第25話 地道の作業と発明と
体調が戻ったライトは、周囲が望む姿、農業に力を入れることにした。
ライトのスキルは一応、『聖なる農家』というものになっているからだ。
監視役のはずであった悪役執事ロイド・ロンドはこちら側に寝返っているが、だからと言って、他の誰からかこちらの動静が近隣の国王派である辺境伯の耳に入らないとも限らない。
だからこそ、普段は農業に力を入れて、スキル通りの活動をしている体を装っておく必要があると考えたのである。
とはいえ、ライトはまだ、五歳。
鍬で畑を耕すのも本当は一苦労である。
だからこそ、普段から『エセ降霊術』で農家の霊(の能力)を自分に降ろしてしっかり働くことにした。
当然ながら翌日はその反動で動けなくなるのであるが、それもセットで領民達には知ってもらうことにする。
まだ、五歳の子供が領民と共に畑仕事を行い、翌日は倒れて動けなくなることを繰り返している、と広めてもらう為だ。
これが上手く辺境伯や国王の耳に入ってくれれば、ライトを侮ってくれるだろう。
もちろん、悪役執事ロイドが、偽の報告を辺境伯や国王に手紙で知らせるのだが、噂でも同じことを耳にすれば確信して疑うこともないだろう、という狙いである。
それからはライトは畑を耕しては倒れる、を繰り返して虚弱体質な領主様として領民に知られることになるのであった。
「新しい領主様は、大丈夫かね? 毎回、野良仕事をしたら翌日には倒れるんだろ? 無理をしない方がいいんじゃないか?」
「それもまだ、五歳なんだべ? 村長にお願いして無理をしないように言った方がいいじゃないかい? まだ、小さいんだからさぁ」
「大したもんだよ。野良仕事なんて今までの領主様はやったことないからな。それをまだ、五歳なのにやるなんて俺は尊敬するぞ」
「オラもだ。だが、だからこそ、体には気を付けて欲しいべ」
こんな感じで、領民達からは意外なことに好感を持たれる結果になっていた。
ライトは当然ながら自分の命を守る為、作戦として農業を行っているだけなのだが、それが直向きに見えるので、領民達の心を鷲掴みにしたのは計算外のことであった。
「思わぬことで人気になっているみたいだね……」
ライトは、寝室のベッドで苦笑すると、専門メイドのアリアに予想外のことを漏らした。
「それでも毎回、翌日には体に走る痛みで動けなくなるのに、嫌がる事無く続けているのは偉いですよ。私ならマネできないです」
アリアは感心してライトを褒めた。
最初の数日は、アリアもライトを止めていたのだが、それが良い結果となっているので、今は痛みを和らげることはできないかと、日々模索中である。
以前のように自分中心であったアリアも、頑張っているライトに影響を受け、自分に出来ることをやろうとしていた。
ライトがそれを知ったのは、能力の一つである『読心術』でアリアの心の中を知ったからである。
どうやら、ライトが寝静まった後は、ライトの体に良さそうな料理を試したり、マッサージを研究したりもしているようだ。
あとは、ライトの身を守る為、メイドになって以来、行っていなかったナイフ術の特訓も夜な夜な行っているらしい。
僕が生まれて五年間、一緒に過ごしてきたからなぁ……。僕もアリアの献身に応えられるように頑張らないと。
ライトはそう思うと、領主として、主として、自覚が増すのであった。
それに、続ける事で畑仕事も苦にならなくなっていたし、その反動の痛みもある程度慣れつつあるのであった。
「領主様に注文された品が出来たのでお届けに参りました」
ある日の昼過ぎ。
食事休憩の為、畑仕事から屋敷に戻ってきたライトのもとへ、鍛冶師がそう言って、完成したものを届けにきた。
「おお! もう、出来たの!? それじゃあ、裏庭に運んでもらってもいいかな?」
ライトは鍛冶師の訪問に喜ぶと、裏庭にある井戸の傍まで完成した品を運ばせた。
すぐに悪役執事のロイド、庭師のキリも何が出来たのかと興味津々という雰囲気で集まってくる。
すでにアリアはライトの傍という一等席でその品をまじまじと見つめていた。
「坊ちゃん、これは一体何なんですか?」
「ライト様、これをどのように使うので?」
「設置するなら俺が手伝います」
アリア、ロイド、キリはそれぞれそう言うと、鍛冶師と一緒にその謎の物体の設置を手伝うのであった。
しばらく、ライトの指示のもと、わちゃわちゃしていた一同であったが、設置を終えた鍛冶師が、
「自分の作ったものがどんなものなのか見届けても良いですか?」
と聞くのでライトはそれを許した。
ライトはその井戸に設置された物体、手押しポンプのハンドルをギコギコと鳴らして上下させる。
すると蛇口から水が飛び出してきた。
「「「おお!」」」
その場にいたライト以外の一同は驚いて声を上げる。
「これは、魔法ですか!?」
「なんと、このような代物だったのですか!」
「……これは凄い!」
「これを俺が作ったのか……!?」
アリアもロイドもキリもそして、鍛冶師も全員が仕組みのわからないこの手押しポンプに感動する。
「これでアリアも大変な水汲みが楽になるでしょ?」
ライトは日頃からお世話になっているアリアに対して、お礼の意味を込め、プレゼントとの意味でそう告げる。
「坊ちゃん……。ありがとうございます。でも、こんな凄いもの、商品化した方がいいのでは……?」
アリアはこの貧しい領地の売りになるのではないかと思ってそう提案する。
「あははっ。その為に作ったわけじゃないからね。あ、でも、商売にしたいなら鍛冶師さんに任せますよ?」
ライトは自分の名前がでるのは危険だから、そう提案した。
「え? 俺ですか!? ──これは画期的な代物ですから、また、作りたいです。でも、本当にいいのですか?」
「ええ、もちろん! ──じゃあ、その為の契約書を作りましょうか」
ライトは笑顔で応じると、自分の名前は出さない、利益は折半など細かい決めごとを決定して鍛冶師と今後の契約を交わすのであった。
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