第11話 新たな能力

 領主邸は、古い作りではあるが立派で、補修もされている様子であった。


 ライトは扉の前に立つと村長から渡された鍵を鍵穴にさす。


 しっかり、金具にも油がさされてあり、カチャという音と共に、軋む音も少なく扉は容易に開いた。


 定期的に屋敷は手入れされているようで、室内も掃除されていて綺麗である。


「ふぅー。これなら、今日からここで生活できそうだね。──御者さん、荷物を運び込んでもらっていいですか?」


 ライトは、馬車の御者にそうお願いすると、専属メイドのアリアと一緒に部屋の間取りの確認することにした。


 室内は、玄関からすぐに二階へと上がる階段がある。


 そこには、先代の領主の肖像画だろうか? 大きな絵が飾ってあった。


「この肖像画は、時間がある時に撤去しないといけないかな」


 ライトはそう言った瞬間であった。


 背筋に強烈な悪寒が走る。


「うわっ!」


 ライトもこれには思わず震えと共に驚きの声を上げた。


「どうしました、坊ちゃん? 撤去は私も賛成ですが?」


 メイドのアリアはライトの意見に賛同しつつ、ライトの様子に首を傾げた。


「今、尋常じゃないくらい凄い悪寒が走ったんだよね……。──なんだろう今の……」


 ライトは嫌な予感がすると、とっさにステータス欄を開く。


 すると、スキル『エセ霊媒師』の横に、『※強力な悪霊に憑りつかれ中』という表示がされているではないか。


 え?


 二度見するライト。


「……僕、呪われてる……!?」


 ライトは驚いて、この場所にいるであろう浮遊霊を確認すべく能力の『エセ降霊術』を開いてみた。


 するとそこには、「この屋敷で自害した元領主の大悪霊(男爵)」という表示が。


「……絶対これじゃん……!」


 ライトはここで、村長が去り際に自分に大声で何か言っていたのを思い出した。


 ──屋敷には──がいるので、──ください! 今晩は──お休みを!


「……あれってもしかして、『屋敷には(悪霊)がいるので、(気を付けて)ください! 今晩は(うちで)お休みを!』って言ってたのか!」


 と合点がいくのであった。


 そして、それと同時にずっと無くならない悪寒に危険を感じる。


「この地を治めていた先代の領主の悪霊か……。なんで僕に憑りつくんだよ……。──もしかしてこの肖像画を撤去すると提案したから!?」


 そこでようやく、ライトは自分のミスに気づく。


「坊ちゃん、さっきからどうしました? 顔色も悪いようですが、旅の疲れが出たようなら、すぐに寝室を整理してお休みになられますか?」


 専属メイドのアリアはその美貌に心配の様子を浮かべて、そう提案する。


「大丈夫……。いや、大丈夫じゃないけど、休んでいる暇はない気がするから」


 ライトはそう答えると、領主が使用していたと思われる部屋に飛び込み、これまで使用を我慢していた『エセ降霊術』による能力の使用を行うことにした。


『エセ降霊術』は、霊の能力だけを自分に降ろす能力である。


 とても、便利な能力だが、リスクもあり、その能力を使用すると後日、体に反動があるようなのだ。


 それが、どの程度のものなのかは、この地に来るまで試していない。


 なにしろ試している余裕がなかったからである。


「とりあえず、ここに来る間に、『エセ降霊』だけして、いつでも『口寄せ』できるようになった霊を……」


 ライトはそうつぶやくと、『エセ降霊術』ですぐに「旅の僧侶の霊」の能力を自分に降ろす。


 普段はここで終わっていた。


 だが、今回はそこから、その霊の能力を使用するのである。


 ゴクリッ……。


 ライトは使用後の反動を想像して緊張し息を呑むと、その能力を選択した。


 そこには、浄化魔法がある。


「これだ! ──『浄化魔法』!」


 ライトは目的のものを見つけて安堵すると、自分にその魔法を使用した。


 室内を光が照らし、その光はライトの体を包み込む。


 しかし、次の瞬間、ガラスが割れるような音がすると、光は弾けて消えた。


 ライトが嫌な感じがしてすぐにステータス欄を確認すると、浄化失敗と共に、『エセ霊媒師』の能力欄が増えている。


 それは、能力③『エセ除霊』。


「はぁ……!?」


 どうやら、浄化魔法を使用したことで何かの条件を満たしたのか、能力が追加されたらしい。


 だが、あくまで『エセ』というのが気になる。


 しかし、ライトも背に腹は代えられない。


 その新能力『エセ除霊』を試してみることにした。


「『エセ除霊』!」


 ライトがそう言い放つと、ライト自身が光に包まれる。


 そして、周囲で静電気がバチバチと起きた。


 しばらくそれが続き、突然不意にそれも収まると、光も消える。


 先程の失敗とは違い、嫌な感じはしないし、何より悪寒がしなくなっていた。


「……成功、なのかな?」


 ライトは、そう自分に確認するとすぐに、ステータス欄を開く。


 すると先程まで表示されていた『※強力な悪霊に憑りつかれ中』が無くなっているではないか。


「無くなってる! ──うん? でも、それだと『エセ除霊』ってなんだったの?」


 ライトはそう考えると、『エセ降霊術』の方に表示される霊を確認する。


 先程までは、「この屋敷で自害した元領主の大悪霊(男爵)」の表示があったのだが、今は、「この屋敷で自害した元領主の精霊(男爵)」に変化していた。


「……精霊? ……もしかして除霊はできないけど、無害なものには変化させるってこと?」


 ライトはそう結論を出すと、試しにこの精霊を『エセ降霊術』で自分に降ろせるか試してみる。


 すると次の瞬間、室内に光の粒がパッと広がった。


「え!?」


 ライトは一瞬何が起きたのかと、困惑する。


 そして、ステータス欄を確認すると、いつもなら『エセ霊媒師』の横に「※○○降霊中」と表示されるのに、それはなく、「※周囲を精霊が浄化中」というものになっていた。


 そして、霊の確認をしてみると、先程まであった「この屋敷で自害した元領主の精霊(男爵)」の表示が無くなっているではないか。


「……つまり、悪霊を『エセ除霊』すると、除霊自体はできないけど、『精霊化』はできて、その精霊を『エセ降霊』すると、それを使用して周囲を浄化するということ? いや、まだ、結論は早いのかな? そもそもこの精霊って元は悪霊だよね? それが、精霊化するって……、この能力、除霊以上に凄いんじゃないの!?」


 ライトはここまでを自分の中でそのように判断すると、『エセ』という言葉は胡散臭いが、能力自体はかなり優れたものであるように思えるのであった。

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         あとがき


ここまで読んで頂きありがとうございます。


先週の新作1本目(この作品の事です)に引き続き、今週金曜日から新作2本目の投稿が始まっております。


こちらは作者の作風とはちょっと毛色が違うものとなっておりますが、読んで頂けたら幸いです。


また、作品のフォロー、レビュー★、いいね♥、コメントなど頂けましたら作者が間違いなく喜びますので、よろしくお願い致します<(*_ _)>


「異世界童話禁忌目次録(副題略)」

https://kakuyomu.jp/works/16818093084547438520


あ、ついでになりますが、この「転生第十王子は死にたくない!(副題略)」も、今後ともよろしくお願い致します<(*_ _)>

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