【好きな女の子の絵を描いていたら、幼馴染の体を描くことになりました】

 次の日の放課後、将太は優奈にメールを入れて、家に向かう――家に着いてインターホンを鳴らすと、制服姿の優奈が直ぐに出てきた。


「こんにちは」と、将太は緊張しているのか、さっきまで一緒の学校に居た優菜に挨拶をする。


「ふふ、こんにちは」

「あのさ……今朝にメールした話したいことだけど――」

「その前に上がって。部屋でゆっくり話そう」

「あ、うん。ありがとう」

 

 将太は玄関を入ると「お邪魔します」と、声を掛ける。靴を脱ぐと、優奈と一緒に部屋へと向かった――部屋に入ると、将太は正面に描いた絵が額に入れられ、机の上に置かれているのを見つける。


「あ!」

 

 優奈は声を漏らすと直ぐに机の方へと駆け寄り、将太が描いた絵を伏せた。将太の方を向くと、「えっと……見えた?」


「うん、見えた。なんで伏せちゃうの?」

「そりゃ……まぁ……恥ずかしいから?」

「ふーん、俺は嬉しいのに」


 優奈は照れ臭そうに髪を撫でると「えっと……それで話したい事って何?」と、話題を逸らした。


「告白の事だけど……駄目だった」

「そう……」

「ごめんな、協力して貰ったのに」


 優奈は直ぐに首を振り「うぅん、そんなこと気にしなくていいよ」


「ありがとう」

「どう致しまして」


 優菜は将太があの時、話を聞いていたことを知らない。将太はどうやって謝ろうか困っているようで、眉間にしわを寄せていた。


「それと――」

「それと?」

「もう一つ謝りたい事があって……実は昨日、優奈が俺のことで竹内さんに怒っている所を見ていたんだ。ごめん! 俺のせいで嫌な思いをさせた」


 優奈はニコッと微笑むと「そうだったんだ……私は大丈夫だよ。ちょっとイラッとしたけど全然平気。それより将太は大丈夫なの?」


 平気だって言ったって、ウザいなんて言われれば誰でも傷つく。それなのに自分を心配してくれる優しさに触れ、将太は感極まったのか優奈の前だというのに、涙を零してしまう。


 優奈はそれを見て、将太の方へと近づくと――ソッと包み込むように抱きしめた。そして優しく背中を擦りだす。優奈は小さい頃、将太が悲しい時はよくこうしていた。将太は優菜の肌の温もりと、この仕草を懐かしく感じているのか、安らいだ表情を浮かべていた。


「大丈夫、大丈夫……あんな奴を相手にしなくたって、将太ならきっと良い人が見つかるよ」


 違う……そうじゃないんだ。将太はそう言いたげだったが、今はそれを伝えるだけの余裕がないようで「ありがとう」という言葉だけ、絞り出した。


「うんうん」


 少しして、将太は涙が引くと「ごめん。もう大丈夫」


「分かった」と、優菜は返事をして体を離すと、照れ臭そうに微笑む。


「えへへ。何だか懐かしかったね」

「そうだな」

「――ねぇ将太」

「なに?」

「将太が進んでくれたから、私も進みたいの……良いかな?」

「え、あ、うん」


 将太は何のことだか分かっていない様子で、嫌な予感がしているのか不安そうな表情を浮かべた。


「さっき私が将太に言った良い人なんだけど──それ、私じゃ駄目かな?」

「えっと……それってつまり――」


 将太がそう言うと、優奈は恥ずかしそうに俯き「うん……私は将太の事が好きなの」


「──で、でもさ。中学の時に告白された時、優奈は好きな人が居るって答えたんだろ?」


 優奈は顔を上げると「うん、確かにそう断った。あなたはそれが自分だと思わなかったの?」と、首を傾げた。


「思うわけないだろ? 俺なんかお前に釣り合わない」

「そう……悲しいな。何であなたは釣り合わないと思うの?」

「そりゃ……俺なんて何も持ってないから」

「何か特別なものを持ってなきゃ駄目なの? 私はただ一緒に居たい。その気持ちだけで十分だと思うよ」


 優奈はそう言うと将太に背中を向け、部屋の奥へと歩いて行く――将太の描いた絵を手に取るとジッと見つめた。


「――あなたが正直に話してくれたから、今度は私も正直に話すね。実は私の体を描かせてあげると提案したのは、あなたを繋ぎとめたい気持ちと、駄目でも良いから先に進みたいという気持ちがあったからなの」


 優奈は持っていた絵を優しく机に置くと、「そうじゃなきゃ、いくら幼馴染だからって、体なんて描かせないよ」と言って、クルッと体をこちらへ向けた。 


「つまり何も持ってないと言ったあなたの事を、私はそれだけ好きっていう事なんだよ」


 将太は自分が好きだった女の子が、こんなにも自分を好きでいてくれた感動と、自分は今まで一体何をやってきたんだという後悔。そして今すぐにでも優奈の気持ちに応えたいのに、振られたばかなのにそれで良いのか? という迷いが入り混じっているようで複雑な表情のまま黙り込む。


 ──少しして何かを決意したのか、真剣な顔をして「優奈、ごめん。返事はもう少し待っていてくれないか?」


「うん、あなたの気持ちが落ち着くまで待ってる。その代わり――」と、優奈は言って、ゆっくり俺の方に近づき前に立つと、自分の小指と俺の小指を絡ませる。


「また遊びに来てね」

「うん、約束する」

 

 将太はそう返事をして、笑顔の優奈を見つめながら指切りげんまんをした。

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