第33話 災害級から幸運へ

 村の田畑を荒らす祟り憑きの魔物を討伐することに成功した。


 その手柄は白狼族の戦士ガロということになっているが、もちろん、領主であるライトのスキル『エセ霊媒師』の能力の一つ、『エセ除霊』であったことは、友人である白狼族族長の息子フィロウしか知らない。


 ガロもなんとなくライトが何かしたのだろうということは察していたから、村人の囲まれ英雄扱いされることにも我慢するしかなかった。


 自分が護衛として付いているフィロウがそう望むからだ。


 そんな陰の立役者ライトは、そそくさと深夜の現場から動く物体を持ち帰っていた。


「坊ちゃん、お帰りなさいませ。──それは?」


 専属メイドのアリアが、寝ずにライトの帰りを待っていたのだが、その手には、上着に包まれた何かがあり、それが微かに動いていることに気づいて聞く。


「僕もそれが聞きたいな」


 フィロウもライトが現場から持ち帰ったものに興味を示した。


「多分だけど……、これは精霊……、かなって」


 ライトはそう言うと上着で包んだものをソファの上にそっと置いて上着を外した。


 するとそこには、瓜のような縞模様がある小さな猪のような魔物が眠っている。


「これは、ヘルボアディザスターの赤ちゃん!? ──いや、背中に何か付いてるから別の種類……、なのかな……?」


 フィロウはとても驚いた様子で魔物の名前を口にしたが、特徴が少し違ったのか戸惑っていた。


「ヘルボアディザスター? それって強いの?」


 ライトは魔物に関して無知だったので、フィロウに聞き返した。


「ヘルボアディザスターは、この一帯で文字通り災害級ディザスターと言われている一番危険な種類の魔物さ。白狼族の者でも成獣を討伐するとなると、どのくらい死人が出るか想像もつかない。でも、このウリ坊は背中に何か付いているから、違う種類なのかもしれないけど。だが、これは今回の祟り憑き魔物……、なんだよな?」


 フィロウは、ライトに説明すると同時に、確認の為にこちらに聞き返す。


「うん、この子が基になっていたみたい。僕の(エセ)除霊で憑りついていた魔素の祟り憑きを払ったことで、精霊化したみたいなんだよね……」


 最後の方は確信はなかったので声が小さくなる。


 そう『エセ除霊』は、除霊できないが、悪霊を精霊化することは可能なのだ。


 ただし、精霊化することで霊はその土地を守ってくれるようになると思われるのだが、このウリ坊は祟り憑き魔物として、一応、実態のある魔物だった。


 だから、精霊化することで、どう変化したのか予想がつかない。


「除霊? ──……なるほど、祟りを除霊することで、帯びていた魔素も払われ、元のヘルボアディザスターの子供に戻ったということか?」


 フィロウは、特徴が凶悪な魔物、ヘルボアディザスターではあるものの、害意を感じない可愛いウリ坊だったので、ライトの説明をそう解釈してツンツンと触りながら聞く。


 もちろん、元の魔物どころかウリ坊の体に何かしらの変化を与えた可能性がある。


 それが、背中の何かだ。


 ライトはその背中の何かに指で触れた。


 すると、ウリ坊はピクリと反応して目を覚まし、真ん丸のクリっとした目をライトに向けるとじっと見つめる。


「「「ゴクリッ……」」」


 ライトをはじめ、アリアとフィロウもヘルボアディザスターの子供かもしれないこのウリ坊の反応に息を呑んだ。


 ライトを見つめるそのウリ坊は、目を輝かせてぴょんと跳ねると、ライトの頭上に舞う。


 いや、空をフワフワと飛んでいるではないか。


 そう、その背中の物体は折り畳んだ小さい翼だったのだ。


 ウリ坊はその小さい翼をパタパタと羽ばたかせてライトの頭上を嬉しそうに飛んでいる。


「「「えっー!?」」」


 ライトとアリア、そしてフィロウは深夜の屋敷で思わず大きな声が漏れた。


 しかし、それも仕方がないだろう。


 空を飛ぶウリ坊など聞いたことがないからだ。


「ら、ライト……! このウリ坊、空を飛んでいるぞ……!?」


 フィロウが、深夜ということを思い出し、声を落として、だが、切迫した様子でライトが指摘した。


 アリアも驚いているのは同じで、その指摘に同意するように何度も激しく頷いている。


「そうだね……。でも、悪い魔物には見えないどころか、多分、精霊化しているみたいだから、問題はないと思う」


 ライトはそう言うと、ウリ坊に手をかざす。


 するとウリ坊はライトの手の上にそっと着地する。


 どうやら、ライトに懐いてしまったようだ。


「こうしてみると可愛いよね。そうだ、確か従魔とかは契約で成立するのだったっけ?」


 ライトは、王都にいる時に教育係のレオンから習った知識を引っ張り出して、アリアとフィロウに確認する。


「ま、まあな……。名づけをして、相手が納得すれば、契約が成立する。──でも、こいつは多分、ヘルボアディザスターの変異種だぞ? 大丈夫なのか?」


 フィロウは友人であるライトを心配して聞く。


「ヘルボアディザスターは知らないけど、この子は大丈夫だよ。こんなに懐いているし」


 ライトは、スリスリと頭を擦りつけて甘えてくるウリ坊を撫でながら、そう答えた。


 アリアもその可愛さに目を輝かせると、


「坊ちゃん、私も撫でていいですか……!?」


 と興奮気味に聞く。


「その前に、名前を付けて上げたいのだけど?」


 ライトは意外に冷静でそう提案する。


「そ、そうですね……! それではどうします? ウリとか、ヘルとか、どうですか?」


 アリアは名づけのセンスが無いのか、ド直球な名前を提案した。


「まんまじゃん! でも、わかりやすくてこの子が納得してくれる名前がいいよね……? うーん……、災害級の魔物から幸運をもたらしそうな精霊になったということで、幸運を意味する『ソルテ』でどうかな?」


 ライトがそう提案すると、ウリ坊はまた、ぴょんを跳ねるとライトの頭上をまた、フワフワと飛んで喜びを表現する。


「うふふ、どうやら、気に入ったみたいですね」


 アリアが嬉しそうに舞うウリ坊、ソルテに触りたいのを我慢しながら納得した。


「ソルテか、いいと思う」


 フィロウも納得する。


「ということで、君は今日からソルテだ」


 ライトが改めてそう告げると、ソルテはその体から小さな光を一瞬発して、ライトの頭に着地する。


 そして、


「ブヒッ!」


 と可愛く鳴くのであった。

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