第24話 王子達の現状
第三王子トラワルの、王宮からの逃亡劇による死は、ライトの指摘通り、世間から同情を買うことはなかった。
王位継承権争いに敗れて亡くなった第一王子ナクナルに世間は同情的だったが、その後の新国王ザンガが国内の混乱を見事に収めたこともあり、ある程度の評価をされるようになっている。
もちろん、それは表面上だけのことかもしれないが、混乱が短い期間で済んだのは、国民としては生活が無駄に悪化しなくて良かったというのが本音であった。
そこに、第三王子トラワルがザンガ国王の統治を認めず、逃げ出したとあっては、国民も眉をひそめるというものだ。
逃げ出すということは、また、争いが起きる可能性があるということを示すものだからである。
だからこそ、逃亡の末に手引した者と争って亡くなるということには、同情する者は少なかったのであった。
まあ、全てはザンガ国王の罠であり、同情されないように前もって準備をしていたからであるが……。
この逃亡劇には余談がある。
王都には当時、第三王子トラワル以外に、争いに加わらなかったことで結局、日和見主義を問われて王宮に幽閉されている者が他にいた。
それが、第七王子リコルである。
その第七王子リコルは、優秀なスキルの持ち主らしく、国王ザンガもそれに対して警戒していたから、他の王子達のように辺境への左遷ではなく、王都に留め置かれていた。
そのリコル王子のもとにも実は、手引をする者が接触していたのだ。
だが、その話には乗らなかったのである。
第三王子トラワルも一緒に逃亡すると聞いていたらしく、普通なら同士がいるなら安心してこの話に乗りそうなものだが、リコル王子は、逆であった。
リコル王子は可能性として、トラワル王子殿下と一緒だと、自分が脱出の為の囮に使われる可能性があること、これが単純に罠の可能性があること、国外への逃亡は王族として示しがつかないことなどが頭をよぎったのだ。
だから、リコル王子は手引の者に断りを入れ、脱出を図ろうとするトラワル王子にも脱走しないように説得を試みた。
しかし、トラワル王子はそれを聞き入れず、脱走する。
そして、案の定というか罠だったことをリコル王子は知ったのであった。
この時、手引した者が自白したという体でリコル王子にも嫌疑が掛けられたが、リコル王子はトラワル王子に脱出しないように説得したり、手引する者に止めるように注意して接触を断っていたという証拠を持っていたので、追及する糸口をザンガ国王に与えなかったのである。
実際、リコル王子は自分に対して、手引する者がいたことをザンガ国王に報告していた。
トラワル王子のことについては黙っていたが、説得をギリギリまで試みていたことも、手紙が証拠として残っていたから、兄弟の情としてそれが精一杯だったと言い訳されればザンガ国王もそれ以上は追及が難しい。
世間もリコル第七王子については同情的であったことからも、強引に連座で処罰することはできなかったのであった。
リコル王子は他の王子同様、監視が付いている。
リコル王子は十五歳。
成人まであと一年ということもあり、ザンガ国王が一番警戒しているのは、このリコル王子かもしれない。
もちろん、第三王子であるトラワルはすでに成人しており、次の国王の座に近かったのはこちらなのだが、利口でスキルも優秀という評価を受けていたから、ザンガ新国王としてはトラワル第三王子と共に、リコル第七王子も消したかったのが本音であろう。
それに、この王子がザンガ国王の罠を回避し続けることで、他の王子達の命が長らえる事になるかもしれない。
そうなると第十王子のライトとしては、この出会ったこともない兄の一人、リコル第七王子を応援したい気持ちであった。
「今回のトラワル第三王子の脱走未遂死亡事件でリコル第七王子の兄上の存在を知ったけど、他の兄上達はどうしているんだろうね?」
ライトは南のこの辺境ミディアム領で蛮族もとい他種族に囲まれ、危険な状況にあった。
今でこそ白狼族とは友好関係を結ぶことは出来ているが、他にも『黒猿族』、『赤羊族』もおり、決してライトの立場が安全になったわけではないのである。
「第六王子殿下は、北の雪深い僻地に送られています。噂では一年中雪が無くなることがない土地だとか。ここからは想像もできませんが、大変厳しい環境だそうです」
悪役執事? であるロイド・ロンドが仕入れた情報の一部を披露した。
「一年中!? それは大変だね……。──それじゃあ、第八王子の兄上は?」
ライトは一年中寒い土地を想像してゾッとすると、他の王子のことを聞く。
「第八王子殿下は、西部地方の砂漠地帯に送られたはずです。あそこは一年中酷暑で水がとても貴重だとか。水を争って紛争が起きることも度々あり、治安がよくないことで有名です」
ロイドは頭の中の情報を引き出して簡単に説明した。
「一年中酷暑!? それは厳しいなぁ……。兄上には悪いけど、送り込まれたのが僕でなくて良かったよ……。──第九王子の兄上は東部地方だったっけ?」
ライトは自分が汗だくになってシワシワになるのを想像し、眉をひそめると他の兄の様子を聞く。
「おっしゃる通り、第九王子殿下は東部地方に送られています。あそこは王子達の中では一番最悪の場所かもしれません。なにしろ現在、あそこは隣国と戦争状態ですからね。最近、落ち着いてはいるようですが、いつ死んでもおかしくない土地と言えます。そういう意味では暗殺や事故で死んでもおかしくないかと」
自分もそちらの監視役に選ばれなくて良かったとばかりにロイドは安堵のため息を吐いた。
「戦場が近い土地……かぁ……。確かにその状況では、いつでも殺される状況にあるというか、いつ死んでもおかしくないよね……。──そして、第十王子である僕がいつ敵対種族に殺されてもおかしくない辺境の田舎送りか……。みんなとんでもない土地に送られていることを考えると、僕も贅沢を言ってられないのかな……。──って、いやいや! 本来なら僕も王子の一人なんだから王都で勝ち組生活送られたはずじゃん! 今、自分も不幸な状況なのに少しの差異で幸せな方だと納得しそうになったよ……。油断したらいつ死んでもおかしくないんだから気を引き締めないといけない!」
ライトは自分にツッコミを入れると、現状はほとんど何も変わらず、命が危険な状況であることを自分に言い聞かせるのであった。
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