性悪女子に振られたら、なぜか恋愛相談所を手伝うことになりまして、様々な出会いのお蔭で、学校の人気者になっていました。振った女性? もう眼中にありません
【美人の幼馴染は表情豊かではないけれど、SNSでは感情を剥き出しにして僕にデレてくる】
【美人の幼馴染は表情豊かではないけれど、SNSでは感情を剥き出しにして僕にデレてくる】
続いての春樹のお客さんは別のクラスの拓真という男の子だった。拓真は何やら深刻な悩みがあるようで、俯きながら黙り込んでいた。張り詰めた空気から、春樹はそれを感じ取っているようで静かに「どうしましたか?」と聞いた。
「実は……彼女が病気で、どうしたら良いか分からなくて来ました」
「そうなんですね。差し支えなければ、詳しく話してもらって良いですか?」
「はい……」
拓真はか細く返事をして、過去を含めて語りだす──。
※※※
拓真はいつも通りにどこに寄り道する訳でもなく、真っ直ぐ家に帰る――家に着くと、手洗いうがいをして、自分の部屋へと向かった。
ベッドに寝転ぶと携帯の電源を入れ、SNSを開く。SNSは様々な書き込みが飛び交っていたが、その中から、たった一人の書き込みを探し出し「あった」と、呟いた。
書き込みには『明日は私の誕生日、何か良い事があると良いな』と、可愛らしく絵文字をふんだんに使い、書かれていた。それだけで嬉しさが込み上げているのが伝わってくる。拓真はその子に返信せず、こう書き込みした。
『明日は僕の彼女の誕生日、何をプレゼントすれば良いかな?』
すると直ぐに彼女の書き込みが更新された。
『彼氏からは物とかじゃなく、気持ちが欲しいかな』
続けて彼女が書き込みをしてくる。
『例えば言葉でお誕生日おめでとうって面と向かって言ってくれるとか。贅沢を言えば、手も握って欲しいな』
この書き込みももちろん、ふんだんに絵文字が使われていた。
『彼女にプレゼントを渡せるように頑張ります』と、拓真が書き込みをすると、彼女からは『メッチャ楽しみ!』と書き込みされていた。
拓真と幼馴染で彼女でもある真奈美は、お互いに書き込みを見られている事は知っていた。だけどお互い知らないふりをして、書き込みをしているのだった。周りから見たら、なぜそんな回りくどい事をしいるんだ? と、首を傾げられるだろう。だけどちゃんと理由があるようだった。二人はとにかく、不器用なのかもしれない。
「真奈美と付き合い始めてから、もうすぐ一年か……早いな」と、拓真は昔の事を振り返り始めたようで、ソッと目を閉じた。
拓真が付き合い始めるキカッケとなったのは高校の入学式があった日に起きた出来事だった。拓真は入学式が終わって家に帰ると、自分の部屋でSNSを開いて、身に覚えのない人にフォローされている事に気付いた。
拓真はとりあえずその人の所に覗きに行くと、『今日、高校の入学式で素敵な事があったの。ず~っと気になっていた幼馴染の男子と一緒にクラスになれたんだよ~。やった~!』っと、一件だけ賑やかな書き込みがされていた。
「へぇ……似たような事もあるんだな」
拓真も同じ事があったが、真奈美から嬉しそうな感情が感じられなかったようで、他人事のようにそう言った。そして「ち、良いな」と呟き、嫉妬心を抱きながら、携帯の電源を切った。
しばらくして、拓真はどうしてもそのフォロワーの事が気になったようで、もう一度覗きにいく。
そこには、『その幼馴染は小学校からの付き合いで、私が病気で学校を休む度に、毎回プリントを届けてくれたの。家が近かったからだろうけど、嫌な顔せずに届けてくれたのが、とても嬉しかった』と、書かれていた。
「これ……僕と真奈美に似ている。こんな偶然あるのか?」
拓真はとりあえずフォローを返して、「真奈美に直接会って聞いてみるかぁ」
次の日の朝、艶のある綺麗なセミロングの黒髪を揺らして、並木道を歩いている真奈美を見かけた拓真は駆け寄ると「おはよう」
真奈美はチラッと拓真の方へ視線を向けるが、直ぐに正面に視線を戻して「おはよう」と、顔色変えずに透き通った声で挨拶を返してきた。拓真はやっぱり勘違いなのかな? と思ったようで、眉を顰める。
「ねぇ、真奈美。きみSNSやってる?」
「――うぅん、やってないよ」
「そう……」
SNSをやっていても、知られたくないから嘘をつく事は普通にある。拓真はそう思ったのか、それ以上は何も聞かずに様子を見ていた。
