性悪女子に振られたら、なぜか恋愛相談所を手伝うことになりまして、様々な出会いのお蔭で、学校の人気者になっていました。振った女性? もう眼中にありません
【幼馴染の彼女に俺が必要だと言わせたいけど、いろいろ完璧すぎて出来ない。こうなったら最後の手段に打って出る】
【幼馴染の彼女に俺が必要だと言わせたいけど、いろいろ完璧すぎて出来ない。こうなったら最後の手段に打って出る】
次の日、直樹はいつものように早起きをして、お弁当作りを始める。鍋に水を入れ、火を点けて沸かしながら、昨日切った野菜をお弁当箱に詰めていく──。
沸騰したお湯に生卵を入れ、グツグツと沸騰したお湯を見つめながら、昨日の事を考えているのか、動かないでいると「――あ、ヤバ。そろそろ上げないと、優希の好きな半熟じゃなくなっちゃう!」と慌てて火を止めた。
「はぁ……俺、持っていかないんじゃないのかよ」と、直樹は言って項垂れた。
※※※
昼休みに入ると、いつものように優希が直樹に近づく。
「お昼に行こ」
「あぁ。ちょっとジュースを買ってから行きたいから、先に行っててくれないか?」
「分かった」
優希はそう返事をして、教室の出入口へ向かって歩いていく。直樹は言った通り、自販機でオレンジジュースを買ってから、体育館裏に向かった――。
「お待たせ」
「あれ、今日はお弁当一つ?」
「あぁ、一つしか作れなかった」
「そっか。いつも甘えてばかりで、ごめんね」と、優希は言って立ち上がる。謝られたことにより、悪いことしたと思ったのか直樹は顔を歪んた。
「いや、大丈夫。あのさ……だから一緒に食べないか?」
「え。でもそれじゃ、なっちゃん足りなくない?」
「大丈夫。もし足りなかったら帰りに何か買って帰るし」
「そう? じゃあ、帰りにパンか何か買ってあげる」
「ありがとう。じゃあ座ろうか」
「うん」
二人は優希が敷いたレジャーシート上に座る。優希の表情はいつも通りだけど、直樹は弁当を忘れたふりをした事が、逆効果になったんじゃないかと不安のようで、表情を暗くしていた。
「――なぁ、優希。食べる前にちょっと質問して良いか?」
「なに?」
「その……俺って必要?」
直樹は不安な気持ちがいっぱいになって耐えきれなくなったのか、ダイレクトにそう質問をする。
優希は一瞬、キョトンとした表情を浮かべるが、直ぐに笑顔を浮かべ「なに言ってるの。必要に決まってるじゃない」
優希の表情と言葉に、直樹は安心したようで「そっか。うん、良かった」と笑顔を浮かべた。
「急にどうしたの?」
「いや、何でもない。お弁当、食べよっか」
「うん」
直樹はお弁当の包みを解くと蓋を開ける。
「あれ、いつものお弁当箱より大きくない?」
「ん? 気のせいだろ」
気のせいの訳がない。色も違えば大きさもいつもの倍のお弁当箱だ。結局、直樹は持って行かないと思いながらも、二人分の量を用意していたのだった。優希が口元に指を当てクスッと笑う。
「なんだよ」
「何でもないよ。お箸を頂戴」
「あ、悪い」
直樹は箸入れから箸を取り出すと、優希に差し出した。優希は受け取り「ありがとう」
「頂きます」
「頂きます」
二人は無言で食べ進めていく――。
「ねぇ、なっっちゃん」
「なに?」
「――いつまでも、優しく子供っぽいところ、無くさないでね」
「え……俺が子供っぽい?」
「気づいてないの?」
「うん」
「ならそのままでいて、失って欲しくないから」
「あ、うん。何だか分からないけど、分かったよ」
優希は鳥の唐揚げを口の中に入れると、嬉しそうに微笑む。直樹はなぜ優希が嬉しそうなのか、よく分かっていない様子だったが、幸せそうな笑顔を浮かべていた――数十分が経ち、直樹は食べ終わるとお弁当箱を片づけ始める。
「御馳走様でした」
「はいよ」
お弁当箱を片付け終わると、優希が擦り寄って来る。
「どうしたの?」
「私がなぜ、なっちゃんを必要だと思っているか教えてあげようか?」
「うん、知りたい」
優希は急に照れ臭くなったのか、手グシで髪を整え始める。
「あのね……なっちゃんが幼い頃から勉強が出来なかった私に、勉強を教えてくれたり、太り始めた私の運動に付き合ってくれたり、意地悪を言う子を追い払ってくれたりと、私の事を支えてくれていたから、私はあなたの事が好きになって、必要だなって思っているんだよ」
優希はそう言うと、俺の腕に頭を預けてくる。
「だから、心配しなくても大丈夫だよ」
どうやらさっきまでのやり取りで、優希は直樹が心配している事に気付いたようだ。直樹は優希の頭に頬を寄せる。
「ありがとう。俺も冴えない俺なのにいつも見てくれる優希が好きだよ」
「――ありがとう」
お互い感謝の気持ちを伝えると、沈黙が続く。
「そうだ。なっちゃんに甘えてばかりはいられないから今、お弁当作りの練習しているんだ」
「へぇー、じゃあ今度、持ってきてよ」
「うん! 上手く出来るようになってからね!」
「分かった。楽しみにしているよ」
「うん!」
本当はいま食べてみたいと直樹は思っているかもしれない。だけど直樹はそれを口にしなかった。きっと近い将来、自分より美味しい料理を作ってくれる。そう思っているのかもしれない。
「今度は何をしようかな」
直樹は青く澄み渡る空を見つめ、そう呟いた。
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