第6話 生き残る為に
当然ながら王都のヘスティア教会は神聖な場所であり、その領域は犯すことができない聖域である。
何重にも結界魔法が張られており、ランカスター王国の聖地のひとつであったから、ライトが小細工をしてスキルをどうにかするということはできなさそうであった。
「……詰んだかもしれない……」
ライトは当初、教会の神父をどうにか買収できないかと信用する教育係のレオン・ロードス子爵に相談したのだが、
「そのようなことをして発覚した時、王子殿下の身が危険かと……。──ザンガ新国王陛下は小細工を許さない方のように感じましたので、洗礼の儀は堂々となさり、ヘスティア神よりスキルを賜るのが肝要かと思います」
レオンはどうやら、ライトが良いスキルを貰う為に、神父を抱き込みたいと考えていると誤解しているようであった。
もちろん、ライトはすでに『エセ霊媒師』というスキルを持っており、それが気付かれれば兄であるザンガ新国王に目をつけられるのではないかと考えてのことである。
胡散臭いスキルであるのは確かだし、敵を積極的に潰したいザンガ国王の目にそれがどう映るのか怖いところだ。
だからどうにかしたいところではあるが、レオンの言う通り、小細工をすれば、処断の理由を与えることにもなりかねない。
それだけに、ライトは知恵を絞るのであったが、それがなかなか思い浮かばない。
そんな中で気になっていることもある。
それは『エセ霊媒師』の能力の一つである『エセ降霊術』だ。
実は能力把握の為、この王宮でその『エセ降霊術』というのを試してみようとしたのだが、そこで表示された霊の選択肢が、
・王家に呪詛の言葉を残して自害した女の霊(とある貴族令嬢)
・王家を呪い、国家転覆を謀ろうとした男の悪霊(大神官)
・同僚に心当たりのない罪を着せられ、世の中を呪いながら死んだ男の霊(有能官吏)
・当時の国王に冷遇され、無念のうちに亡くなった女の霊(とある国の王女)
・
・
・
このような明らかに降霊させたら危険としか思えない霊ばかりが、無数にずらっと選択肢に並んでおり、流石にそれらを降霊させる勇気がなかったのである。
どうやら、その場所を浮遊する霊を降霊させる能力らしい事はわかっていて、その日、その日で、漂っている霊が違うこともあった。
もちろん、地縛霊なのか必ず選択肢に出てくる霊もあったから、最近ではそれを見ると憂鬱になるので、ライトはこの能力について確認しなくなっている。
だが、それも言っていられなくなってきた。
『エセ霊媒師』で使える能力は『読心術』くらいで、それも使える範囲がほとんど接触している相手でないと発揮できないという欠点がある。
それだけでは今回の苦難を乗り越えるのは不可能に思えたから、避けていたこの『エセ降霊術』を使えるようにしておくほかなさそうだ。
洗礼の儀を明日に控えたライトは、五歳の体に鞭を打って、普段なら眠ってしまう夜中に『エセ降霊術』を試してみることにするのであった。
そして、深夜。
ライトは眠気に襲われながらも脇腹をつねることでどうにか眠らずに起きていた。
「……メイド達も控えの間で待機している者以外、みんな寝静まったようだし、始めるか……」
ライトはそう独りつぶやくと、自分のステータス一覧を開き、能力欄をタッチする。
そこに能力②『エセ降霊術』、の表示があるから、そこをまたタッチした。
すると、いつもの通り、現在降霊できる霊の候補がずらっと表示される。
「……相変わらず、呪いとか無残な死を遂げた悪霊系が多いな……。良い霊は成仏したり、僕みたいに転生とかしてしまうのかな?」
ライトはそんな愚痴とあの世の想像をしながら、どれにするか選ぶ。
「何々……、王妃に叶わぬ恋をして無念のうちに亡くなった男の霊(宮廷魔術師)? ──これなら、まだ、降霊しても僕には害悪もなさそうかな?」
ライトは初めて見かける霊? の選択肢で手が止まる。
そして、少し悩んだ結果この霊に決定した。
「……うん? 何も起きないぞ? いや、もしかしたら、王妃に対する無念な気持ちになっているのかな? ──そうでもないな……。──まさか、失敗……!?」
ライトは不審に思い、ステータス一覧を開いて確認してみる。
そこには、『エセ霊媒師』の横に、『※エセ降霊中』の表示が出ていた。
だが、身体的には何も起きていない。
全く何かが降りてきている感覚がないのだ。
「……何が『エセ降霊中』なんだよ……。やっぱり、エセということは、降霊自体はできていないってことかな? ……うん?」
ライトはステータス一覧のある変化に気づいた。
「あ……! そういうことか! ということは……、うん、やっぱりそうだ……。──確かにこれは『エセ降霊術』だね。はははっ」
ライトは自分にしか見えないステータス欄を見て一人納得すると、何度も確認する。
「これなら、明日の洗礼の儀はうまく乗り切れるかもしれない……。いや、乗り切らないといけないんだ。第七王子の兄上が王都近郊に留め置かれたのは、有能なスキル持ちだったからだと思うから、僕は無能でいい。明日は無能で乗り切るぞ……!」
ライトは安堵の笑みを浮かべると、急に緊張の糸が解けたのか睡魔が襲ってくる。
「今日はもう寝て、明日に備えよう……。明日を乗り越えれば何とか僕は生き残れるはずだ……」
ライトはそうつぶやくと、ベッドに入る。
そしてすぐに、ライトから寝息が聞こえはじめるのであった。
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