【飼い猫が運んでくれたもの】
続いての春樹のお客さんは、別の高校に通う翼という男の子で、たまに見かけるクラスメイトの女の子が好きなんだけど、告白するにはどうしたら良いのかという相談だった。
「俺も色々悩んだから分かるな」
「春樹さんは告白したんですか?」
「う、うん。一応……」
「何がキッカケで?」
春樹は苦笑いを浮かべると「漫画に触発されて……」
「へぇー、凄いですね」
「そ、そう?」
「はい。想いを伝えるだけで凄いと思います」
春樹は嬉しそうに笑顔を浮かべると「ありがとう」
「悩みの事だけど、何かキッカケがあれば良いね……もう少し君たちの事を聞かせて貰って良いですか?」
「はい」
翼はそう返事をして、過去を話し始めた──。
※※※
「ニャーター」
翼は朝から黒白の飼い猫。ニャータを探していた。ニャータは自由気ままに家から抜け出して、傷を負って帰ってくるので、翼は眉を顰めて心配に探していた。
「まったくあいつ……どこに行ったんだ?」と、翼は呟きながら、キョロキョロと辺りを見渡していると、クラスメイトの夏海が、黒髪のポニーテールを揺らして、ジョギングしているのを見かけた。
唾がそのまま夏海を見ていると、向こうも気付いたようで目と目が合う。夏海は切れ長の目を細めて微笑むと、翼に向かって「おはよう」
「おはよう……」
翼が恥ずかしそうに挨拶を返すと、夏海は向かうように立ち止まる。夏海が半袖、短パンと白くて綺麗な肌を露出していたからか、翼は目のやり場に困ったようで、夏海から目を逸らした。
「翼君、こんな朝早くからどうしたの?」
「あ、いや……うちの飼い猫探していて」
「どんな感じの?」
相変わらず夏海は気さくに話しかける。翼はそれだけで、嬉しいようで笑顔を浮かべていた。
「どこにでもいる白黒の猫だよ」
「それってもしかして、髭みたいな模様のある子?」
「そうそう。ゲームのキャラクターみたいな髭のある猫」
「今日は見掛けてないな」
「今日は?」
「あぁ、たまに見かけるのよ」
「そういうこと」
夏海は首から下げた白いフワフワのタオルで額の汗を拭うと「名前は何て言うの?」
翼はクラスメイトに飼い猫の名前を教えるのが恥ずかしようで、少し間を置いてから「──ニャータ」と、ボソッと答えた。
「ニャータか、可愛い名前ね! タだからオスかな?」
「うん、オス」
夏海は突然、キョロキョロと辺りを見渡すと、口に手をあて「ニャータ~、ニャータ~」と、呼び始める――すると、どういう事か止まっていた軽トラックの隙間から、ニャータがヒョッコリ顔を出した。
「あ! あいつ俺が呼んでも出てこなかったくせに」
「ふふ」
夏海は笑いながらしゃがみ込む。
「ニャータ、おいで」
ニャータはすんなり、トテトテと夏海の方へと歩き出し、随分、なついているようだった――夏海は近づいてきたニャータの頭を撫で撫ですると、スッと抱きあげる。
羨ましいな、おい。その位置を替われなんて思っているのか、翼は口を半開きにして
夏海を見つめていた。
「はい、どうぞ」
夏海がニャータを差し出すと、翼は夏海の体に触れない様に、緊張しながら受け取っていた。
「ジョギングの途中に、ありがとう」
「大丈夫。猫にも触れられたし、満足だよ」
「そう、良かった」
「それじゃ、また学校でね」
「うん」
夏海は笑顔で手を振ると、また走って行った。翼がそれを黙って見送っていると、ニャータが急に暴れ出す。
「ちょ、こら!」
ニャータは液体のごとくスルッと翼の腕から抜け出すと、ダァーっと、勢いよく走って行ってしまった。
「まったく……あいつ夏海さんの前だからって猫を被っていたな。怪我しても、もう知らん!」
翼はニャータの捕獲を諦めようで、家に向かって歩き出した。その表情はニヤニヤと嬉しそうである。ニャータのおかげでいっぱい夏海と話せたことが嬉しかったのだろう。
※※※
「ふむふむ。まったく知らない間柄ではないんだね」と、春樹は言って、ペットボトルのお茶を手に取る。
「はい」
春樹はペットボトルのお茶をゴクッと飲むと「なるほどねぇ。そういえばもうすぐそっちは文化祭だよね?」
「はい、明日です」
「あ、明日なんだ。じゃあそれをキッカケにもっと話してみたら? 恋愛イベントは定番にあるでしょ?」
「はい。やっぱりそうなりますよね」
「うん。陰ながら応援していますから、頑張ってください!」
翼は通学鞄を肩に掛けると「ありがとうございます」と、御礼を言って恋愛相談所を後にした。春樹はそれを複雑な表情で見送っていた。春樹は話を聞いていて、転校していった夏海だと気付いたのかもしれない。
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