始めたのが、霊媒師だった。
最初は再就職までの繋ぎの予定だったのだが、ブラックな職場で培った営業力で、人の所作や、口調、目線、瞬きなどその微細な動きで今相手が何を考えているか、それは嘘か本当か? など見極めることが人よりも優れていたので、それを活用してエセ霊媒師を始めたのである。
まあ、やっている事は、普通の占い師とあんまり変わらないのだが、友人曰く、
「占い師は沢山いるが、霊媒師は少ない。そして、何よりその中でも本物は極一部だから、お客に認められたら短期間で沢山稼げるぞ!」
とのことだったのだ。
実際、占い師の一時間の相場が九千円くらいなのに対し、霊媒師の肩書なら一万五千円くらいとれる。
そんな中、偽暮頼人は、わずか、一か月で一時間二万円を取れる人気になり、半年後には三万円を取っても文句ひとつ言われないまでになっていった。
さっきも言ったが、偽暮頼人はエセ霊媒師であり、やっていることも占い師の延長だ。
霊感もないので、除霊は基本受けず、守護霊を見たり、霊を降ろして占うというスタイルだった。
幸いなことに偽暮頼人は演技も上手だったから、変なところで才能に目覚めたというところである。
偽暮頼人は、霊媒師としての雰囲気を大事にし、借りている部屋の室内は、真っ暗にして照明はロウソクのみ。
自身の姿は占い師によくあるヴェールで目以外を覆い、肝心の目も緑色のカラコンをいれて雰囲気づくりを大切にした。
占いに来る女性にはジプシー系(いろんな占い師のところを渡り歩いている人)が結構多いのだが、雰囲気作りを大切にする偽暮頼人のところに来るお客は、頼人をすぐに信じて、固定客になることが多い。
それくらい、迷える女性の心の隙間を見通すのがうまいのだ。
これも、ブラック営業時代に極限状態へ追い詰められ、感覚が鋭くなっていた時の賜物であったのだが、かといって、ブラック会社に感謝する気は毛頭ない。
それは置いておいて、偽暮頼人は、霊媒師「ライト」として、巷の占い好きの間ではとても当たる人物として有名になっていった。
二年も経つと、いろんなところから取材が来るほどになったが、もちろん、エセ霊媒師であるライトは全て断っていた。
頼人は、これ以上注目を浴びて神経をすり減らしたくなかったからだ。
エセ霊媒師である自分の占いは相手の心を読み取ってこそ成り立つ。
相手の望む心の奥底を言葉にしてあげるのだ。
だが、それは、とても大変な作業であり、神経を鋭くしていないと見落とすこともあるから、大変なのである。
しかし、その努力は常連客に百発百中の霊媒師「ライト」というイメージ付ける事になり、さらに傾倒させることになった。
しかし、その結果。ライトは、お客の求める答えとは違う占いをした事で、逆恨みされ、一週間後、刺されて死ぬ事になったのであった。
「そうか、あの時、刺されて死んだのか」
茶色の髪に緑色の目を持つ赤子のライトは、母親と思われる相手にお乳をもらいながら、考えに耽る。
本当は恥ずかしくて母乳など飲みたくないという葛藤もあったのだが、赤ちゃんの肉体には、母乳は猫にとってのマタタビみたいなものであり、精神もそちらに引っ張られ、抵抗することを諦めていた。
こうして、前世でエセ霊媒師だった偽暮頼人は、異世界で第二の人生を始める決意をするのであった。
「こっちの世界では、なるべく波風立たない環境でスローライフみたいな人生を送りたいな……。室内を見る限り、裕福そうな環境だ。あとはこちらの言葉を覚えて大人達の会話を理解できるようにならないと」
赤子の為、視野がぼやけているライトはそう考えると、自分を抱きかかえている母親らしき女性の口元に集中するのであった。
その時である。
「奥様は、王子殿下をお産みになってから、一度もお越しにならないわ……。これからどうするのだろう……」
という声が脳内に響いてきた。
「バブ?」
これにはライトも驚く。
どうやら、自分を抱いている母親と思った女性は、乳母らしい。
そして、自分は王子らしい。
母親は、冷たい人らしい。
らしい、ばかりだが、そういうことらしい。
さらに不思議なのは、乳母が口を動かして声に出している時は聞き取れない言葉なのに、脳内に響く声は聞き取れた。
これはどういうことだろうか? 念話? いや、読心術ということか? 確かに前世では相手の心が簡単に読めれば、霊媒師の仕事ももっと楽になるのにと思ったことは何度もある。どうやら、こっちの世界に転生した時に、普段、切望していた能力を貰えたようだ。ということは、これが俗にいうチートスキルというやつだろうか?
ライトはラノベ以外ではありえない展開に、心が躍る。
「バブー?(もしかして、ステータス確認とかできるのか?)」
ライトはそう考えると、
「バブー!(ステータス・オープン!)」
と叫んだ。
すると、目の前にステータスが表示される。
一瞬、見たことがない文字の羅列だったが、すぐに、日本語へと変換されていく。
「バブブー!(凄い便利!)」
ライトは喜んで、そう叫ぶ。
それに、自分を抱いている乳母には見えていないようだ。
「バブー……(どれどれ……、僕のステータスは……?)」
赤子のライトは、勇んで目の前に表示された自分のステータスを確認する。
名前:ライト・F(フェイカー)・ランカスター
職業:ランカスター王国・第十王子
年齢:生後二日
固有スキル:エセ霊媒師
「バブ?(第十王子?) バブー……、バブー!?(エセ霊媒師……、エセ霊媒師ー!?)」
ライトは、あまりのショックに赤子の体に精神が引っ張られて泣いてしまい、泣き声が室内に響く。
「あらあら、お漏らしでもしたのかしら?」
乳母はそう言い、新生児のライトを持ち上げると、お尻の部分を嗅いで確認するのであった。
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