性悪女子に振られたら、なぜか恋愛相談所を手伝うことになりまして、様々な出会いのお蔭で、学校の人気者になっていました。振った女性? もう眼中にありません
【俺と同じ匂いのする地味な女の子に話しかけたら、俺を掌で転がすぐらいに可愛くなりました】
【俺と同じ匂いのする地味な女の子に話しかけたら、俺を掌で転がすぐらいに可愛くなりました】
それから数日が経過する。苛めのことはクラス中に広まり、玲奈はスッカリ浮いた存在になっていた。噂によれば玲奈が明恵を苛めていたのは、直人を取られたくなかったかららしいが、定かではない。でも、振り返ればバスケの授業の時、直人の声が混じっていたので本当なのかもしれない。
「アッキー、ハッピーバレンタイン!」と、明恵にクラスメイトの女の子が可愛らしく封のされたチョコを差し出した。
「ありがとう! あとでお返し持っていくね」と、明恵が返事をすると女の子は手を振り、自分の席の方へ戻っていった。入れ替わるように直人が近づいてきて「なぁ、アッキー」と話しかけてきた。
「なに?」
「今日の放課後、予定ある」
「ないよ」
「そう……じゃあ、話したい事あるから、体育館裏で待っていてくれない?」
「うん、分かった」
「よろしくな」
直人は言って、そそくさとその場を去っていく。それを見ていたワタルは居ても立ってもいられなかったようで、明恵に近づき「──告白だな」と話しかけた。
「え!? そんな訳ないじゃない。行き成り変なこと言わないでよ」
「じゃあ話って何だよ? 周りに聞かれたって良い話ならここでするだろ?」
「そりゃ……そうだけど……」
「まぁ、いずれにしても心の準備をしておくだな」
「うん……」
※※※
──放課後になり明恵がソワソワしながら待っていると、直人が笑顔で近づいてくる。
「ごめん、遅くなって」
「うぅん、大丈夫」
「それで話って何かな?」
明恵は告白されるのが初めてなのか、妙に落ち着かない様子で髪を撫で始める。
「えっと──」と直人は言いながら、ブレザーのポケットに手を突っ込み、金色のリボンが付いた黒色の包みを取り出す。
「これ。男が女の子に渡すのもありみたいだから」
「ありがとう」と、明恵は嬉しそうな声を出し、腕を伸ばすが、急に手を引っ込める。
「どうしたの?」
「えっと……受け取る前に確認しておきたくて。その──これって本命?」
直人は真剣な眼差しでコクリと頷き「うん、そのつもり」と答え、明恵はうつむき「どうしよう」と答えた。
明恵は迷っている様子で黙っていたが口を開けると「ごめんなさい! 気持ちは嬉しいけど、本命だったら受け取れない」
「そう……」
直人はショックだったようで、低い声でそう言うと、ポケットに包みをしまう。
「ごめんね」と、明恵が言って胸の前で手を合わせると、直人は苦笑いを浮かべて「いや、大丈夫だよ。こちらこそ時間を取らせて、ごめんね。用事はこれだけだから帰るね」
「分かった。じゃあ、また明日ね」
「うん、また明日」
直人は明恵に背を向け帰っていく。明恵は手を振りながら見送った。カッコいいと言っていた直人を振ったのに、不思議と明恵の顔はスッキリしていた。
「──明恵さん。これで良かった?」と、ワタルが明恵の後ろから声を掛けると、明恵は驚いた表情で後ろを振り返った。
「ワタル君、どうしてここに?」
「ごめん。気になっちゃって、様子を見に来ちゃった」
明恵は腰に両手を当て「まったく……」と、言って頬を膨らませる。
「ごめん」
「──まぁいいわ。さっきの回答、前にも言ったけど、直人君は憧れの存在。アイドルみたいなものかな?」
明恵はそう言って、後ろに手を組むと、青く透き通った空を見上げる。
「それより私は、もっと身近で気になっている人が居るの」
「気になっている人?」
ワタルが眉を顰めてそう言うと明恵は空を見上げるのを止め、体育館の壁を預けて座る。
「ふふ、誰だか分かる?」
「──分からない」
明恵はニヤァとすると、ワタルを指さし「君だよ」
「え……お、俺」とワタルは驚きながら、自分を指さした。明恵はゆっくり立ち上がり、スカートに付いた土を払い落とす。
ワタルの方へと歩き出し、向き合うように立つと、人差し指でワタルの胸を突き「そう、君」
「なんで?」
「なんでって……私を救ってくれた王子様なんだから、それ以上に好きになる理由なんてある?」
ワタルはあまりの嬉しさに言葉を失っているようで口を開けたまま固まっている。明恵はそんなワタルをみてクスッと笑うと、上着のポケットから、友達に貰ったチョコを取り出した。
「食べる?」
「──それは誰が作ったの?」
「友達」
「いや、いらない」
「甘いもの好きなのに?」
「うん」
「仕方ない。じゃあ──」
明恵はそう言って友達から貰ったチョコをしまうと、今度は水色の包み紙に入った箱を取り出す。
「このチョコは?」
「そのチョコは誰が作ったの?」
「わ・た・し」
「貰う」
「あれ、さっきはいらないって言ったのに?」
「意地悪を言わないでくれ」
ワタルがそう言うと、明恵はペロッと舌を出す。地味な女の子だった明恵は、ワタルを掌で転がすぐらい可愛い事をする女の子になっていた。
「ごめんなさい。これをあげるので許してください」と、、明恵がチョコと差し出すと、ワタルは受け取り「うん……ありがとう」
「いま開けて食べて良い?」
「どうぞ」
ワタルが包み紙を丁寧に開けると、可愛らしくデコレーションされた手作りチョコが入っていた。
「食べるのが勿体ないぐらい可愛いね」
「ありがとう」
「じゃあ、頂きます」
ワタルはチョコを口に入れると、幸せそうに微笑む。明恵は恥ずかしそうに頬を赤くして髪を撫でると「それ……ワタル君が甘いもの好きって言うから用意したの。本命だから味わって食べてね」
「う、うん」
「──美味しい?」
「美味しいに決まっているだろ? 今までで一番、美味しいよ」
明恵はワタルの胸に顔を埋めると「ありがとう。大好き」と告白した。
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