第23話 力の発揮
ライトはずっと使用を控えていた『エセ降霊術』を使用した。
まずは、王都からここに来る途中で、見つけた大工の霊の能力を降ろして、裏の広い物置小屋を発明部屋に作り直す事から始める。
ライトは、目を閉じてスッと自分に能力が降りてきたことを確認すると、すぐに大工モードになり、小屋にあった材木を線を引かずにノコギリでテキパキと切り分け、金槌と木釘で棚や作業台、椅子などを作っていく。
それらはあっという間のことであり、専属メイドのアリアもそれに驚きで目を見開いて見守るしかできないのであった。
「──よし、これで発明部屋は完成かな。──アリア、お水を頂戴。──よしっ! じゃあ、次は設計図作成だ!」
ライトはそう宣言すると、早速作った作業台に紙を敷いて設計図を書いていく。
「……坊ちゃん、何の設計図を書いていらっしゃるんですか?」
アリアは後ろから覗き込んでも理解できなかったので、直接ライトに聞く。
「それは出来てからのお楽しみかな。完成まで時間がかかるだろうけど」
ライトはそう笑顔で応じると、アリアが驚く顔を楽しみに、この日は設計図を完成させるところまでで終了するのであった。
そして、翌日。
「イタタ……」
ライトは寝室で呻いていた。
『エセ降霊術』で張り切った為、その反動が来たのだ。
全身筋肉痛のようなもので、痛みはそれ以上のものが全身に走るから、ライトはベッドの上から動けずにいた。
「大丈夫ですか坊ちゃん……。今日は、大人しくしていてください。昨日、あれだけ無理をしたんですから、反動が来るのも仕方がないですよ」
「わ、わかったよ……」
全く身動きができない程の痛みが全身に走るので、ライトはアリアの言うことを素直に聞いてこの日は安静にするのであった。
ただし、庭師のキリにお願いして、前日に書いた設計図をこの領都に住む鍛冶師に渡し、部品の製作をお願いしてもらうことにする。
「……わかりました。これらを設計図の通りに作ってもらえばいいのですね。料金の交渉は私にお任せください」
キリは頷くと出かけていく。
「ふぅ。あとは何をしようか……。今のところ、村に余りがちで廃棄もあった食糧も白狼族との交易でお金になる事で村人の懐も温まり、その分の税も領主である自分の元に入ってきているから、当面の生活は困らないくらいにはなってきている。そうなるとやはり、当面は生活向上の為の発明が中心かな……?」
ライトは幸い頭の方は痛くなかったので、ベッドで横になったまま、考えを巡らせてこの日は一日を終えるのであった。
そして、翌日の朝。
ライトは反動期間を終えていた。
「大工のエセ降霊だと反動は一日か……。これは降霊した霊が一人で一日なのか、あの作業量だから一日なのか? それとも、あの大工のレベルだと一日なのか? これからも検証が必要かな。でも、一つわかったのは、反動以外に筋肉痛になっていてもおかしくないのに、それさえも一日で治っていることだよね……。もしかすると反動期間を過ぎたら全治癒状態になるのかもしれない……。それならそれで使い勝手がいい気もするんだよなぁ……。普通、筋肉痛が治るのに数日は時間がかかるわけだし。──反動期間は動けなくなるくらい痛いから我慢もかなり必要だけど……」
ライトはベッドから起き上がると、独りぶつぶつとつぶやいて、その結果からわかった事に喜び満足する。
ライトの分析通りなら、怪我をしても『エセ降霊術』を使えば、反動期間さえ過ぎれば、怪我もすぐに治ることになるからだ。
それはとんでもないことであったから、ライトが喜ぶのも当然であった。
こんこん。
「失礼します。坊ちゃん、おはようございます。もう、起きていたんですね」
そこへアリアが部屋にノックをして入ってきた。
ライトの代わりに室内のカーテンを開けて、部屋に光を入れる。
「おはよう、アリア。今日も良い天気だね、今日は朝から気分がいいから良いことがありそうだ」
ライトはベッドの上で背伸びをするとそう答えた。
「体調は治られたんですね? それは良かったです」
アリアは専属メイドとしてライトの体調回復に安堵する。
「はははっ、心配かけてごめんね。『エセ降霊術』は反動が大きいみたいだからさ」
ライトはベッドから降りながら説明すると、着替えを始めた。
すぐにアリアがパジャマを洗濯籠に回収していく。
「今日も特に予定はないよね?」
そうアリアに確認した時であった。
廊下の方からドタドタと大きな足音が聞こえてくる。
どうやらこの感じは、この屋敷の悪役執事役ロイド・ロンドのもののようだ。
「失礼しますぞ、ライト様!」
ロイドはそう言うとノック無しで扉を開ける。
「どうしたんだい、ロイド?」
小太りのロイドが冷や汗をかいて慌てている様子だったが、それを見るとなぜかライトは冷静に応じることができた。
「はぁ、はぁ、はぁ……! ライト様、驚かないでくださいね? 王都に動きがありました! 王位継承権争いの際、第一王子に与して捕らえられ、幽閉されていた第三王子殿下が、手引する者により王都から逃亡を図ったそうです。ですが、王都郊外の森で手引きした者と揉めて殺傷沙汰に。そこへ追跡隊が踏み込みましたが、その時には第三王子は息絶えていたのだとか」
「……手引きした者達は?」
ライトは驚く様子もなく、淡々と報告を聞くと確認する。
「その者達はその場で抵抗したので追跡隊に斬られたそうです。王都では深夜の脱走劇で相当騒ぎになったようですが、国民をおいて逃げだした結果、亡くなった第三王子殿下に同情する声は少ないようです」
「もしかしてザンガ国王は、第三王子が謝る姿勢さえ見せていれば許すつもりでいたから残念な事だ、とか声明を出しているんじゃない?」
ライトはその時の王都の動きが見えているかのように指摘した。
「ええ、そうですが、よくお判りで……。 ライト様の言う通り、ザンガ国王は……、あっ! そういうことですか!」
ロイドもライトの言葉でようやく何か気付いたようだ。
「うん……。僕はトラワル第三王子兄上の事は全く知らないけれど、多分、兄上は、ザンガ国王の罠に嵌められたんだ。脱出を手助けした者達は国王派の仕込みだと思う。そして、作戦が成功したからその手助けした者達は追跡隊が口封じにその場で斬り捨てた、というのが真相だろうね。そうじゃないとあれだけ僕達を警戒していた、厳重な幽閉先からまんまと逃げられるわけがないもの」
ライトはそこまで説明してそこでようやく背筋に悪寒が走って震えた。
こんなに早く罠を掛けてくると思っていなかったからだ。
今国王ザンガは、国内外での足元を固める時期であり、弟達の処分はそれからじっくり行うだろうと思っていたので、誰かに悪意のある密告をされない限り、数年は安全だろうとライトは考えていた。
それだけに、早すぎる第三王子トラワルの死に、自分の身についても危うく感じるのであった。
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