【イケメンのクラスメイトが俺の幼馴染を狙っているみたいだ。完璧過ぎて勝てそうにないので、仲良しッぷりを暴露して諦めさせようと思う】

 続いての春樹のお客さんは、梓と同級生の悠斗ゆうとだった。悠斗の相談内容は、幼馴染がイケメンの同級生に取られそうだから助けて欲しいとの内容だった。


「先輩、どうしたら良いと思います?」

「うーん……もう少し詳しく聞かせて貰って良いかな?」

「はい!」

 悠斗は元気よく返事をして、今までの事を話し始めた──。


 ※※※


 何の変哲もない朝。悠斗はいつも通り、通学路を歩いて高校に向かう――。下駄箱に着くと、クラスメイトの相原を見かけた。悠斗は挨拶をしようか迷っているようで立ち止まる。だが直ぐに動き出し、奥に進むと、自分の靴入れの前に立った。


「おはよう」

「……」


 悠斗が挨拶したのに、相原は何も言わずに、直ぐに廊下を歩いて行ってしまった。


「何だよ、胸糞わりぃな! クラス一のイケメン君は、俺なんか眼中にないってか!?」と、怒りながら内履きに履き換えると、相原と同じ方向に歩き出した。


 ──廊下の端に二人の女子生徒が居て、チラチラと相原を見ている。


「相原君が来たよ」と、女子生徒が声を出したが、相原はそんなこと気にする素振りも見せず、真っ直ぐ見据えたまま通り過ぎていく。女子生徒は見掛けただけで満足だったのか、キャーキャー騒いでいた。


「ヘンッ!」と、悠斗が気に食わない様子で声を出すと、「悠斗」と、女子生徒が後ろから声を掛けた。


 悠斗は立ち止まり後ろを振り向く。女子生徒は悠斗に近づいて行った。


「千秋、おはよう」


 悠斗が挨拶すると、千秋は円らの瞳を細めてニコッと微笑むと「おはよ」と、返した。条件反射なのか、悠斗は幼い頃から千秋を見かけると、自然と笑みを零していた。


「なにニヤニヤしてるの? 気持ち悪い」


 口が悪くても、悠斗は全く気にしていない様子で、表情一つ変えない。サラサラのショートボブの黒髪を撫でるように触る仕草から、照れ隠しから出たものだと、分かっているようだった。


「こんな時間にお前が居るなんて珍しいな」

「今日は朝練が早く終わったの」

「あぁ、そういうこと」


 二人は肩を並べて歩き出す。微かに漂ってくる石鹸の匂いを感じ、腕と腕がぶつかりそうな距離で歩くのが好きなのか、二人の歩く距離は恋人同士のように近かった。


 ※※※


 授業が終わり休み時間に入る。悠斗が席に座っていると、クラスメイトのつとむが近づいてきた。


「おい、悠斗」と、話しかけ、悠斗の前の席に座る。


「相原のこと、聞いたか?」

「相原のこと? って何だよ」

「結構、噂になっているのに知らないのか? あいつ、千秋ちゃんの事が好きらしいぞ」

「は?」


 衝撃的な言葉に悠斗は次の言葉が思い浮かばないようで、黙り込む。


「悠斗、ピンチだな。どうするんだ?」

「どうするんだって……いきなりで何も思い浮かばない」

「取られる前に告っちまえよ」


 勤はニヤニヤしながら、悠斗を見ている。


「お前、他人事だと思って、面白がっているな。そんなの自信があれば、とっくにやっている」

「バレた」

「正直さぁ、俺、自信がないんだ」

「何で? 仲良いじゃないか」


 確かに周りの人が羨むぐらい二人は仲が良かった。だけど悠斗は人気者の千秋ならだれでも好きな相手を選べてしまうと考えているようだった。


「仲良いからって、成功するとは限らないだろ?」

「そりゃ、そうだけど……」


 勤は納得いかない感じでそう言うと、黙ってしまう――面白がってはいたものの、悠斗なら大丈夫だと思った上で、からかっていたのかもしれない。


 勤はスッと立ち上がると「まぁ、お前が決める事だし、これ以上は何も言わないでおく。次、体育の授業だから早く、着替えて行こうぜ」


「あぁ」


 勤は悠斗の返事を聞くと、自分の席の方へと戻っていった――。


「はぁ……何か一つでも相原に勝てる事ないだろうか? それがあれば一歩踏み出せるのに」

 

