【可愛い妹が突然、私を振ってくださいとお願いしてきた。えっと、そんなこと言われても俺はお前が好きだから、どうしたら良いか分からない】

 次の日。拓哉が高校から帰って自分の部屋に入ると、結愛はセーラー服のままカーペットに座って、ゲームを始める準備をしていた。


「あ、おにぃ。お帰り」

「ただいま」と、拓哉は返事をして、床に通学鞄を置くとベッドに座る。コントローラーを手に取ると、ゲームが始まった。


「あれ? 結愛。隣に来ないの?」

「うん。今日はここでする」

「そう……」

「珍しいな」


 隣がスースーするからか、拓哉は寂しそうな表情をしていた──それから数時間、ゲームをするが、結愛はミスばかりしていた。いつもなら騒がしいぐらいキャッキャと楽しんでいるのに、心なしかつまらなそうにも見える。


 拓哉何か嫌な事でもあったのか? と、思っているのか、チラチラと心配そうに結愛を見ていた。すると結愛はゆっくりコントローラーを床に置き、うつむきながら「ねぇ、おにぃ」


「ん? どうした?」

「──私ね。おにぃの妹じゃなければ良かったと思う」

「え……」


 結愛のいきなりの発言に、拓哉はガーン……と効果音が鳴りそうなぐらい驚いている。驚きのあまり落としそうになったコントローラーを床に置き「おい、いくら俺が変な兄貴だからって、それはさすがに悲しいぞ」


「違う。おにぃが思っているような事じゃないよ。じつはね──クラスメイトの男の子に、告白されちゃって」


 結愛の可愛さだったら、おかしくはないと思っているのか、拓哉は「──へぇー、良かったじゃないか。それで、どうするんだ?」と冷静に返した。でも体は正直のようで、拓哉は自分の顔を結愛に見せないように俯く。


「正直、迷ってる」

「何で?」

「その子ね。クラスで割と人気があって、話していると相性も悪くないと思うんだけど……」

「だけど?」

「その子のこと友達以上に見られるか不安なの」

「そういう事か……」と、拓哉は息を吐くように返事をする。


 その様子は結愛の気持ちを聞いて、拓哉は胸を撫でおろしているようだった。兄として妹を取られたくないからか、それとも男としてなのか、それは本人にしか分からないが、いずれにしても嫉妬していることは確かのようだ。


「私はおにぃのこと、ほかの誰よりも知っているつもり」

「そりゃ、兄貴だからな」

「うん。だからね──」と結愛は言って顔を上げ、拓哉を見つめると「おにぃのこと、大好き」


 面と向かってそんなこと言われて、拓哉は照れているようで、落ち着かない様子で髪を撫でた。


「あ、ありがとう」

「うん。でも、おにぃが思っているような意味じゃないよ」

「ん? どういうこと?」

「私は妹としてじゃなく、女の子として、おにぃが好きってこと」

「え……」


 拓哉は驚きのあまり何も言葉が浮かばないようで、結愛を見つめながらボォーっと黙り込む。結愛はスッと立ち上がる。


「だけど、そんなの駄目だよね。だから一歩踏み出してみようと思うの。だから──」と、結愛は言って、悲しげな表情で俺を見下ろしながら「私を振ってください」とお願いしてきた。


 拓哉は頭の中がゴチャゴチャで、どう答えたら良いのか分からないようで「──とりあえず時間が欲しい。いくら言葉だけとはいえ、簡単に言いたくない」


「あ……そうだよね。ごめん、おにぃの気持ちも考えずに身勝手だった」

「大丈夫だよ」

「ありがとう。返事は一週間、待ってもらっているから。それまでに返事を貰えると嬉しいな」

「分かった。それまでに返事する」

「ありがとう」


 結愛は御礼を言うと、部屋の出口に向かい、出て行った。拓哉はベッドに寝ころび、天井を見据える──。


「結愛を振ってしまえば、結愛は誰かのものになるのか……」


 少しして拓哉は昔を思い出していたようで、薄っすら涙を浮かべながら、そう呟く。


「そんなの嫌だ……可愛い結愛を振りたくないし、取られたくもない! 俺も結愛のこと──男として、好きだ。だけどそんなの俺の我儘。結愛もそう思ったから俺に振ってくれとお願いしてきたのだろう……」


 腕で目を隠すと「あ~……一体、どうしたら良いんだよ」と嘆いていた。


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