第3話 初めての別れ
自分のスキルが胡散臭すぎて人に見せられないものであることを、赤子のライトは、強く感じずにはいられなかった。
「ダー、バブー?(今のところ、誰も僕のスキルに気づいていないみたいだけど、この世界では『鑑定』スキルはないのかな?)」
ライトの疑問はもっともだ。
生まれてすぐ、鑑定で確認しそうなものである。
だが、自分が生まれた時、そんな様子はなかった。
もしかしたら、自分から口にしない限り、スキルというものは気づかれないものなのかもしれない!
と希望的観測をするライトであった。
「ダー……(そんなこともなかった……)」
ある日の午後、お乳を頂いている時、乳母のマーサが大変なことを心の中で考えていることが発覚したのだ。
乳母のマーサは心の中で、
「この王子が乳離れすれば実家に戻れるけど、そのあとはどうしようかしら? 心配なのは、この王子が六歳の『洗礼の儀』で天から変なスキルを授かったら、世間で囁かれている俗説の『乳母のお乳のせい』という言い掛かりをつけられかねないから心配なのよね……。さすがにあの国王陛下の子供だから、変なスキルは貰わないわよね?」
と心配事を漏らすと、ライトの顔をまじまじと見るのであった。
「ダー……。バブー……。(すみません、すでに変なスキル貰ってます……。──変なスキル貰うとそんな言い掛かりを付けられるのか……ごめん、マーサ……)」
ライトは赤子ながらに謝罪するのであったが、その感情が赤子の体だと増幅されてしまい、思わず泣いてしまうのであった。
ライトは、専属メイドであるアリアに抱っこされている時にも、この変なスキル問題が意外に深刻であることを知る。
抱っこしてくれているアリアが、心の声で同じようなことを言っていたのだ。
「この王子のスキルは最低限平凡であることが望ましいわ……。良すぎたら、第十王子でも上の王子達に睨まれるだろうし、変なスキルだとその専属メイドである私の風当たりも強くなる。一番いいのは平凡なスキル。それなら第十王子だし、平和な人生を”私”がおくれそう」
と。
「……ダー、バブー……。(やっぱり、変なスキルは駄目なのか……。その洗礼の儀、どうにかならないのかな……)」
赤子のライトは、頼れる相手は乳母マーサと専属メイドのアリアだけだから、其の二人に迷惑をかけることになるのは、心が痛むのであった。
こうした情報を得ながら、ライトは二歳になった。
この年になると言葉もかなり話せるようになってくる。
この辺りはライトも気を遣うところであった。
というのも、誕生して二年間というもの、必死に乳母のマーサと専属メイド・アリアの話す言葉から言葉を勉強してかなり理解できるようになっていたのだ。
だから、二歳児の割に、ベラベラしゃべれるようになっているから、そこは慎重にしゃべらないといけない。
だから、片言の単語を発して褒められるという形で落ち着いている。
さすがに、流暢に話すと引かれるだろうと思ったからだ。
自分は第十王子。
スキルも変なものが確定している身だから、下手にしゃべって危険分子扱いはされたくないというのが本音だ。
なにしろ専属メイド・アリアの頭で反芻している情報の中には、最近、第一王子と第二王子の仲が良くないらしいというものがあったからである。
その理由は王位継承権問題であり、両陣営がバチバチに衝突しそうな雰囲気っぽいのだ。
そこに二歳でベラベラしゃべる神童王子が現れたら警戒されるのは間違いない。
そんな愚を犯せるわけがないのである。
「こわい……こわい……」
思わず、前世の日本語でそう口にしてしまうライトであったが、それを聞いたアリアは、相手は二歳の王子であるから、そんな子供がしゃべる言葉に、大した意味はないだろうと勝手に解釈してくれるので、難を逃れるのであった。
歩けるようになったライトはすでに離乳食であったから、乳母マーサもその任を終えようとしていた。
だが、専属メイド・アリアだけに任せるわけにはいかないので、まだ、世話をしてくれてはいるが、マーサはすでに、もうすぐ帰れそうだと内心ワクワクしている。
なんだかんだ、この二年あまりお世話になっていただけに、ライトもそれなりの感情が生まれるところではあるのだが、『読心術』で心の中を知っていたから、別れも悲しまずに済みそうだ。
いや、表向きは泣いた方がいいのか?
と思うライトであったが、ここは、状況をよく理解できていない二歳の子供という演出で笑顔で送り出そうと思うのであった。
そして、その日は訪れた。
三歳を前に、マーサは暇を出されることになった。
本人たっての希望だったので、マーサは笑顔である。
ライトは内心で、
少しは悲しそうな顔くらいしろよ!
という気持ちにもなるのであったが、心の中を知っている身としては、その気持ちもわかる。
「ばいばい、マーサ!」
ライトは笑顔で手を振る。
これには、マーサも驚く。
普段は、あまりしゃべろうとせず、表情で訴えてくることが多い子供だったからだ。
ライトにしたら下手なことを言って、神童扱いされたくないから、無口を通していたのだが、この効果は大きく、マーサの目にも涙が浮かんだ。
「ライト王子殿下……、お元気で……!」
マーサはライトに歩み寄って抱きしめると、そう挨拶する。
その時に、ライトもマーサの首に手を回して最後の別れを演出するのだが、思わずいつもの癖で『読心術』を使用していた。
すると、
「良かったぁ……。発達の遅い子供なのかもしれないと思っていたから、これなら私が責められることもないわ……!」
とマーサの安堵の声と涙だったのである。
おいおいおい……!
ライトは感動的な別れの気分になりかけていたので、意外な心の声に内心でツッコミを入れずにはいられない。
出かけた涙も完全に引っ込むライトであったが、『読心術』も使い方を考えないといけないと反省するのであった。
こうして、乳母のマーサとは、すっぱりお別れすることができるライトであったのだが、この翌日には、新たな出会いが訪れるのであった。
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