第22話 白狼族との交流

 明け方に屋敷を囲んでいた白狼族は、ライトとの交渉を終えるとあっという間にその包囲を解き、自分達の領地に帰っていった。


「……死ぬかと思った……」


 ライトは傍にいた専属メイドのアリアに安堵の言葉を漏らす。


 アリアも、それには同感であったから、冷や汗をかいて黙って何度も頷く。


「さすが、ライト様! 見事に白狼族を手懐けてしまいましたね! これで、王都へ攻めあがる日が早まりそうですよ!」


 悪役執事の役割になってきたロイド・ロンド男爵はライトが白狼族の族長フェルンを説得してしまったことに感心する。


 普通なら、ライトが王位に就く気など全くないという言葉に疑問を持つところであろうが、それもロイドにとっては、白狼族に対する方便だと思っているようだ。


「ロイド、さっきから軽率な言葉を口にし過ぎだよ? ここの会話はあちらに駄々洩れだと考えないといけないのに。それに、僕は、白狼族を利用するつもりは一切ないない。そこを誤解しないでください」


 ライトは、はっきりさせておくべきだろうと考え、ロイドの誤解を解くべく、厳しい口調で答えた。


「これは失礼しました。言いたいことはこのロイド、よくわかっておりますよ」


 ロイドは、意味深に答えると笑顔で応じる。


 白狼族に聞かれているから嘘をついていると曲解していそうだ。


 絶対、理解していないよね!?


 ライトは内心でツッコミを入れるのであったが、これ以上は何を言っても同じと考えて理解させるのを諦める事にした。


 それよりも今は、白狼族との間に平和的な交易が行われそうだということで、そこに満足しよう。


 それに何より、自分の命の危機がまた一つ回避できたのだから!


 ライトは安堵すると、お腹が鳴る。


 よく考えると、寝起きに来られたから、朝食も食べていなかったのだ。


「アリア、遅いけど朝食をお願い。──ロイド達もまずは食事してからにしようか」


 ライトはそう言うと、アリアにお願いして自室に戻るのであった。



 それから数日後。


 白狼族から改めて使者が寄越され、交易に付いての話し合いが行われた。


 現状、ライトが与えられたミディアム領は、農地だけが広がる辺境であり、それ以外には特徴のある土地ではない。


 しかし、食糧事情が安定しない白狼族にとっては、食糧だけには困らないミディアム領との交易は有意義なものであった。


 ライトの側も食糧との物々交換のお陰で、魔獣の毛皮や、魔石などが比較的に簡単に入手できることになる。


 あとは、お互いの領地の通行の自由を保障することになった。


 いや、白狼族は自由にミディアム領出入りしているじゃん!


 というツッコミを入れたいライトであったが、さすがにそれは声に出しては言えない。


 今までは問題になってもおかしくない状態であったが、通行の自由が保障されれば摩擦も生まれないだろう、というのも確かだからだ。


 ただ、通行の自由があっても、最初のうちはお互い警戒して商売以外ではなかなか出入りはできないだろう、というのがライトの読みであった。



「……そんなこともなかったね……」


 ライトは自分の予想が外れた事にそう漏らす。


 交渉成立から一週間後。


 領内を白狼族が自由に出入りするようになっていた。


 ライトの住んでいるミディアム領都(村レベルだが)にも白狼族が物珍しさも手伝って遊びに来る者が多かったのである。


 実際、こちらと白狼族では文化が違うので、見るもの全てが珍しいようだ。


 こちらも、普段見かけない蛮族もとい白狼族が思ったより、距離感も近く触れ合ってくるので、怖さ半分珍しさ半分で対応する村人もいた。


 それに、白狼族はこちらから過去に奪ったものの、箪笥の肥やしにしていた通貨など財宝の類を領内で使用できるとわかり、買い物をしてくれるようになったので、これには村人達も喜んだ。


 相手がどうあれ、領主が通商条約を結んだのなら敵ではない。


 そして、ちゃんと支払いもしてくれるとあっては、嫌がる理由もないという事のようだ。


「みんな、逞しいね」


 ライトは、心配しなくても領民達が強く生きている事に感心するのであった。


「ゴヘイ村長も今の状況を喜んでいますし、まずは第一歩ですね」


 専属メイドのアリアが領都(村)が賑わい始めたことを評価するように言う。


「そうだね。それじゃあ、僕もそろそろ本気を出していきたいところかな」


 ライトは意味ありげにそう告げる。


「本気……ですか?」


 アリアはライト真意がわかりかねて首を傾げ、聞き返す。


「僕には例のスキルがあるからね」


「例のと言うと……、『エセ霊媒師』というやつですか……?」


 アリアは誰にも聞かれないように小声でライトに耳打ちする。


「そういうこと。その能力を使用すればここの生活も少しは改善できると思うんだ。──アリアは例えば、何が今不便だい?」


「不便ですか……? 王宮と比べるのは良くないと思うのですが……、井戸水の汲み上げとかトイレでしょうか。王宮では水車によって地下水を地上に汲み上げられていたので、私達はそれを桶ですくうだけで良かったのが楽でした。あとトイレが外の離れにあるので、夜中に行くのは迷います……」


 アリアの悩みはメイドとして女性として困る問題であったから、切実な様子であった。


「そっか。それじゃあ、裏の物置小屋を利用して発明部屋を用意しようか。道具は揃っているみたいだし」


「発明部屋?」


「うん。僕の(前世の)知識を生かして、便利になるものを作る為の部屋だよ」


「こう言っては何ですが、まだ、五歳の坊ちゃんの頭脳と体力、そして技術では、何も作れないと思いますよ?」


 アリアは歯に衣着せぬ物言いでズバリと指摘した。


「ふふふっ。僕のスキルを甘く見ちゃ駄目だよ? 頭脳と体力、技術全てを補える能力を持っているから」


 ライトはそう宣言すると、『エセ霊媒師』スキルの能力、『エセ降霊術』を使用するのであった。

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