【好きな女の子の絵を描いていたら、幼馴染の体を描くことになりました】

 それから数週間が経つ。その間、二人は都合がつけばお互いの部屋で遊んだり、絵を描いたりと一緒に過ごしていた。今日は優奈がSNSのアイコン用に絵が欲しいと、将太に頼んでいたので、将太は候補をいくつか描いて優奈の部屋に来ていた。


 将太は白い絨毯の上に座ると、お絵描きノートを開き「優奈、頼まれていたチビキャラの絵、出来たよ」

 

「どれどれ、見せて」と、優奈は将太の隣に座ると、顔を寄せる。吐息が分かるんじゃないかというぐらい顔が近くて、将太はドキドキしているのか、顔が強張っていた。


「へぇー……どの表情もイキイキしていて可愛いね」

「優奈もそう思う?」

「うん」

「だってこれ、優奈を想像して描いたんだもん」

「え?」


 優奈は目を丸くして将太を見つめる。そうそう、この顔が見たかったんだよと、将太は思っているのか、満足げに優菜を見つめていた。


「これを描いてて、優奈が言った『ただ一緒に居たい。その気持ちだけで十分だと思う』って気持ちが分かった気がする。だからこんなにもイキイキとしたチビキャラが描けたんだって思う」


 将太は優奈の手を取り、ソッと包み込む。


「返事……遅くなってごめん。俺も優奈の事が好きです。俺と付き合ってください」


 優奈は満面な笑みを浮かべると「うん。こちらこそお願いします」


「良かった……これで断られたらどうしようかと思った」と、将太は言って、手を離す。


「断る訳ないじゃん」

「そりゃ、分からないだろ――ねぇ」

「なに?」

「さっきの驚いた顔と嬉しそうな顔もチビキャラにして良い?」


 優奈は頬を赤く染め、将太の肩に顔を預けると、「良いけど……意識したら恥ずかしい」


「大丈夫だよ。今の恥ずかしそうな顔も追加するから」

「え~? 意地悪だな」


 将太は優奈の頭に頬を寄せ「ふふん。やられっぱなしじゃいられないからね」


「もう……」

「優奈」

「なによ」

「いつもありがとう」

「うん」


 二人は幸せそうな顔を浮かべながら、ソッと目を閉じた。


 ※※※

 

 さらに数週間が経ち、優奈が載せたSNSのアイコンが、優奈のクラスで人気になり、自分のクラスでも人気者になる。そのおかげで将太は今、充実した日々を過ごしているようだった。そこへ竹内が現れる。


「ねぇ、小林君。私のチビキャラも描いてよ」

 

 竹内は将太の席の前に立ち止まると、そう言って手を合わせた。将太があの時、聞いていた事は知らないとはいえ、振った人間に図々しく頼む竹内の態度が気に食わなかったようで「え? だって竹内さん、俺の絵を受け取らなかったじゃん」


「それは……あの時は告白だったからで、ごめんね」

「あぁ……そういうこと。いずれにしても沢山の依頼が入っていて一人一枚って決めてるから、ごめんね」

「そう……じゃあ、あの時のってある?」

「ごめん。捨てちゃった」

「そう、だよね……分かった」


 竹内はそう言うと、舌打ちでもしそうなガラの悪いかを浮かべて去って行った。将太はそんな竹内を見送ると聞こえないぐらいの小さな声で「ざまぁ」と言った。


 将太は竹内の言うとおり、告白だったから受け取らなかったまでは分かっているようだったが、その後、優菜を傷つけた態度を考えると、どうしても許せないようだった。


「――さて、気を取り直して今日も優奈を描くぞ!」


 将太は優菜の近くに居るだけじゃ物足りず、優奈を題材としたウェブコミックの練習も同時に進めていた。高校を卒業して数年経った後、優奈をヒロイン、竹内を悪役にしたウェブコミックを描いたら、それもイキイキしていると感想を得るのだが、それはだいぶ先の話である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る