第17話 今後の方針
王都での想像を遥かに超える騒動が起こった事で、監視役であるロイド・ロンド男爵の立場はっきりした。
その為、腹違いの兄であるザンガ国王を共通の敵として信用することにした。
見た目は金髪巻き毛、茶色い目にぽっちゃりしているライトが想像する典型的な貴族であるが、頭が切れるし、何より部下は支援をしている孤児院から召し抱えた者達で慈悲もある。
ただし、『読心術』で心を読む限り、この辺境に送り込んだザンガ国王と元の上司を恨んでおり、その復讐の為に自分を担ぐつもりでいる危険な考えの持ち主でもあるから、信用はするが頼り過ぎたら危険な気がするのも確かであった。
やはり、どうにか生き残って人生を全うするという同じ目標である専属メイド・アリアだけが長い付き合いだし信用に値するのは変わらなさそうである。
「ライト様。私が嘘の報告書を王都と辺境伯の下に送って欺き続けても、いつかは必ずライト様の首を求めてくると思います。そうなる前に、ライト様は力を付ける必要があると思います」
ロイド・ロンド男爵は神妙な面持ちで、仕事の無い執務室でライトに提案した。
「……このミディアム領は一面、畑しかない。それに領地内はここ以外に税を納める街や村もない。力を付けるという提案はわかるけど、実際のところ、難しいんじゃないかな?」
ライトはロイドの意見を理解しつつも、この領地には何も力がないことを指摘した。
「はい、私もそう思います。税はこの村からのわずかなものしか得られません。それに現在は、王家からの資金でライト様の最低限の生活を補っている状況ですから、中央のお金におんぶに抱っこというのが事実です。その為、これを止められればすぐに困窮しますから、最低限の生活を確保できる収入、もしくは支援が必要かと思います。ですので、この領地の利点を考えなければなりません」
ロイドはライトを試すように言う。
「……この領地の利点……か。立地のことだね?」
ライトはロイドが言いたいことは『読心術』を使わなくてもすぐにわかった。
ライト自身もここに来てから、それは考えていたからだ。
ただし、ライトには人材がおらず、五歳の自分では行動限界がある為、何か思いついても実行が難しかったのである。
「おお! さすがライト様! よくお気づきになられました。──そう、現在のこの地の武器はその立地以外ありません。この何もない辺境は王都から遥か遠く、干渉される可能性が非常に低いこと、そして、国境を蛮族と接していること、山や森、畑を耕すには十分な平地も広がっています。川も流れていて水に困らないのも大きいです。今は手を付ける者がおらず、荒れ果てているところが多いですが、手を加えることができれば、すぐに肥沃な土地に化けると思います」
ロイドはこの土地の可能性について指を折りながらライトに説明した。
それはライトも考えてはいたのだ。
だが、自分一人ではどうしようもないのも事実である。
そんなことを考えていたライトであったが、ふとロイドの言った長所の一つに引っかかった。
「……国境を蛮族と接していることは、欠点ではないの?」
ライトはいつ、自分達の首を取りに来るかもわからない蛮族の存在が長所とは思えなかった。
「ええ、この国の人間として考えるなら当然、欠点になります。しかし、ライト様、この国の為にこの土地を守る意思がおありですか?」
「ない!」
ロイドの問いにライトは間髪を入れず、答えた。
「ならば、欠点も長所になるというものです。つまり国の方針を聞くことなく蛮族と仲良くする道を選べばいいのですよ」
ロイドは悪い顔で応じる。
この悪役執事め……!
ライトは思わず内心でツッコミを入れたくなる。
つまり、蛮族を味方にしてザンガ国王派との戦いに持ち込もうという腹だろう。
相手はこちらの死を望んでいるのだから、生きる為には已む得ない内容だが、それはつまり、ザンガ国王や辺境伯に自分を殺す為の理由も与えるようなものだ。
「……それは慎重に行わないと、僕が謀反人として処刑されるよね?」
ライトは否定はしないが、賛成もしない。
ロイドの提案はライトの首を絞めるものではあるが、生き残る為には手段の一つとして用意しておかなければならないものでもあるからだ。
「そこは、ライト様に腹を括ってもらわないと」
ロイドは笑顔で怖いことを言う。
やっぱり、ロイドは復讐優先じゃん!
ライトはうんざりする思いであったが、こちらは監視役のロイドが味方になってくれる分、一時的に安全を確保できるし、その復讐も出来なくはない事かもしれない。
もちろん、大掛かりに動いたら、中央にバレなくても近くの辺境伯には気づかれる可能性があるから、慎重さは求められる。
「……ロイド。急いでは成功するものも失敗するという言葉があるそうじゃないか? 蛮族と仲良くなることについては賛成だけど、それはこの領地(僕)が襲われない為の手段の一つとしてだよ。──あ、余計なことはしないでね?」
ライトは、遠回りにロイドを自制するように告げるつもりであったが、彼ははっきり言った方がいいだろうと思い直してはっきり、指摘した。
「むぅ……。この土地など、蛮族に譲ってもいいと思うのですがね?」
ロイドは残念そうに愚痴った。
やっぱり、中央と短期決戦する為の策を考えていたな!?
「それはならない。中央にこちらを処罰する大義名分を与えては、こちらに正義がないだろう? それでは勝てるものも勝てなくなるから自重してください」
ライトはこの危険な考えを持つ悪役執事の手綱を握りながら、慎重に事を運ぶために頭を目いっぱい回転させないといけないようである。
「……確かに。──わかりました。時間がかかりそうですが、慎重に接触の機会を伺ってみましょう」
ロイドはとても残念そうだったが、ライトの考えに一理あることを認め、自制することを約束するのであった。
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