7話
今日は水曜日で、春樹は運動をする日なのでプールに居た。ここ最近、友香は忙しいのか、本当にたまにしか会うことはなくなっていた。
春樹は今日は会えるかな? と、探しているようで、キョロキョロと辺りを見渡す──が、見当たらない様子だった。
「次に会ったら、話そうと思った事があったのに……仕方ない、泳いで時間を潰すか」と、春樹は呟き、準備体操を始めた。
――泳ぎ始めて一時間が経過するが、友香は一向に現れる気配が無かった。
「諦めるか……」と、春樹は呟き、プールから上がって採暖室に向かっていると、正面から友香が俯き加減で歩いてくるのを見かける。
春樹は久しぶりという事もあって、嬉しくて笑みが零しているようだった。春樹は友香に近づきながら「友香さん」
友香は春樹の声に気付き顔を上げるが、何だか浮かない表情を浮かべていた。いつも笑顔を返してくれる友香が、今日は返してくれないことに、疑問を抱いたのか春樹は首を傾げる。
「春樹君も来ていたんだ」
「うん。友香さんは今から」
「そうだよ」
「いつも一時間ぐらい泳いでるよね? 終わったらで良いんだけど、その……ちょっと話でもしない」
「え……良いけど」
「ありがとう」
――春樹は泳いだり採暖室に行って、休んだりと時間を潰す。30分程経ったところで採暖室の横向きベンチに座っていると、友香が現れた。友香は春樹と同じ横向きベンチに、人二人分ぐらいの距離を空けて座る。
「話って何?」
「え、もう良いの?」
「うん、今日はこれぐらいにする」
「ごめんね。急かしちゃったみたいで」
「大丈夫だよ」
友香がそう返事をすると、二人しか居ないのでシーン……と静まり返る。春樹は話があると切り出しておきながら、迷っているようだった。
「──あのさ」
「なに」
「辛かったら聞き流してくれて良いけど、小学校の時さ」
春樹がそう切り出すと、友香は表情を曇らす。春樹はそれをみて話をやめようかと思ったのか、口を閉じた──が、直ぐに開いた。
「友香さんが眼鏡のことで、クラスメイトからかわれた時期があったじゃん。その時さ、庇ってあげられなくて、ごめんね。本当はやめろよって言いたかったんだけど、勇気が無くて、言えなかった」
友香さんはそれを聞いて不快に思ったのか、強張った表情を浮かべ、無言で立ち上がる。そして数歩歩いて、春樹に背中を向けた状態で、立ち止まった。
「今さらこんな事を言い出して、怒るのは無理ないと思うけど、その……ちゃんと謝って、もっと仲良くなりたくて、えっと……それで……」
友香は春樹に背を向けたまま、泣いているようで、グスッと鼻をすする。
「春樹君はその時、私に何を言ったか覚えている?」
「うん――気にしなくて良いって。僕は似合っていると思うよって、友香さんに言う事しか出来なかったのを覚えてる」
「私にしかって春樹君は言うけど、それがどれだけ心の支えになったか分かる? あの時期、そうやって優しい言葉を掛けてくれたのは、春樹君だけだったんだよ」
「え、そうなの?」
「うん」
春樹はそれを聞いて、ホッと胸を撫で下ろしたようで、安堵の表情を浮かべていた。
「あと怒ってなんかないよ。むしろ嬉しい。だけど――」
「だけど? 何?」
友香は春樹の質問を聞いても、迷っているようで黙り込む。
「──いまこのタイミングで、聞きたくなかった」
「え……それってどういう事?」
「――ごめん。もう帰るね」
友香はそう言って、そそくさと出入口に向かって歩き出す。
「え、ちょっと」と、声を掛けるが、友香は歩みを止める事無く、出て行った。
「いまこのタイミングで聞きたくなかった? 一体、どういう事?」
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