 そう呟いた悠斗は大事な幼馴染を、あんな奴に取られるのを黙って見ていたくはないが、自分に自信を持てていない様子だった。


 ※※※


 悠斗は青のジャージに着替えると、グラウンドに向かう。今日の体育はマラソンで、悠斗は昔、運動部ということもあり、相原の華奢な体を見ながら、自信がありそうな表情を浮かべていた。


「はい、位置について」と、男の体育教師が言って、笛を鳴らす。クラスメイトの男子は一斉にスタートした。


 ――数分走っていると悠斗は自分の甘さを痛感する。相原は悠斗の横を涼しい表情で通り過ぎ、一周の差をつけていた。女子の方が走る距離が短いので、チラホラとゴールする人が見えてくる。その女子は案の定、相原に向かって黄色い声援を送っていた。


「くそー……負けたくない」と悠斗は呟くが、その距離が埋まることはなかった。


 ──体育の授業が終わり、ゾロゾロとクラスメイトが教室に向かい始める。

「次の数学の授業、嫌だな~」

 

 悠斗の横を歩いている勤がそう話しかける。


「あ! 今日、テストが返ってくる日だっけ?」

「そうだよ。お前、忘れていたのか?」

「あー……まぁ、終わった事だし、気にしないでいこう」

「そうだな」


 ※※※ 


 数学の授業が始まり、続々と解答用紙が配られていく――悠斗は名前を呼ばれると、教壇に向かって歩き出す。その時、相原の点数をチラッと覗き見ていた。相原の点数は90点で堂々と机に置いていた。

 

「ケアレスミスが多いぞ」と、数学教師が解答用紙を渡す。悠斗は自分の点数をみて、恥ずかしくなったようで、直ぐに点数の所を折り畳むと、自分の席に向かった――。

 

 悠斗はイケメンで、頭が良くて、スポーツも出来る。そんな相原に対して焦りを感じているようで、自分の席に座ると、直ぐに頭を抱える。


「点数どうだった?」と、千秋が後ろからヒョッコリ顔を出すと、悠斗はビックリしたようで「うわぁ~!!!」と、大声を上げた。


 クラスメイトがチラホラ、悠斗を見ている。悠斗はそれを感じ取ったのか、恥ずかしそうに俯いた。


「そんなにビックリしなくても」

「だって……」


 千秋は悠斗の解答用紙をジィーッと見つめ、ポンっと肩に手を置く。きっと点数の所が折りたたまれていたので、何かを察したのだろう。


「あ~……どんまい」と、千秋は苦笑を浮かべ、自分の席の方へと行ってしまった。悠斗は恥ずかしくて叫びたい気持ちを必死に抑えるかのように、机の上に顔を伏せた。


 ※※※


「ってな感じなんですよ、先輩。どうしたら良いですか?」

 

 悠斗は春樹にしがみつきそうな感じで、そう言った。春樹は腕を組むと「うーん……悠斗君はとにかく何か確信が欲しいって訳だね」


「はい!」

「ちょっと思ったのが、悠斗君が相原君より有利なのは、千秋さんと小さい頃から一緒に居て、色々なところを知ってるって所だと思うんだよ。それを何とか利用してみたら、どうかな?」


 悠斗は何か希望が見えたのか、さっきまで暗い表情を浮かべていたのに表情を明るくして「あー……それなら何となく、やれそうな気がしてきました」


「良かった。じゃあ良い報告を待ってるね」

「はい!」


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