第16話 王都からの情報
ライトは専属メイド・アリア以外の者についてはまだ、完全に信じてはいない。
さすがにまだ、自分の執事に納まったロイド・ロンド男爵を信じるにはまだ、日が浅いからだ。
それは一緒に来た庭師的な雑用をしてくれているキリも同じである。
まあ、二人が屋敷に来てくれたお陰で、屋敷全般の仕事を一人で行っていたアリアはかなり助かっているようではあったのだが、それとこれとは別だ。
だから、ライトは積極的にこの二人に声をかけて心を読もうと近づく努力をした。
短期間で信用できるか判断するには心を読むしかないからだ。
そんなロイド・ロンド男爵は、この地から反逆して王都の貴族達を殲滅したいようであったから、その心の中は危険極まりない。
さらには部下のキリは主のロイドを気にかけ、ライトのこともその主君筋ということで気にしているのは心を読んで理解したが、ロイドの目的が部下であるキリが叶えるべき目標であるという思いがあるのも、心を読んで知ってしまったから、この二人はいろんな意味で危険極まりないとライトは判断した。
「……やっぱり、信用できるのはアリアだけだ……」
ライトはため息混じりにそうつぶやく。
「坊ちゃん、試しに近くの貴族達とも仲良くなってみてはいかがですか? 危険はありますが、いざという時、味方になってくれる者がいるかもしれません」
専属メイド・アリアが一つの提案をしてくれた。
「……確かに。ここは蛮族の脅威にさらされている土地だものね……。攻めて来られたら守りようがないくらい村の周囲は柵以外何もないし……」
ライトもアリアの提案に乗り気になる。
そこでロイドを呼んで相談することにした。
「いけません、ライト様。この周囲の貴族と言えば、ザンガ国王派ばかりです。そんな貴族達に接触を試みるのは、『二心あります!』とわざわざ知らせるようなものですよ」
「そうなの!?」
ライトは王都から遥かに離れたこんな辺境付近なら、どっちつかずの貴族が多いと思っていたのだ。
「ええ。特にこの一帯の派閥の長である辺境伯などは、私が王都を出る直前にザンガ国王支持を改めて表明したばかりでした。つまり、ここは敵地のど真ん中なのですよ。ちなみに私の報告書も王都とその辺境伯にそれぞれ書いて定期的に送り届ける形になっています」
ロイドはそう言うと、危険な真似はしませんように、と忠告する。
一気にまた命が危うくなってきた!
ライトは監視者であるロイドが味方に付いてくれて多少は安堵していたが、領地を監視する辺境伯がいることがわかって、また、身の危険を感じずにはいられない。
「……教えてくれてありがとう、ロイド。でも、なんでそんな絶望的に不利なこちら側に付くの? 僕を利用してザンガ国王に媚びを売れば、出世街道に戻れそうな気もするけど?」
ライトは思わずそんな本音を口にした。
「はははっ! ライト様、確かに一見すると監視役はライト様を売って、早く王都に戻る手段を選んだ方が利口に思えますが、実のところそれは違います。あのザンガ国王の狙いは私にライト様を処分させ、王子殺しの罪を私個人に擦り付けることなんですよ。つまり、監視役を命じられた時点で、私が王都に戻る道は閉ざされているのです」
ロイドはザンガ国王の狙いをそう見抜いて見せた。
もちろんこれは、ロイドの見解なので証明する手段はない。
だがそれも、すぐにロイドの読み通りであったことを証明する事件が起きる。
それは、ロイドが来てから三か月後のことである。
「ライト様、王都より知らせが参りました」
ロイドがそう言うと手紙をライトに差し出した。
それはロイドの宛の手紙で、王都にいる部下のルカとマルコが送ったものであった。
ライトはそれを受け取ると内容を確かめる。
そこには、兄である第四王子、第五王子が襲撃によって惨殺されたという内容であった。
驚いてその経緯を読んでいく。
ちなみに第四王子と第五王子の兄達は、第三王子トラワルと共に当初、ナクナル第一王子の味方をしていた。
それが王位を目指す第二王子であったザンガに第四、第五王子二人が寝返り、第一王子を襲撃。
そこで第一王子は戦死し、トラワル第三王子は幽閉されることになったのだ。
そこでザンガに寝返って勝利に導いた功労者である第四、第五王子であったが、ザンガが国王になった後、冷遇されていたのだという。
その理由が、「一度、裏切った者は必ず次も裏切るから」というもの。
もちろん、二人はそれに対して不満であったが、ザンガ国王は本気でそう思っていたようで、政権の中枢から完全に二人を外したのだとか。
ザンガ国王はそれだけに止まらず、ナクナル第一王子を裏切り攻め殺した軽薄な人物として二人をこき下ろし、国民感情を煽ったので、王都民は二人の処罰を求める動きを見せたのだという。
ザンガ国王は国民の意思を尊重すると宣言すると、二人の王位継承権を剥奪して平民に落とした。
すると、ナクナル第一王子を慕い、支持していた第一王子派の残党が裏切者である元第四、第五王子の襲撃を行い、二人を惨殺。
これによって、ザンガ国王は自分の手を汚すことなく、功労者二人を処分したのであった。
だが、話はここで終わらない。
ザンガ国王は、二人を囮にする事で、第一王子派の残党を炙り出したのだ。
実際、ザンガ国王は、すぐさま、元王子二人を襲撃した残党を一人残らず捕らえ、元とはいえ、王族だった二人を殺した罪は重いとして、即日斬首して見せた。
これで、ザンガ国王は目の上のたん瘤であった王子二人と残党を一気に処分して王都の心配事を片付けてしまったのである。
「……これは……」
ライトもこれには押し黙った。
兄二人が殺されたことは、あまり気にしていない。
何しろ顔を合わせたこともないので、情の湧きようがないからだ。
ライトが押し黙ったのは、最初から王子二人を囮にして、王都に忍ぶ残党一掃を狙った計画として行われたものだと理解したからである。
この結果から、ザンガ国王はかなりの知恵者と考えた方が良いだろう。
だからこそ、ライトはザンガ国王が甘い相手ではないことを理解して、黙ってしまったのである。
「この通り、ザンガ国王は王族殺しは重罪だと改めて宣言し、ナクナル第一王子殿下を戦いの折に討ち取った騎士も斬首刑にしたようです。そんな国王が、ライト様を殺す為に監視役として傍に付けた私を目的達成後、どう扱うと思いますか?」
ロイドはライトの自分への疑いを晴らすようにそう問うた。
「……僕が死んだら監視役のロイドに王族殺しの罪を着せて処分するだろうね」
「そういうことなのです。私は任命された時、その確信があったからこそ、ここに来てライト様を見た時、この方に賭けるしかない! ……と思ったのですよ」
ぽっちゃりしているロイドは、お腹を揺らすとそう答える。
「……ごめん、ロイド。君をどこまで信じていいかわからなかったから警戒していた。でも、これからは君を信じるよ」
ライトは専属メイド・アリアの方をチラッとみて一緒に頷くと、ロイドに謝って握手する。
「……ありがとうございます、ライト様!」
ロイドは笑顔でライトと握手を交わす。
ライトはその瞬間、『読心術』を反射的に使用する。
(よし! 信用も得られた! これでライト様を反国王派の首領に掲げて、王都の連中を皆殺しにするぞ!)
というロイドの過激な心の中が聞こえてきた。
過激な気持ちだけはどうにかして!
ライトはせっかくの新たな頼もしい味方を得て嬉しい気持ちであったが、この悪役執事的な男爵の過激すぎる心のうちを知れば知る程、心配が尽きないのであった。
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