第45話 引き続き商人探し

 ライトと一行は、何件もの商会を回って、同じく手にしていた三等級魔石を鑑定してもらい、価格を確認するという作業を行っていた。


 中には五歳のライトが相手という事で、価格を低く見積もって鑑定する者いたし、ライトを騙そうとした鑑定人がそっくりという事で、すり替えた七等級魔石と勘違いして鑑定する者など、あまり、芳しい結果は得られなかった。


「うーん……。商人が欲に忠実で少しでも儲けようとするのはわかったけど、商売相手に相応しい人はいないなぁ」


 ライトは、そうぼやくと魔石を鞄に戻して歩き始める。


 頭の上にはソルテ、隣には族長の息子フィロウ、後ろには専属メイドのアリアと族長フェルンが続く。


「なんだ、それなら私が代わりに商人相手に鑑定させた方が、正当な評価をする相手が見つかりやすいのではないか?」


 族長フェルンが、そう提案した。


「いえ、子供の僕を相手にも正当な価格を付けてくれる人が良いんです。そのくらいの相手でないと、辺境のミディアム領で僕達相手に商売してくれるとは思えませんから」


 ライトはライトなりによく考えたうえで、自分で商会巡りをしていたのだ。


 子供相手でも商いを真っ当に出来る、損得勘定をしっかりできる目利きを探していたのである。


 それには、鑑定人相手に自分自身で魔石を見せ、距離を縮める事で『読心術』を使える距離に持ち込む必要があったのだ。


 ただ、今のところ、その方法が成功していなかったので、ライトは商人という生き物が、騙してでも一小銅貨でも多く稼ごうとする執着心の強いものなのかとうんざりしつつあった。


 そして、ついにいろんな商会を巡った結果、後回しにしていた大きくない商会の番になってしまう。


「うーん……。こんなに小さいところだと、ミディアム領まで人材を派遣してくれる余裕がなさそうだから可能性としてはグンと下がると思うんだよなぁ……」


 ライトは背に腹は代えられないとばかりに、小さい商会の前に立ってぼやいた。


 そこに、タイミングよく、引き戸が開く。


「出て行ってやるよ! こちとら、こんな小さい商会で満足しようと思っていないからな!」


 扉を開けた女性が、お店の奥に大きな声で啖呵を切る。


「そうしてくれ! そもそもお前が、先代の隠し子だったという事にも納得していなんだからな! うちの財産をちょろまかす前に出ていけ!」


 奥にいた店主が、売り言葉に買い言葉なのか、女性に酷い言葉をぶつける。


 女性は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて振り返ると、ライトがそこにいたので、軽くぶつかった。


 その女性はスタイルがよく、化粧っ気がないがとても美人に見えた。


 年齢は若く、十八歳くらいだろうか?


 黒髪を後ろで無造作に紐で縛り、動きやすいズボンを履いている。


 肩掛け鞄のみの身軽な格好なので、もし、商会を追い出されるのなら、とても困りそうであった。


「おっと、ごめんよ。──なんだい、坊や? ここの店は止めときな。あたし無しではまともな商売が出来ない商会だからね。昔は、繁盛してたが、今ではこの有様さ」


 女性はライトに謝ると、ライトをお客と見たのか、そう警告する。


 ライトはそんな中、ぶつかった拍子に『読心術』を発動した。


 これはもう、条件反射であった。


(あたしは本当に先代の娘じゃなかったのかもしれない……。先代はあたしが困っていたから知り合いだった母の遺言を聞いて、自分の隠し子だと嘘をついてくれたのかもね……。どちらにせよ、これで出ていく踏ん切りがついたわ)


 ライトはその声を聞いて、これも条件反射で、今度は『エセ降霊術』を使って周囲の霊を確認する。


 そして、


 ・『義理人情のタカ』の異名を取った商人の霊※実の娘の守護霊


 という表示を確認すると、


「もしかして、この商会の先代とは、『義理人情のタカ』の異名を持つ商人の事ですか?」


 と女性に聞く。


「そ、そうだけど……、坊や、先代の事を知っているのかい?」


 女性はとっくの昔に亡くなっている先代の名前を五歳の少年が知っている事に驚いて思わず対応してしまう。


「直接知っているわけではないですが、そのタカさんは、あなたの実の父親として守護霊になっているので安心してください」


 ライトは『エセ降霊術』で周囲の霊を表で確認した結果の事実をそのまま女性に伝えた。


 女性はその言葉にポカンとして、ライトを見つめるのであったが、お店の店主に、


「うちの前でうろつくな、さっさと出ていけ!」


 と怒鳴られたので、ライトの背中を押してその場を離れるのであった。



「坊や……、さっきの話だけど、どういう事だい?」


 女性はこれまで世話になっていたであろう商会から離れた通りまで移動してから、ライトにさっきの言葉の意味を確認する。


「そのままの意味ですよ。僕、霊の存在を確認できる程度には霊感があるので」


 ライトはある意味嘘はついていない。


 実際、霊を感じる程度には霊感もあるし、それをステータス欄で確認する事はできているから事実である。


「……つまり、あたしには先代が守護霊として憑いてる……、って事かい?」


「はい」


「見えるの?」


「ある意味、(文字では)確認できますが、どういう姿かはわかりませんし、話せもしないですけどね」


 ライトはとんちのような返事をするのだが、女性はそれを聞くと、一気に目に涙を浮かべた。


「そうかい……。あたしは血の繋がりもない赤の他人かもしれないという疑いの中、ずっとあそこの商会で働いてきたけど、先代は本当にあたしの親だったのね……」


 女性はこれまでずっと、先代の親族からつらく当たられても先代との血筋が繋がっている事をどこか信じ続けてずっと商会に尽くしてきたのだろう。


 だが、親族は隠し子の女性を信じず、先代の気の迷いで引き取ったと思っていたという事のようだ。


 ライトは女性の心の声を『読心術』で聞くと、先代が亡くなってから十年以上、酷い扱いをされてきた事を知る。


「あの……、お名前を聞いていもいいですか? 僕はライトと言います」


 ライトは、同情からではあったが、『読心術』で心の声を聞く限り、この女性は信用できそうな商人だと思って名前を聞く。


「……あたしかい? あたしは根無し草になったばかりだけど、先代の隠し子で『強欲の女商人』と呼ばれているただの『ネイ』さ」


 ネイはライトのお陰で心に潜む鬱屈とした悩みが晴れたのか嬉し涙を流しながら、とんでもない異名と名前を名乗るのであった。


(ご、強欲!? 良い人そうなのにとんでもない呼ばれ方している人だった!)


 ライトは異名を聞いて、少し後悔するのであったが、この悪役商人? ネイに賭けてみる気になるのであった。

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