【好きな女の子の絵を描いていたら、幼馴染の体を描くことになりました】

 続いての春樹のお客さんは、同じ学年の将太しょうたという男の子だった。翔太は俯きながら「えっと……幼馴染から、絵が完成したら好きな子に告白するつもり? って聞かれたんだけど、俺、そんなこと全然考えてなくて……幼馴染は自分ならして欲しいって言うんだけど、どう思う?」


「うーん……どうだろ? 俺が女の子ならして欲しい気がするけど、もう少し詳しく聞かせて貰って良いですか?」

「はい」


 将太はそう返事をして、過去を話し始める──。


 ※※※


 黒くて綺麗なセミロングの髪に、整った顔立ち、そして切れ長の目。将太は国語教師の話を聞きながら、斜め前の席に居る竹内の横顔をノートに描いていく。


 鋭い目をしているから、近寄りがたい雰囲気があり、男子には距離を置かれているが、将太はそこに魅力的に感じているようで、丁寧に描いていた。


 本当ならそんな事をしなくても、写真でも手に入れば良いが、将太は残念ながら頼めるような友達は居なかったため、、自分の絵で我慢をしていた。


「はい。今日はここまで」

 

 国語教師はそう言って、黒板の文字を消しだす。将太は最後の方はまだ書き写していなかったようで、慌てて黒板の内容をノートに書き写し始めた――。


 将太は国語の教科書をしまうと、次の教科の教科書を取り出す――次は移動授業の様で、お絵描きノートを教科書とノートの間に挟んで持つと、立ち上がった。


 ──将太が廊下に出ると、休み時間という事もあり、廊下は数人の生徒が歩いていたり、止まって話をしていた。将太はそれを避けながら、歩いていたが――。


「あ、悪い」

 

 ふざけ合っていた男子生徒と肩がぶつかってしまう。その拍子に持っていた教科書やノートを落としてしまった。


 将太は腹が立ったようで、こんな狭い廊下でふざけてんなよっ! と、言わんばかりの表情で、男子生徒を睨みつけるが「あぁ、大丈夫」


 男子生徒はバツが悪くなったのか、退散していった。


「ふー……」と、将太は鼻でため息をつき、教科書とノートを拾おうと目をやったとき、絵描きノートが開いてしまっている事に気付く。



「クソがッ!」と、将太はとにかく恥ずかしかったようで直ぐにしゃがみこむ。その時、ちょっぴりムチっとした白くて綺麗な腕がノートに向かって伸びていった。


「あ……」


 将太が声を漏らし驚きのあまり固まっている間に、その腕はササっと教科書とノートを掴み、そのまま拾い上げた――。


「将太、なにやっているのよ」


 将太が見上げると、もう少し頭を下げたら見えそうなぐらい短いスカートを履いた優奈ゆうなが一人、立っていた。


 優奈は茶色のミディアムウェーブの髪の毛を耳に掛け、将太を見つめている。将太を見下ろすその表情は鋭い目のせいなのか、どことなく怒っているようにも見えた。


「あいつ等が勝手にぶつかって来たんだよ」

「そうだけど、将太も真っ直ぐ前を見て歩いていたら避けられたよ?」

「だって……あまり人を視界に入れたくないから」

「ふー……相変わらずね。はい、ノート」

「ありがとう」


 本人じゃないだけマシだが、あのタイミングだ。きっと中身は見られてしまっただろう。将太はそう思っているのか、優奈と目を合わせずノートを受け取る。


「――あのさ」

「なに?」

「チラッと見えたんだけど、それ。あなたのクラスの美香さん?」

 将太は素直に答えたくなかったのか、「だから何だよ?」と不機嫌そうに答える。優菜は「いや……その……」と、言って、将太から目を逸らした。


「もしかしてさ――好きなの?」


 将太は優菜の言葉が明らかに不快だったようで、強張った表情を見せると「だったら何? お前には関係ないでしょ」と、素っ気なく返事を返した。


「そう……だよね」


 ボソッとそう言った優奈の顔が曇り始める――そんな優菜の表情をみた将太は傷つけてしまったんじゃないかと心配になったようで悲しげな表情を浮かべる。少しの間、黙り込む優奈の様子を見ていたが、居た堪れない気持ちになったのか、優奈に背を向けた。

 

「それじゃ俺、もう行くから」

「あ……ちょっとだけ待って」


 将太が優奈の方に体を向けると、優奈は「体……」と言った。


「え?」

「体、描くのが苦手なの?」

「何でそれが分かるんだ?」

「だって何度も消して描いた跡があるから」

「あぁ……そういう事か。確かに苦手、何度描いても全然上手くならなくて」

「だったらさ――私の体を描かせてあげちゃおうかな~……なんて」

 

 優奈は照れ臭そうにそう言いながら、髪を撫で始める。将太は自分が言っている事が分かっているのか? と、言いたげな表情で優菜を見つめる。


 優奈は「あ……」と声を漏らすと、「えっと……何、イヤらしい顔しているのよ! そっち系じゃないからね!」


「分かっているよ。でもそんな事を言って良いのか? それを抜きにしたって好きでもない奴に体をジロジロ見られるんだぞ?」

「別に……幼馴染なんだから、そんなの気にならないわよ」

「そっか……俺は少し気になるがな」

「え?」

「何でもない。うーん……そうだな」と、将太が少し悩んでいると、優菜は「何でそんなに悩んでいるの? 私の体じゃ不服かしら?」


「いや、不服どころか。スタイル良いと思っているよ」


 将太がそういうと、優奈は分かり易くニヤァッー……っと笑顔を見せ「ふふん。そうでしょ」


「うん。優奈がそこまで言ってくれるなら、お願いしようかな」

「分かった。いつが大丈夫とかメールするね」

「分かった。それじゃまた」

「うん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る