第27話 エセ戦士と戦士の勝負

 ライトにしか見えないステータス欄には、


『この地で亡くなった最強戦士の霊』※エセ降霊中。


という表示が出ている。


 それを確認したライトは表示を消して木剣を握った。


「それでは、我が息子フィロウと少年領主との先取り一本による決闘を始めようか」


 白狼族族長で銀髪美女のフェルンは、楽しそうに試合の審判として進行を始める。


 周囲には村を訪れていた白狼族の者達が集まってきていた。


 村民達はそんな状況に恐れをなして、遠巻きに見ている。


「フィロウは大の大人でも手を焼く一人前の戦士だぞ? あの小さい小僧相手で大丈夫か?」


「腕の一本や二本は覚悟しないと無理だろう。族長の息子の強さは伊達じゃないからな」


「これは勝負にならんぞ? というか族長も人が悪いな。あの小僧、死ぬかもしれんぞ?」


 白狼族の面々はわかり切った勝負とばかりに、ざわついている。


 そんなに強いの、このフィロウって子!?


 ライトは戦士系霊の能力を『エセ降霊術』で自分に下すのは初めてだったこともあり、一気に不安になってきた。


 どうやら、こちらの想像以上にこのフィロウという子供は、戦士として相当な腕を持つ立派な戦士らしい。


 みんなが一目置いているらしいことは、その話声を聞いていると嫌でも理解した。


「どうする? 負けを認めてもいいのだぞ?」


 族長フェルンはライトを試すように笑みを浮かべて聞いてくる。


 くそー。完全に僕を試したくてこんな無茶ぶりをしてきたの丸わかりじゃん! でも、その鼻っ柱をへし折って今後、白狼族に一目置かれるようになる、という立ち位置も捨てがたいからなぁ……。──ここは勝負だ!


 ライトはそう決心すると、


「白狼族の戦士なら、一度受けた勝負から逃げるなんてあり得ないのでしょ? それならそれを尊重して僕も、に、逃げないですよ!」


 堂々と答えようとしたが、流石にビビっているのは隠せずに少し、声が震えた。


「よし、その度胸は誉めてやろう。──フィロウ、殺すなよ?」


 族長フェルンは、ライトの勇気に感心すると、息子に加減することを指示する。


「母上、僕に加減ができるとお思いですか? でも、骨の一本で済むようには相手してやりますよ」


 フィロウはそう言うと、木剣を身構えた。


「決闘を開始する。二人とも構えよ。──それでは、始め!」


 族長フェルンは、勝負の見えている決闘とわかっていながら、開始宣言をする。


 すると、速攻で決着をつけるつもりなのだろう、フィロウが地を這うような低い姿勢で駆けるとライトに対して斬りかかった。


 そのライトは、能力のお陰か相手のフィロウの動きがゆっくりに見えいてた。


 いや、それでも十分早い動きなのだろうが、ライトは条件反射的に体が勝手に動きその攻撃を回避する。


「なっ!? だが、二度もまぐれは続かないぞ!」


 いつもなら、この一撃で大抵の相手から一本が取れるフィロウは易々と躱されたのはまぐれだと判断して、さらにライトに斬りかかった。


 だが、ライトは、続けざまのその猛烈な攻撃を難なく躱していく。


 これにはフィロウだけでなく見物している白狼族達も最初こそワイワイとしゃべりながら観戦していたのに、思わず言葉を呑み、静かになる。


 それは、族長フェルンも一緒であった。


 ライトは五歳とは思えない度胸と頭脳があるとは思っていたが、その佇まいは戦士のそれではないことくらいは見てわかっていたのだ。


 だから、息子との勝負はあっという間に片が付くだろうと思っていたので、ライトの熟練の戦士のような身の躱し方に目を奪われるのであった。


 それはライトも一緒である。


 戦士の霊の『エセ降霊術』自体が初めてだからどうなるかと思ったが、これは楽しい。


 まあ、降ろした霊の能力が文字通り、最強戦士だったのだろう、族長フェルンが誇る息子が相当強い事も今なら理解できるが、格が違うのもわかる。


 そのくらい降ろした霊の能力は、優れていたのだ。


「くそっ! なんで攻撃が当たらないのだ! 白狼族一番の戦士ガロだって僕の攻撃は剣で防ぐのに!」


 フィロウは攻撃の手を休めることなく悔しそうに漏らす。


「君が強いのは十分わかったよ。でも、これ以上は無意味だ。それに僕も手加減できるかわからない。降参してくれるかい?」


 ライトは本気でそう告げた。


 この霊の能力だとどのくらいの匙加減で反撃すれば、あまり負傷させずに勝てるのかわからないからだ。


「戦士である僕を愚弄するな! そっちはまだ、一度も攻撃していないだろう! それなら、少しくらい反撃できてから言え!」


 フィロウはカッとしたのか顔を赤らめて答えた。


「それじゃあ……」


 ライトはそう言うと、後方に飛んでフィロウの連続攻撃から距離を取る。


 そこでようやくフィロウの攻撃の手が止まった。


 ライトは、木剣を水平に半身の状態で構える。


 これも、ライトにとっては体が勝手に動いたと言っていいだろう。


 反撃するならこれだ、と無意識に判断したのだ。


 それを見た審判役の族長フェルンが思わず、


「あ!」


 と声を上げる。


 ライトは、それには気も留めず、一歩踏み込んだ。


 次の瞬間、ライトはその場に残像を残してフィロウとの距離をあっという間に詰めていた。


 そして、ライトの木剣がフィロウを襲う。


「待て! それまでだ!」


 族長フェルンが試合を止めるのとライトがフィロウを木剣で斬るのが同時だった。


 ライトはその声に反応して木剣を止めたが、その斬撃の余波でフィロウの木剣は真っ二つになり、フィロウ自身の付ける仮面も真っ二つに斬れ、その下の顔にも浅い傷が水平に鼻の上に入る。


 そして、傷は浅いが、瞬間的に血が噴き出した。


 これには、白狼族の観戦者達も一瞬のこと過ぎて呆然としている。


 それは、斬られたフィロウも、斬った当人であるライトも同じであった。


 唯一、止めに入った族長フェルンだけが冷静で、再度、


「待て、勝負ありだ」


 と止めることで勝負は決するのであった。

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転生第十王子は死にたくない!~辺境に追放されたけど、命が危ういのは変わらないので、怪しいスキルを駆使して生き延びます!~ 西の果てのぺろ。 @nisinohatenopero

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