第42話 第六王子についての報告
ミディアム領に帰郷してから数日が経った日の事。
ライトは執務室で、書類仕事を行っていた。
そばでは、専属メイドであるアリアが丁度お茶を入れてくれているところだ。
「ライト様! 王都のルカとマルコより報告がありました。 北の雪深い僻地に追放されていた第六王子ソートス様が、滞在している街の郊外で魔物に襲われ亡くなったそうです。一応、事故という形になっていますが、ルカ達によるとザンガ国王の部下の手引きで行われた暗殺ではないかとの事。──憎き簒奪王ザンガが、いよいよ動き出しましたぞ!」
そこへ、執事役のロイド・ロンド男爵が、急いで入ってくると重大な事を報告した。
「ええ!? もう動き出したの!?」
ライトは顔も見たことがない兄の一人を心配するでもなく、あまりに早い弟達の暗殺に動き出したザンガ国王に対して驚きの感想を漏らす。
「私も驚きました。国内もまだ、落ち着いているとは言い難いですからな。それに、第四、第五王子達を謀略によって誅殺してから日が浅い。その中で、すぐに暗殺しては一番に疑われるのは国王自身ですからね。ここまで、慎重に動いていたとは思えない軽率さです。ですが、さらに不可解な事が……」
「不可解?」
ライトはロイドが勿体ぶった言い方のロイドに、続きを促すように聞き返す。
「ええ……。第六王子の監視役として送り込まれていた子爵に責任を負わせて即刻処刑にせず、北の大地に留め、第六王子の死の原因についてさらに調査をさせているようなのです」
「原因究明を? ……それって、もしかして、ソートス第六王子の死はザンガ国王にとっても予想外だったんじゃない? ──それで魔物に食われたという王子の遺体はどうなっているの?」
ライトはロイドの報告を聞いて、疑問が残るので詳しい確認をする。
「それが、報告書には遺体の損傷が激しく、目を覆いたくなる惨状であったそうだ、という事しか書いておりません」
「……そもそも、第六王子は街の郊外で何をしていたの?」
ライトはロイドからの報告にさらに疑問が増して問う。
「それは、狩りのようですね。北の追放地は年中雪に覆われている場所。娯楽と言えばお酒と女と狩りや賭け事くらいでしょうから」
ロイドは報告書からある程度は憶測で答えた。
「……つまり、ザンガ国王も想定していない事が起きたという事じゃない? もしかすると第六王子は生きているのかもしれないと疑っているんじゃないかな?」
ライトも憶測ではあるが、報告書からザンガ国王の戸惑いを感じた気がしてそう指摘する。
「第六王子が!? ──……確かに、遺体は損傷が激しく本人である可能性は王家の紋章の入った指輪のついた指の一部と、出かけた時の衣装、あとは護衛として付いていて当時、ソートス第六王子を途中で見失った者の証言のみ……。可能性はあるかもしれないですね」
ロイドはライトの指摘に何か悪い事でも思いついたのか、悪役執事と呼んでいいような笑みを浮かべた。
ただ、その笑みの意味するところは、ライトも同様の事を考えていたので、わからないでもない。
というのも、第六王子の生存の可能性があるのならば、ザンガ国王はそれについて調査をするという事である。
それは、こちらに目を向ける暇が無くなる可能性を意味した。
つまり、しばらくの間は、ライトにいずれ降りかかるであろう「死」も先延ばしになるであろう事を意味するから、その間、身を守る為の準備期間が延長される事になるのだ。
まあ、執事役のロイドは身を守る準備というよりは、王都に攻め上がる為の準備期間の方であったが……。
だから、ライトは最初こそ、ソートス第六王子の暗殺という自分の命へ直結するような報告に戦慄したが、結果的に寿命が延びそうな事件である事が予想できて安堵するのであった。
「あ、そうだった。──ロイド、白狼族との物々交換交易で得た物を扱ってくれる商人の目途は付いたの?」
ライトは、命の危機が遠のいたので冷静になったのか、現在、領地の一番の重要課題である商人問題を思い出して確認する。
「それがまだ、見つかっておりません。村長にもお願いして探してもらっていますが、やはり、この辺境の村を訪れる物好きな商人は中々いないようです」
優秀なロイドもこれには、手を焼いているのか、手詰まりになっている事を正直に話した。
「……やっぱり、外に探しに行くしかないかぁ。──ロイド、僕が直接街に出かけて商人を吟味してくるよ」
ライトは、当然のように提案する。
「ライト様、私は元々、ライト様の監視役ですよ? 白狼族などの辺境地ならともかく、他所の領主の街にライト様自身が出掛けて気づかれようものなら、私がライト様に味方をしている事がすぐにバレますし、それどころかすぐに事故や強盗に見せかけて暗殺される可能性も十分ありますぞ?」
ロイドはもうすぐ六歳の少年領主が、無茶な提案をするので、その危険性を説く。
「大丈夫だよ。僕にはアリアやこの従魔のソルテがいるからね。あとは白狼族のフィロウと戦士ガロにも同行をお願いすれば、ガロが親役でその子供達という事に出来そうじゃない?」
ライトの言う通り、諜報機関ヘルメスの元訓練兵であるアリアは最近武器の訓練も再開してナイフの扱いは一級品である。
さらには、従魔のソルテは元々この辺境地の災害級魔獣であるヘルボアディザスターの子供であったし、今は、精霊化してその能力は増大しているようだ。
ようだ、というのも、ライトの能力『読心術』で会話ができるので、本人に聞いたらそう答えたのだ。
だから、ソルテは頼りになるはずである。
そして、白狼族の戦士で友人であるフィロウは文字通り一人前の戦士だし、その護衛役であるガロは白狼族一の戦士だから、これ以上の護衛はいないだろう。
「大人が戦士ガロ殿だけというのが気になりますが……。──そうだ! 族長フェルン殿にもお願いしましょう。それなら安心です」
ロイドは何を考えているのか、一番お願いしたら駄目な相手に頼もうとした。
「さすがに、それは無理だって!」
ライトもそれはわかっていたから、当然否定するのであった。
「母上がいいって」
友人であるフィロウが、数日後、そう報告を寄越した。
それはつまり、族長フェルンが、ライトの護衛の為、来てくれるという事を意味する。
「いやいや……! 族長が敵対領地の街に行くって危険すぎるでしょ!」
ライトは友人フィロウにそうツッコミを入れるのであったが、問題ないという事で他所の街に出かける準備が行われるのであった。
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