性悪女子に振られたら、なぜか恋愛相談所を手伝うことになりまして、様々な出会いのお蔭で、学校の人気者になっていました。振った女性? もう眼中にありません
若葉結実(わかば ゆいみ)
始まり
「一年の時からずっと好きでした。付き合ってください」
桜が舞う季節。
告白された亜由美は茶色のミディアムウェーブの髪を撫でながら、顔を顰める。春樹は嫌な予感がしたのか、顔を歪めた。しばらくすると、亜由美がようやく口を開ける。
「ごめん、勘違いされたら嫌だからハッキリ言うわ。私、あなたのこと好みじゃないし、性格もなんかこう……暗い感じがして好きじゃない」
春樹はハッキリ言われた事がショックだったようで、黙ったまま固まって動かなかった。
「用はそれだけ? 私、もう行くから」
「あ、うん。ごめん、ありがとう」
亜由美は眉を吊り上げ怒った表情を浮かべながら、そそくさと行ってしまった。春樹まだ動けそうになく、亜由美の背中を黙って見送るだけだった。
「はぁ……何も怒らなくてもいいのに。──暗いねぇ」
春樹は今にも泣きそうな表情でそう呟く。春樹の性格は確かに明るい方ではなく、人、特に女性が苦手で話しかけることさえ、ままならない。そんな印象のある青年だった。そんな春樹が告白まで出来たって事は、それだけ本気だったのかもしれない。
※※※
授業が終わり、春樹はまだ亜由美の事を引き摺っているようで暗い表情のまま家に帰る。居間のドアを開けると、「ただいま……」と、中に入った。
「お帰り」と、春樹の父
康夫は春樹の顔をジッと見ながら「どうしたんだ?」
「え、どうしたって?」
「いや、返事が暗い感じがしたから」
春樹は何か言いたそうに口を開くが、直ぐに閉じる。少ししてまた口を開くと「──何でもないよ」と、返事をして洗面所に向かって歩き始めた。
「お兄ちゃんね。今日、女の子に振られちゃったのよ」と、梓が言うと春樹は驚きの表情で「ちょ、お前。何でそんな事を知っているんだ!?」
「噂は本当だったんだ……」
「噂?」
「私の友達が学校の廊下で、春樹に告白されちゃってさぁ、最悪。あんな暗いやつ、好みじゃないつぅの! って言ってる先輩を見かけたって」
春樹はその話を聞いて、顔を歪める。
「お兄ちゃん、振られて良かったじゃん。そんな女、成功したってロクな女じゃ無かったよ」
「――そうだな」
「うん、次々!」
「ありがとう」
「春樹、手洗いうがいを済ませたら、こっちに来てくれ。話がある」
ずっと黙って聞いていた康夫はそう言うと、居間にある木の椅子に腰掛けた。
「あぁ、分かった」
春樹はそう返事をすると、洗面所に向かった――手洗いうがいを済ませて、居間に戻る。康夫の向かいに座ると「話って何?」
「春樹。お前、もしかして女の子が苦手なのか?」
「え……あ、うん。何を話して良いのかとか、距離感とか全然分からなくて……」
「妹がいるのに?」
「いや、あいつは異性として見てないから」
梓はテレビを観ながら話を聞いていたのか、クッキーをくわえたまま、春樹の方に顔を向ける。クッキーを口から外すと「なにそれ、ひどッ!」
「いや、お前が思っているような事じゃないから」
「ふーん……まぁそういう事にしといてあげる」と、梓は言って、クッキーをくわえると、またテレビの方を向いた。
「距離感ねぇ……そうだ。お前、俺の代わりに恋愛相談所で働いてみろ」
「はぁ? そんなの無理に決まっているだろ」
「やってもいないのに無理なんて言うな。大丈夫、空いている土地が勿体ないからって、小遣い稼ぎに始めた程度だぞ?」
「そんなこと言われても、何をしたら良いのかも分からないし……女性と話すのが苦手だって言ってるじゃん。何を言ったら良いのか分からないんだよ。手順書みたいのあるの?」
「ない! 恋愛にマニュアルなんてあるか!」
康夫が発した言葉にその場が凍りつく。梓は唖然とした顔で、康夫を見つめていた。春樹も同じ表情で親父を見つめている。康夫はそれを察したのか、コホンっと咳払いをすると、「とにかく料金とか時間とか、そういった細かいことは俺がやるから、お前は相談に乗ってあげれば良いだけだから」
「うーん……」
「お小遣いだってやるぞ」
「いくら?」
「お前が対応した御客さんから貰った金額をなんと! そのまま」
「まじか!?」
「まじで」
「そりゃ、興味湧いてきた」
「だろ? とにかく女性と話すのは慣れだから、やってみろよ。駄目だったとしても怒らないし、何も気にすること無い」
「どうしようかな……」と春樹は言って、考え事を始めたのか髪を撫で始める。少しして、髪から手を離すと「分かった、やってみる!」
「そうこなくちゃ! さて早速、今週の日曜日からな」
「え? もう?」
「そうだよ。それじゃ頼むな」と、康夫は言って立ち上がると、グゥーっと背伸びをする。
「さて、久しぶりの休みだ~。釣りでも行こうかな!」と、嬉しそうに言うと、居間から出て行った。
「もしかして、休みが欲しくて俺に言ってきたんじゃ……」
梓が憐れんだ表情でジッと春樹を見つめる。春樹はその視線に気づいたのか苦笑いを浮かべた。
「お兄ちゃん、頑張ってね」
「お、おぅ」
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