第34話 精霊様
田畑を荒らす祟り憑き魔物の討伐を果たしたことで、ヘルボアディザスターの変異種であるウリ坊従魔を得ることになったライトは、幸運を意味するソルテと名付け、早速、お気に入りになっていた。
驚くことにそのソルテは、精霊化したからなのかウリ坊ながら、とんでもない魔力を持っている様子であった。
というのも、悪役執事であるロイド・ロンドが翌朝、頭の上にちょこんと可愛らしく乗っているソルテを見るなり、
「ライト様! これはもしや精霊様では!? とんでもない魔力を感じますよ!」
と言うのである。
「そうなの?」
ライトはロイドが何を感じているのか、全くわからなかったので素直にそう聞き返した。
「ライト様、私が元々ライト様の監視を任されたのは、探知系能力に優れていたこともあるのです。と言っても多少ですけどね。魔力に関してならある程度感じることができるのですが、その頭に乗っている精霊様? は少なくとも私レベルでもその神々しい質と強い魔力を感じることができます。これはとんでもないことですよ?」
ロイドはライトの頭の上の物体、ソルテをいろんな角度から見ながら、そう告げる。
「……そうなんだ? ──うーん、ソルテ。その魔力とか抑えること出来るかな?」
ライトはロイドの言葉にただならぬものを感じたので、あまり目立つのはマズいと考え、ダメもとでお願いしてみた。
『はーい!』
「え……?」
ライトはロイドが近くにいたので思わず、『エセ霊媒師』の能力の一つである『読心術』を発動していたのだが、それに対してウリ坊のソルテが反応したから驚いた。
「お? 急に魔力を感じなくなりました。どうやら、ライト様の言葉を理解されていているようです……。これは、素晴らしいですよ! 精霊様を操るライト様。これは王位に就く時に箔が付きそうです!」
ロイドは、手放しで喜ぶ。
「ロイド、そういうのはいいから、ね?」
ライトはまた、この悪役執事が自分を王位につける為にいろんな考えを巡らしていることは、心を読まずともわかったので、一応釘を刺す。
「失礼しました」
ロイドは軽々しく語って、誰かに聞かれるとマズいでしょ? という風に受け取って素直に謝る。
「ところで、ライト様。明日から数日、留守にするのですよね?」
ロイドはライトの日程を確認した。
「うん、白狼族の村に行くからね。もしかして、ロイドも行きたいの?」
「言ってみたいのは山々ですが、さすがに、領主邸を留守にするわけにもいかないですからね。ライト様が留守の間は私がここを管理しておきますよ。それでですが、白狼族との交易で得た財宝や宝石、魔石に毛皮などの高価な代物を現金化する為に信用できる商人を探さないといけないな、と考えていたのですが、それはライト様が戻ってきてからまた、検討しましょうか」
ロイドは少し考え込むと、ライトに確認を取る。
どうやら、このミディアム領を発展させる為に、色々と考えてくれているようだ。
「商人かぁ。僕も伝手が無いからなぁ。──そう言えば、ここの村を訪れる行商人はどうなの?」
ライトは、ふと以前、領主邸に顔を出した行商人を思い出して聞いてみた。
「あの行商人は、白狼族が村を出入りするようになってからは、見かけていないですね。もしかしたら、白狼族を怖がって避けているのかもしれません。お陰で村の者達がここでは入手できないものを外に買いに出かけるという行商の真似事をしているようです。この屋敷で必要なものも村の者にお願いして他所から買ってきてもらっていますし。──まあ、あの行商人程度ではこちらの願いを聞くことは難しかったと思いますが……」
ロイドは実は交易のお陰で収入を得ている反面、それを使う場面が無くなっていることを指摘した。
「そうだったの!? 道理で最近見かけないと思っていたんだよね……。わかったよ。それじゃあ、白狼族の村から戻ったら、商人問題について話し合おう。でも、話し合うだけじゃ見つからないよね?」
「その点も含めてですね。よその村や街に見つけに行くことになるでしょうから、それを行う者も決めないといけないかと。残念なことに人手不足が一番の問題ですから」
ロイドはライトの為に、日頃の雑務から部下の育成など、いろんなことを行っているようであったが、足りないものが多すぎて困っている様子であった。
これまでは、何とかライトに相談せずに済ませられるように頑張っていたようだが、相談するということはかなり問題化しているという事だろう。
「……わかった。それじゃあ、その点も後々話し合おう。今日は、フィロウとガロから白狼族の作法を教わる予定だから、さっさと食事を済ませようか」
ライトがお腹を鳴らしてそう答える。
「あ、気が付かず、お邪魔をして失礼しました! ──アリア殿、あとはお任せします」
ロイドは呼び止めたのを謝ると、自分の仕事に戻っていくのであった。
「──ということで、アリア、食事をお願い。そして、ソルテ。僕の声が理解できていたんだね?」
『うん!』
「まさか、僕も『読心術』でソルテの心の声が聞こえるとは思わなかったよ」
『へー、そうなんでしゅね。……って、僕の言葉がわかるのでしゅか!?』
ソルテは言葉通り驚き、ライトの頭上でびっくりしたリアクションを取る。
「はははっ。そうみたいだよ。まあ、頭の上に乗っている時だけだとは思うけどね」
ライトの『読心術』は、それこそ近距離でないと心の声を聞きとることができないから、会話できるのもその時だけだ。
『ライト様と話せて良かったでしゅ。今なら言えるでしゅ。助けてくれてありがとうでしゅ! お陰で、祟り憑き魔物という苦しく辛い姿から解放されたでしゅ』
ソルテはそう言うと、ぴょんと頭上で跳ねると、ライトの上でフワフワと飛んでみせる。
「あの姿だと苦しかったんだ? 助けることができてよかったよ。お陰でソルテと仲良くできたしね」
ライトはそう言うと、フワフワ飛んでいるソルテを掴んで頭にまた乗せる。
『これからは、その恩に報いる為に、ライト様の従魔として、頑張るでしゅ!』
ソルテはそう言うと、ライトの頭上で前足を上げるのであった。
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