第35話 白狼族の村

 白狼族の村を訪問する当日の朝。


 ライトは、村長に馬を一頭借りてメイドのアリアと一緒に跨ると、白狼族の村に向かった。


 先導役は、白狼族の族長の息子フィロウとその護衛役である戦士ガロだ。


 二人は、ミディアム領から、一番近い進路を取って案内してくれた。


 道こそ獣道のようなところもあったが、近道ということもあり、遠回りしない分、夕方には白狼族の村近くに到着する。


「まさか、ミディアム領から一日の距離に、白狼族の村があるとは思わなかったよ」


 ライトも意外に近いところにあったのかと、驚く。


「はははっ。ここは最近、出来たばかりなのさ。白狼族は、基本、移動を繰り返しているのだけど、各地の村を族長は転々としながら、領地を管理しているんだ。そして、ここはミディアム領都との交易の為に、その拠点として母さんが作ったんだ」


 族長の息子フィロウが、友人の誼で白狼族の内部事情を説明してくれた。


「へー、そうなんだ。──あ、村の出入り口に人が沢山いる!?」


 ライトは、感心しながら聞いて、村に視線を向けると、白狼族の者達が集まっていることに気づく。


「ライトの歓迎の為に集まっているのさ」


 フィロウはそう言うと、馬を走らせ、一足先に村の出入り口に到着すると、ライトの到着を知らせる。


 すると、一同は先程までざわついていた雰囲気から一転、整然と並んでライトを出迎えるのであった。


 まず、メイドのアリアが馬から降りて、ライトが降りるのを手伝う。


 まだ、五歳のライトでは、馬の乗り降りは大変なのだ。


 二人が馬を近くの者に預けると、白狼族族長のフェルンがライトを歓迎する。


「よくぞ、参った、少年領主よ。今日は、移動の疲れがあるだろうから、歓迎の食事会を済ませたら、ゆっくり休むがよい」


 族長フェルンは、いつもの通り、狼の毛皮の被り物と戦士を示す仮面越しにそう告げると、大きな革のテント内に案内した。


 それは、何枚もの革を縫い合わせて作ったテントであったが、とても大きく中は数十人が入っても十分な広さを確保している。


 ライトは客人として、上座に族長フェルンと共に座り、アリアもその次の席に座った。


 この時初めてライトは、族長と距離が近くなる。


 それこそ、ライトの能力『読心術』で心を読めるかどうかの近くまでだ。


 ライトは無意識に能力を発動したが、ギリギリ距離が足りないのか、聞えるのは、ウリ坊姿の精霊でライトの頭にちょこんと乗っているソルテの声だけであった。


『うわー、美味しそうな匂いがするのでしゅ!』


 ソルテが鼻をクンクンと動かしてそう告げると、それが合図だったかのように次々に料理が運び込まれ、ライト達の前に並ぶ。


 それらはお肉中心の料理であったが、中には山菜やライトの領地で入手したであろう野菜が使用された料理も含まれていた。


「まずは、食べてくれ。我々は前口上を必要としないのでな」


 族長フェルンがそう告げると、フィロウが、そのお手本とばかりに、ライトにウインクして料理に手を付ける。


 何かの動物の丸焼きの足を掴むとナイフを突き立てて切断し、それをライトの前の皿に置いてみせた。


「ライト、この殺し屋兎キラーラビットの後ろ足は美味しいから食べてみな!」


 フィロウはそう言うと食べるように勧める。


 目の前に置かれた肉の塊は、油と塗られたソースによって、てかてかと光り、薬草の香りが食欲をそそった。


 ライトは、お昼に食べた携帯していた干し肉以来の食事なので、涎を垂らすと足を掴んでモモの辺りに被りつく。


「美味しい! 弾力があるけど、嚙み切れるし、何より肉の味に癖がない。獣臭がないのは新鮮だからかな?」


 ライトは、想像以上の美味しさに感動すると、むさぼりつく。


 アリアも続いて、自分に近い料理を皿によそって食べると目を見開いた。


 どうやら、想像以上に美味しかったのだろう。


 ライトと違いむさぼるようには食べず、何が使用されているのか噛み締めるように食べている。


 帰ってから屋敷でマネして作れるか考えているようであった。


「気に入ってくれたようだ。うちの料理人達も喜ぶだろう。みんなも食え!」


 族長がそう言うと、集まった者達も目の前のご馳走に食いつき、すぐに宴会は盛り上がるのであった。



 五歳のライトの手前、お酒は禁止されているようであったが、普段とは違い歓迎用の料理ということで、やはり、特別なのだろう。


 みんな、とても味わいながら食べ、その美味しさに舌鼓を打ち、話にも花が咲いている。


「ところで、少年領主よ。料理の仕方がわからないなら、それはうちの料理人が調理しようか?」


 族長フェルンがそう言うと、ライトの頭上を指差した。


 そこには当然ながら、ウリ坊のソルテがいる。


 ソルテは、ライトが切り分けたお肉を貰ってそれを美味しそうに食べていたが、族長フェルンに食べ物扱いされたので、「ブヒッ?(え?)」という顔をした。


 そして、次の瞬間には、


ぶひっ!(『ボクは、ご主人様の立派な従魔精霊でしゅよ!』)


 と興奮気味に鼻を鳴らす。


 ライトには、『読心術』で声は聞こえているが、当然、族長フェルン以下他の者達にはウリ坊が鳴いているだけにしか聞こえない。


「だ、駄目ですよ、この子は! ソルテは、僕の大事な従魔なんですから!」


 ライトは食事する手を止めると、慌ててソルトを庇う。


「そうなのか? ビッグボア系のウリ坊ならば獣臭がほとんどなく、肉が柔らかいのだ。それに、調理の仕方次第では、骨まで食べられるくらいに美味しいのだがな」


 族長フェルンはまさか、このウリ坊が、災害級であるヘルボアディザスターの祟り憑き魔物から精霊化した特別な従魔とは思わないから、いかに美味しいかを力説した。


「それは確かに美味しそう……。──って冗談だからね、ソルテ!」


 頭上で、ソルテが驚きの反応を示したので、慌てて言い訳するライト。


『ご主人様、冗談が過ぎるのでしゅ!』


 ソルテはショックを受けるのであったが、ライトがお詫びにと、また、料理のお肉を切り分けてソルテに食べさせるとすぐに機嫌を直してくれた。


『美味しいでしゅ♪ ご主人様も食べるでしゅ!』


「驚いた……。その従魔、少年領主の言葉を理解しているようだ」


 族長フェルンは、ライトとソルテの様子を見て驚く。


「ええ。そうなんです。僕の友人なので、冗談でも食べるとか言わないでくださいね。はははっ!」


 ライトは自分のことを棚に置いて、族長フェルンの言葉を注意して、食事を楽しむのであった。

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