【俺と同じ匂いのする地味な女の子に話しかけたら、俺を掌で転がすぐらいに可愛くなりました】

 次の日を迎え、明恵は照れくさそうに俯いたまま学校へと向かった──教室に入るのに勇気がいるようで、スーハーっと深呼吸を始める。


「あれ、アッキー? 髪型、変えたの」


 そう明るく話しかけてきたのは、いつも明恵と仲良く話している女子生徒だった。


「うん」

「良いじゃん、良いじゃん。可愛いよ」

「ありがとう」


 明恵はその女子生徒のおかげで、すんなり教室へと入ってく。クラスメイトの男子がチラホラと明恵の方へ視線を向けていき、ワタルもボケェーっと口を開け、明恵を見つめていた。


 ※※※


「明恵さんとの買い物は楽しかったし、ガラッと可愛くなったから意識しちゃって……でも気になる人が居ることを知ってるし、どうしたら良いか分からないんです」と、ワタルは言って項垂れる。


 春樹はテーブルの上にあるペットボトルに手を伸ばし、お茶をゴクッと飲むと「ワタル君は今、告白したい? したくない?」


「──振られたくないから、今はしたくないです」

「じゃあ応援はしたい? したくない?」

「正直──もうしたくないです」


 春樹はテーブルにペットボトルを置く「だったら今は何もせず、もう少し様子をみてたらどうかな? 聞いてる話だと二人は仲良さそうだし、もうすぐバレンタインだから、何か進展があるかもしれないよ?」


 ワタルはスッと椅子から立ち上がり「分かりました。様子を見ながら、気持ちを整理してみます」


 ※※※


 ──それから数日が経過する。明恵は調子に乗っていると言われることなく過ごし、好評で終わったおかげで、更にクラスメイトと打ち解ける事が出来ていた。


「アッキー、パスいったよ」

 

 明恵の方へとバスケットボールが飛んでいく。明恵は両手でガシッと受け取り、ぎこちない動きをしながらも、ゆっくりとドリブルを始めた。何人かのクラスメイトの応援が聞こえたその瞬間! ──玲奈が勢いよく背中にぶつかり、倒れこむ。


 体育教師のけたたましい笛の音が体育館に響き渡り、明恵はゆっくりと後ろを振り返った。


「おい、相川! 今のは危ないぞ」と、体育教師が言うと、玲奈は「はーい。気を付けます」と軽く返事をする。

 

 その後、不機嫌そうに明恵を睨みつけると、その場から離れて行った。ボールを取りに行っただけであんなに激しくぶつかる訳がない。明恵はそう疑問に思ったようで、起き上がると直ぐに玲奈を追うように走り出した──。


 明恵が追いつき「ねぇ」と話しかけると、玲奈は冷ややかな目で「なに」と答える。


「さっきの……わざとじゃないよね?」

「わざとだとしたら、なに?」

「──わざとなの!? 何でそんな事するのよ!!?」


「楽しいから」と、玲奈はサラッと言って離れていく──温厚な明恵も腹が立ったようで、眉を吊り上げ「何もしないって約束したのに、もう許さない!」と呟いていた。


 ※※※


 青のジャージから制服に着替えた明恵は、自分の席に座った。そこに直人が近づいてきて「アッキー、さっきの大丈夫か?」


「見ていてくれたんだ」

「あぁ、後ろから両手で突き飛ばすような動作だったから、ありゃ確実にわざとだな」

「やっぱり?」

「あぁ。そういやさ、前に明恵がノート開いて言ってたやつ、犯人は見つかったのか? なんか今日の行動みていたら、犯人あいつじゃねぇ? って思ったんだけど」


 明恵は少し迷い、黙り込むが口を開き「そう、当たり」


「まじか……」

「ちょっと! 何、でたらめ言ってるの!!」と、玲奈は聞き耳を立てていたようで、怒鳴るようにそう言って、明恵の席の隣で立ち止まる。


「証拠は!? 証拠はあるの!?」


 玲奈は証拠が無いと思っている。だからこそ、こんなにも証拠と言ってくるのだろう。明恵は必死で笑いを堪えているようで、フルフルと体を震わせる。


「あるよ。あなたが書いたノートとか貸してもらえる?」

「──何で?」


 玲奈は嫌な予感がしたのか、少し黙った後にそう答える。


「貸してもらったら教える。潔白なら貸してくれるよね?」

「分かったよ……」


 玲奈は納得いかないような返事をしていたが、自分の席の方へと歩いてく。


「大丈夫なのか?」と直人が心配したが、明恵は「大丈夫」とすんなり答えた。


 玲奈が戻ってきて「はい。あまりジロジロ見ないでよね!」と言いながら、ノートを机の上に放り投げる。明恵は開きながら「うん、そんなに掛からないから」とノートを開いた。そして通学鞄から一枚の紙を取り出し、机に置く。


「それ!」

「え、なに?」

 

 明恵はそう答え、玲奈を見上げる。玲奈は動揺しているようで、表情は明らかに曇っていた。そりゃそうだ。明恵が取り出したのは、玲奈が悪口を書いた部分をコピーした用紙だったのだから。ワタルと明恵はあの時、職員室でコピーを取っておいたのだ。


「なんでもない」

「そう。ねぇ、直人君」

「なに?」

「このコピーの字と玲奈さんの字、そっくりだと思わない?」

「あー、確かに……」


 直人がそう言ってマジマジとみていると、玲奈はサッと手を取り、コピーを取り上げる。


「こんなの似ているだけで、私とは限らないじゃない!」


 そう言いながらも玲奈はコピー用紙をビリビリに破いていく。潔白ならそんなことしないだろから、私が犯人ですと言っているようなものだった。


「あぁ。言い忘れたけど、その紙。家にもあるから」


 明恵がそう言うと、玲奈は驚いたようで目を見開き、手を止めた。明恵はスッと立ち上がり、玲奈の横に立つ。


「あなたが悪いんだからね……もう二度と関わらないで!」と言って、その場を去った。


 昔の明恵ならここまで言えなかっただろう。ワタルのおかげで明恵は逞しくなっていた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る