【飼い猫が運んでくれたもの】
次の日の朝を迎え、翼はニャータが居ない事に気づき外に出た。
「まさか事故に遭ったりしてないよな……こんな心配するなら無理矢理にでも連れて帰れば良かった」
翼は心配そうな表情を浮かべ、キョロキョロと辺りを見渡しながら歩き出す。するとポニーテールの女の子が、しゃがみ込んで何かをやっているのを見かけた。
「あれ、夏海さんだよな? 道路の端で何をやっているんだろ?」と、翼は呟き、ゆっくり近づく。
「ねぇ、かいかいしてないでさぁ、そのリボンを頂戴よ」
翼は斜め後ろから、夏海が誰と話しているのか確認する――夏海の前に居るのは、ニャータだった。
「ねぇったらー。このリボンと交換しようよ」と、夏海は言って、緑のリボンをヒラヒラさせる。
ニャータは目の前にヒラヒラされて、遊んでもらえると思ったようで飛び付き出した。
「ちょっと、大事のリボンが破けちゃうから止めて~」
「ふ……」
夏海とニャータのやり取りが微笑ましかったようで、翼は笑みを零す──そして夏海の後ろに立つと「夏海さん」と、声を掛けた。
「うわぁ!」
夏海はビクッと体を震わせ、翼の方へ振り向く。ニャータは夏海の声にビックリして逃げていってしまった。
「おはよ」
「おはよう……ちょっとビックリさせないでよ」
「ごめん。ところで、そんな所で何をやってたの?」
夏海は翼から目をそらすと、手グシで髪を整え「え……えっと……見たこと無い可愛いニャンコが居たから遊んでた」
「へぇ……見たこと無いね。ジョギングの途中で捕まえてくれた時もあったのに?」
「えっと……そうだっけ?」
「うん」
翼はそう言ってしゃがみ込むと、遠くから様子を見ているニャータに向かって、おいでおいでをする。ニャータは空気を読んだのか少しずつ近づいてきた――。
「俺さ。昨日、本当は君に伝えたいことがあったんだ」と、翼は言って、足に擦り寄っているニャータから、リボンを外し始める。
そしてリボンを外し終わると右手に握り、スッと立ち上がると「でも臆病風に吹かれて、諦めてしまった」
「だけど、さっき夏海さんがニャータと戯れているのをみて、やっぱり可愛い、諦める事なんて出来ないって思って、ダメでもいいから伝えたいと思った」
翼はリボンを握っている右手を差し出すと、「朝、ジョギングをしている所を初めて見かけた時から、ずっと君の事が好きでした。だから……俺とリボン交換をしてください!」
夏海はスッと立ち上がり、真っ赤な顔をしながら笑窪を浮かべる。
「私も……私も朝、何だかんだ言いつつ優しそうにニャータを抱きしめるあなたをみて、ずっと惹かれていました。私ので良ければ貰ってください」
夏海はそう言って翼のリボンを受け取り、自分のリボンを差し出す。翼は嬉しそうな表情を浮かべ、左手で受け取ると「大事にするね!」
「うん、私も」
幸せそうに見つめ合う二人。ニャータはそんな二人を見ながらアクビをすると、役目を果たしたかのように、去って行った。
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