5話

 春樹はあれから、きちんと休むことなく市民プールに通っていて、友香も同じ曜日、時刻で通っていたのか、何度か会っていた。元から知り合いだった事もあり、二人が仲良くなるのはそう遠くは無かった。


 そんなある日、数か月かよった甲斐があって、春樹はマイナス5キロちょい、痩せることに成功する。


 約束した日から朱莉は忙しくなったのか、春樹に一度も会っていなかった。だから今日、春樹は会えることを楽しみにしているようで、ソワソワしながら恋愛相談所で待っていた──そこへインターホンが鳴る。


「はーい」


 春樹は急いで玄関に向かった――ドアを開けると、朱莉は目を丸くして驚く。


「ほぅ……痩せたね。一瞬、誰? って思っちゃった」

「そうですか? ありがとうございます。どうぞ中に入ってください」


 春樹は朱莉の一言が嬉しかったようで、笑みを零す。でもそれが恥ずかしかったのか、隠すように朱莉に背を向けると、相談所の奥へと向かった。


「もう5キロは痩せたの?」

「はい」

「そう。じゃあ約束通り御褒美をあげないとね」

「良いんですか?」

「うん。約束だもの」


 朱莉はそう言って、バッグを机に置くと、チャックを開けて手を突っ込む。朱莉は春樹が成功するとは限らなかったが、きちんと準備していたのだ。それを感じた春樹は嬉しそうに朱莉を見つめる。

 

「はい。これ」と、朱莉が取り出したのは、英語で商品名が書かれた黒い小さな箱だった。


「何ですか?」

「開けてみて」

「はい」


 箱を開け、中身を取り出すと、水色の液体が入った透明の瓶が出てくる。


「香水?」

「そう。好みがあるかもだけど、女性が好きそうな匂いを選んでみた」

「ありがとうございます!」

「いえいえ。良く頑張ったね、おめでとう」

 

 朱莉はそう言って、ニコッと微笑む。春樹はとにかく朱莉に褒めて貰いたくて、ここまで頑張ってきただろうから、その言葉が何よりも響いたようで、目に薄っすら涙を浮かべていた。


 朱莉は少し雑談をした後、男の人の気持ちを聞きたかっただけのようで、春樹にいくつか質問すると、帰っていった──1人ポツンと残っていた春樹は、朱莉がくれた箱を見つめている。


「朱莉さんが彼女だったら良いのになぁ……でもそれは無理か。朱莉さんには既に好きな人が居るのだから」


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