第52話 治療の旅へ

 ライトは領内にいる治癒魔法を使用する医者をすぐに領都に呼び寄せ、白狼族の友人フィロウと今回の護衛役ロウと一緒に南の国境を越える事にした。


 ライトの治めるミディアム領は現在、南の国境を三つの部族の領地が接しており、そのうちの白狼族、黒猿族とは友好関係を結んでいる。


 今回、ロウの話では、その黒猿族の領地の西端に位置する村に治療してほしい相手が病に臥せっているらしい。


 元々、白狼族の族長フェルンや黒猿族の族長コーグから内臓系に効く薬を集めてほしいという依頼から、『強欲の女商人』の異名を持つネイにお願いして南部領の周辺で効果のある薬を集められるだけ集めていた。


 両部族の使者には誰を治療するのかと聞いても、自分はわからないの一点張りであり、あまりに怪しいのでライトも無邪気な子供のフリをして使者に近づき能力である『読心術』で心を読むのであったが、本当にどちらも誰に使用するのかわかっていなかった。


 だが、今度は、白狼族の族長フェルンの腹心であるロウを相手に能力を使用したら相手の名前は、「メリノ」という事だけはわかったのだが、それ以上の事はわからない。


 ロウの心の声では、族長フェルンの大事な人らしいのだが、息子のフィロウ以外に家族はいないはずだから、謎は深まる一方である。


 わからなければ直接聞けばいいとも思うのだが、「メリノって誰?」とはさすがに聞けない。


 いきなり固有名詞がライトの口から飛び出したら、それこそなぜ知っていると疑われるのがオチである。


 ライトとしては、相手の心が読める『読心術』だけは誰にも知られてはいけないと思っていたから、情報の使い道は難しいところだ。



 ライトは馬車に揺られ、御者にはいつも通り、専属メイドのアリア。


 頭の上には護衛役も兼ねている従魔で魔物精霊のソルテを乗せているのもいつも通りである。


 そして、今回、各地から薬を集めてきた女商人のネイも同行していた。


 薬の説明ができる者がいた方がよいという判断だ。


「坊ちゃん、どうにも、きな臭い気がするのはあたしの気のせいかい? ロウの旦那の説明はどうにも歯切れがよくないし、黒猿族の西端だっけ? そこって、言うならミディアム領と交友関係にまだない赤羊族の領地と隣接しているって事よね? そんなところにあたし達が乗り込んで問題にならないかい?」


 ネイは商売人として嗅覚が鋭いから、どこか命の危うさを感じたのか、今ある情報を分析してそう指摘する。


「……確かに今向かっている村は、赤羊族との境界線にあるので両者の出入りが多い場所です。だからこそ、部族以外の者が訪れるとただでさえ目立つので、あまり騒いでほしくないのですよ」


 ロウはネイの指摘通り、奥歯にものが詰まった物言いで、あまり追及をしてほしくない様子で答えた。


「……ロウさん、何か事情があるのでしょう。だからこそ、僕達も日頃のお礼も兼ねて協力させてもらっていますが、さすがに命を掛ける事態ならば先に話してもらいたいところです」


 ライトもネイの指摘とロウの反応から不穏なものを感じてお願いする。


「……そうならないように、こちらも動いているのです。なので、極力大人しく、且つ、しっかり病人の治療を速やかにして頂けたら助かります」


 ロウはそれでも、詳しい事を話せないのか回りくどく告げる。


「……わかりました。でも、今回来てもらったこちらの医者は治癒魔法と多少の医療技術があるという程度なので、それ以上の病魔の場合は、僕が代わりに診ますね」


 ライトはロウの言葉に本気なのか冗談なのかわからない口調で応対した。


「ライト、お前医者も出来るのか?」


 今回、馬で同行している友人であり族長の息子であるフィロウが、話を聞いていたのか驚いた様子で聞く。


「ちょっと、(心当たりのある霊を)知っているだけだけどね。それでも、何かしら協力はできると思う」


 ライトも回りくどく答える。


 これには馬車の後ろに付けた馬上で話すロウも、言葉に詰まった。


 なにしろまだ、相手は六歳の少年領主である。


 医術の心得があると言っても、ままごと程度だろうとしか思えない。


 しかし、白狼族最強の戦士であり同僚であるガロのこれまでの報告から、ライトが子供とは思えない剣の腕や知識、魔法を使用する姿も確認されている事から、一概に否定できないのも確かである。


 それだけに、どう反応していいのかロウも判断に迷うのであった。



 ライト達一行は、途中の村で過ごすなどして三日後には目的地に到着した。


 その村は、意外に人が多いところで、交易が盛んな土地に見える。


 実際、黒猿族の者や白狼族の者も出入りしていた。


 それ以外の部族衣装をまとっている者達もいるところを見ると、それが赤羊族の者達なのかもしれない。


 ライト達はその者達の視線を避けるように、村外れにある大きな家に案内される。


 どうやらそこが、病人がいる場所なのかもしれない。


「ここに患者がいるのですか?」


 ライトは同行している医者を代弁するように、確認する。


「そのはずです。村の方ではライト殿達が目立つのでこちらに移動をお願いしたので……。──ちょっとお待ちください、確認してきます」


 ロウはそう言うと、馬から降りて、大きな家に入っていく。


 ライト達も馬車から降りると、大きな家の前で待機する。


 するとロウと一緒に、一人の男が家から出てきた。


「……そちらは?」


 ライトは、村で見かけた多分赤羊族衣装と思われる服を纏った者について、答えを求める。


「ロウ殿。部外者の子供を連れてくるとは聞いていないが? ──まあ、いい。表では目立つので中に入ってください」


 男は淡々と告げると、ライト一行を家に招き入れるのであった。



 室内に入って奥に通されると、何人かの者達がライト達をじっと見つめている。


「……どうやら、私達、値踏みされているみたいですね」


 専属メイドのアリアが、ライトの傍を離れないようにピタリとつき、小さい声でつぶやく。


「……みたいだね。相手は僕の交友関係に入っていない部族みたい」


 ライトはこの事からようやく、想定していた答えの一つである赤羊族の偉い人物の病人であるようだと、周囲の人物達の部族衣装から一つ答えが出るのであった。

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転生第十王子は死にたくない!~辺境に追放されたけど、命が危ういのは変わらないので、怪しいスキルを駆使して生き延びます!~ 西の果てのぺろ。 @nisinohatenopero

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