【可愛い妹が突然、私を振ってくださいとお願いしてきた。えっと、そんなこと言われても俺はお前が好きだから、どうしたら良いか分からない】

 続いての春樹のお客さんは他校の生徒の拓哉たくやという男の子だった。拓哉は本当に相談しようか迷っているのか、恋愛相談所に着くなり俯いて、黙り込んでいた。春樹はそれを察しているようで、自分から話しかけてはいなかった。


「──あの、これから話すこと、誰にも話さないで貰いたいんですけど」

「はい。俺は口が堅い方なので大丈夫です」

「分かった。俺……本当の妹の結愛ゆめが好きで悩んでまして」


 春樹は一瞬、驚きの表情を見せるが、直ぐに表情を戻して「分かりました。詳しく話を聞かせて貰って良いですか?」

「はい」


 拓哉はそう返事をして、話し始めた──。


 ※※※


「あ~! おにぃのせいで、レアモンスター逃げちゃったじゃん! ちゃんと罠を仕掛けてよ!」と、結愛は言って、艶々の黒髪ポニーテールを揺らしながら、拓哉の肩にコツコツと頭突きをしている。


「集中できなかったんだから、仕方ないだろ!」

「何で集中できなかったのさ?」

「そりゃ……」

「そりゃ?」


 二人は昔からこうして、ベッドに座りながら肩を並べてゲームしていた。だが高校生にもなって恋人同士のように体を密着されれば、さすがに意識をしてしまうようで拓哉は照れているようだった。


 拓哉は妹のことを本当に同じ両親から生まれたのか? と疑問に思うほど可愛いと思っているようで、なおさら意識をしてしまっているのかもしれない。


 拓哉はそんなこと言えないようで「──何でもない」


「そこまで言って言わんのかい!」と結愛が突っ込みしたところで、一階から「もうすぐ御飯よ~。下りておいで」と母親の声がする。


 拓哉はナイスタイミング! と、思っているのか安堵の表情を浮かべる。


「もうそんな時間か。おにぃ、また一緒にゲームしようね!」

「あぁ」


 拓哉は返事をしながら、ゲーム機の電源を落とした。


 ※※※


 そんなある日の日曜日。結愛が突然、拓哉の部屋にやってきて、雑貨屋で買い物をしたいと言い出したので、拓哉は付き合うことになった。ファンシーグッズが並んでいる棚を見ながら二人は肩を並べて歩いていく──。


「ねぇ、おにぃ」

「なんだ?」

「私たち、他人から見てどういう関係に見えているんだろうね」

「え?」


 拓哉は今までそんなことを気にしたことないのに、いきなりどうしたんだ? と、おもっているのか、キョトンと驚きの表情を見せる。


「さぁ? 兄妹かな?」

「そうだよね」

「いきなり、どうしたんだ?」

「うぅん、何でもない」


 遅いけど、そういうのが気になる年頃になったのかな? と、拓哉は思ったのか、ちょっと離れて歩き出す。

 結愛は何か気になるものが目に入ったのか、ゆっくり立ち止まり、商品棚の方に体を向ける。拓哉は結愛の斜め後ろで立ち止まった。


「ねぇ、おにぃ」

「ん?」

「おにぃはさ。──彼女を作らないの?」

「え? ──作らないというか。作れないが正解かな」と、拓哉が苦笑いを浮かべながら答えると、結愛は微笑む。


「そうかな? おにぃなら頑張ればできる気がするけど?」と、結愛は言ってペンギンの縫いぐるみを手に取る。


「ありがとう。でもまぁ……今のままで満足しているから。結愛の方はどうなんだ?」

「私は……おにぃと同じかな?」

「そうか」


 結愛は縫いぐるみを商品棚に戻すと「おにぃ、ごめん。せっかく買い物に付き合って貰ったけど、欲しいものまだ無いみたい」


「そうか、仕方ない。それじゃ帰りにドーナッツでも買って帰るか」


 結愛は拓哉の方に体を向けると、「うん!」と元気よく返事をして微笑んだ。拓哉は子供っぽく微笑む結愛をみて、それだけで来た甲斐があったと、満足そうな顔を浮かべていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る