第5話 初めての危機

 また、日々は流れライトはもうすぐ五歳を迎えようとしていた。


 そんな五歳を迎える数か月前から王宮の中心では騒ぎが大きくなっている。


 というのも、国王が病に倒れたからだ。


 広い敷地を持つ王宮でも一番端にあるライトのいる王子宮でも、その報はいち早く伝えられた。


 だが、ライト的にはまだ、一度も会ったことがない父親に何も興味が持てていないのは当然だろう。


 一応、六歳の洗礼の儀で顔を合わせることには、なっていたようである。


 つまり、スキル次第なのだろう。


 そんな父親である国王が病に倒れ、下手をしたら一度も会うことがなさそうな状況になっていたのが数か月前である。


 そこから現在までの間、第一王子派と第二王子派との間で王位継承権を巡る争いはとても激しくなり、誰も止める者がいない状況になっていた。


 まだ、洗礼の儀前の第十王子ライトは、母方のフェイカー家から巻き込まれないようにしなさい、という忠告だけが届いて、この争いを静観していたのだが、第一王子派には、第三王子、第四王子、第五王子が支持を表明しており、ライトも便乗しなくて大丈夫なのだろか、と心配するところではあった。


 だが、教育係のレオン・ロードス子爵の情報では、第六、第七、第八、第九王子は、ライトと同じく静観しているらしく、進んで巻き込まれに行かない方がいいだろうということだ。


 確かに、これで国王が病から目覚めた時、争いに参加していた者は処罰の対象にもなりかねない。


 また、第一王子派と王位継承権を争っている第二王子派には誰も与しておらず、勝敗は決定的だろう。


 そこに、勝利が見えている第一王子派に今さらゴマを磨っても、白い目で見られるだけだし、第二王子派はありえない。


 それに、まだ、洗礼の儀前の自分がどっちに味方したところで、相手にすらしてもらえないだろう。


 ライトもそう考えるとレオンの助言通り静観組に加わったのであった。


 そして、現在。


 専属メイドのアリアから驚くべき情報が飛び込んできた。


「ライト王子殿下。 先程国王陛下がご崩御なされました。 それと同時に圧倒的不利と思われていたザンガ第二王子派に第一王子派だった第四、第五王子が寝返ったようです」


 アリアは淡々と国家の一大事をライトに伝えた。


 この情報は事実であり、争いが激しいとは言っても、兵が動く騒ぎまでにはなっていなかったのだが、この報告以後、事態は急変する。


 第四、第五王子が率いる軍が、ナクナル第一王子の宮を急襲、それに合わせるようにザンガ第二王子も兵を動かし、トラワル第三王子の宮を襲撃したのだ。


 これにより、ナクナル第一王子は、戦いの混乱の中で、敗死。


 トラワル第三王子はザンガ第二王子の兵に捕らえられ、幽閉されることになった。


 こうして、王位継承権争いは、突如、終わることになった。


 父である国王が崩御し、ナクナル第一王子が亡くなった今、争いに勝利したザンガ第二王子が王位を継ぐことになったのだ。


 それはいい。


 下手をしたら、国王の死と共に、このランカスター王国国内を二分する争いになっていたかもしれないのだから、そうなる前に呆気なく決着したのは良いことだろう。


 そういう意味ではザンガ第二王子の作戦は見事なものだったと言える。


 国王崩御と共に第一王子派に与する王子達を寝返らせ、ナクナル第一王子陣営を急襲させたのだから。


 ザンガ第二王子もそれに合わせて第三王子を攻撃し、早々に捕らえたのも見事な判断だ。


 だが、問題はここからである。


 ザンガ第二王子は、空位期間を作るのは国の為にもよくないと、一週間ほどで王位を早々に継いだのだが、ザンガは国王になるとすぐに、第六から第十王子の扱いを発表したのだ。


 そのほとんどは、辺境への配流である。


 そう、ザンガ国王は、日和見を決め込んだ弟達を許さなかったのだ。


 第六王子は、北の雪深い僻地に送られ、第七王子は、意外に王都の郊外に留め置かれるらしい。


 第八王子は西の砂漠地帯の過酷な土地へ送られ、第九王子は東の戦場となっている地域を任される事が決まった。


 そして、第十王子のライトはというと──



「なんだ、第十王子はまだ、洗礼の儀も受けていない幼少なのか?」


 ザンガ新国王は側近の報告に驚いた様子で聞き返す。


 それもそうだろう。


 第九王子でもすでに十二歳なのだ。


「はい。現在、五歳ということです。母方は大人しいフェイカー侯爵家ですから、さほど脅威があるとも思えませんが、扱いはどういたしましょう?」


「第七王子のように、優秀なスキルを持っているかもしれないからな。すぐに洗礼の儀を受けさせ、スキルを確定させよ。そのうえで優秀なら近くに留め置き、無能なようなら監視をつけてそのまま辺境に送ればよい。あとはどうにでもなるからな」


 ザンガ国王は、意味ありげにそう言うと怪しい笑みを浮かべる。


「承知しました」


 側近はザンガ国王の言葉の意味するところを理解しているのか、同じくニヤリと笑みを浮かべると、その準備の為に下がるのであった。



「──ということで、ライト第十王子殿下には、前例がありませんが、明日、教会で洗礼の儀を受けてもらい、ヘスティア神からスキルを授けてもらいます」


 使者は、そう国王からの勅令を読み上げると、その勅令書をライトの傍に立っていたレオン・ロードス子爵に渡す。


「承りました……」


 ライトは当然ながらそう答えるしかない。


 否定などできるわけがないのだ。


 やだー! これで僕のスキルが『エセ霊媒師』であることバレるじゃん!


 ライトは内心絶叫していた。


 そして、第十王子として、送れるはずだった勝ち組スローライフも潰えたことを理解するのであった。

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