※※※
その日の昼に拓真はまたSNSを開いて、彼女の書き込みを確認する。
『今朝、例の幼馴染に挨拶されちゃった~。メッチャ心臓バクバクして、緊張しちゃった。何も話せなかったけど、大丈夫だったか心配』
ここまでガッチリ合う偶然ってあるのか? 拓真はそう疑問に思ったのか試しに『今朝、幼馴染にSNSをやっているか聞いてみたんだけど、やってないって言われた。もっと仲良くなれると思ったのに残念だ』と、書き込みをした。
そこから彼女の更新が途切れる。拓真はそれ以上、更新せずに様子を見ることにしたのか、ズボンのポケットに携帯をしまった。──放課後になって、拓真は帰る前にもう一度、SNSをチェックする。
『今朝、幼馴染にSNSをやっているかと聞かれて、嘘をついてしまった。本当はやってる』
これをみて拓真は相手が真奈美だと確信したようで「やっぱり真奈美か……」と、呟いた。だけど拓真は隠したがっている事を感じ取り、何も返信しないまま携帯をズボンのポケットにしまった。ここから二人の回りくどいやり取りが始まった。
※※※
それから毎日、拓真はSNSをみていて、真奈美の過去を知ることになる。拓真は彼女が病弱で、小学校の時は、ほとんど学校には行けていなかった事は知っていた。
だけどその事で人間関係がとても苦手になり、感情を表に出すのが苦手になってしまった事までは知らなかった。だから顔が整っていて美人なのに、無表情で愛想がないと陰口を叩かれる存在になってしまったと、彼女は後に書き込みをする。
拓真はその書き込みをみて、とても悲しくなったようで、眉を顰めながら「本心はとても明るく可愛らしいのに……」
そんなある日のこと、真奈美が突然、こう書き込みする。
『私が幼馴染のこと気になりだしたキッカケだけどね。彼、プリントの裏にいつも、早く元気になれよとか、一言書いてくれたの。同情だったのかもしれないけど、病気の時って弱気になるじゃない? とても励みになって、どんどん彼に惹かれていった』
拓真は確かに真奈美のプリントに元気が出るように一言書いていた。その時の文面から彼女に好かれたいとか、そういう気持ちじゃなく、ただ単純に真奈美が喜んでくれたら嬉しいなって思って書いているようだった。
「あれ? おかしいな……名前は照れ臭くて書かなかったはずなのにバレてる」
拓真がそう呟くと次の書き込みが更新される。
『そこには誰が書いたとは書かれていなかったけど、彼、メッチャ字が特徴的だったから、気付いちゃった! もうちょっと字の練習しようね』
「あぁ……そういう事ね。だったら僕が病気だった時も──」
この時、拓真は自分が病気の時、たまにプリントの裏側にカラーペンを使って可愛い文字で早く良くなってねと、同じ事をしてくれたのが真奈美だったと気付く。
SNSどころか携帯も持っていない無い時代。二人は宿題のプリントを通じて同じ事をしていた。拓真はそれを知って何とも言えぬ高揚感に満たされたのか、ソッと目を閉じた。少しして目を開けると、拓真はこう書き込みする。
『近々、僕は幼馴染に告白したいと思う。どんな手段が良いかな?』
すると直ぐに真奈美の書き込みが更新される。
『やっぱり告白されるなら、ダイレクトが良いよね』
すかさず拓真も書き込みする。
『直接会って、告白することに決めました』
『幼馴染が告白を決めたようなので、その日はバッチリ御化粧をしなくちゃ。その時ぐらい上手に笑顔が出せると良いな』
拓真はニヤッと微笑むと「ふふ、可愛い奴め。だったら分かりやすい日にしたいな……そうだ!」
『告白する日は彼女の誕生日にします』と拓真が書き込むと、真奈美は『こんな嬉しいことある? 今度の誕生日は今までで一番、最高の日になりそうです』と書き込んだ。
拓真は幸せを噛みしめるようにジッと携帯を見つめ「ここで彼女の期待に応えなきゃ、男じゃないよな」と呟いた。
※※※
カラッと晴れた夏の昼。拓真は宣言通り、真奈美の誕生日に合わせて、体育館裏に呼んだ。周りでは忙しくミンミン蝉が鳴いている。
「ごめん。真奈美、お待たせ」
拓真は近づきながらそう言った。真奈美は額から汗を垂らしながら、表情も変えずに拓真をジッと見つめていた。
「別に待ってないよ。それより、どうしたの?」
真奈美はそう言ったが、額の汗が待っていた事を物語っていた。それを見逃さなかった拓真は「真奈美」と直ぐに声を掛けた。
「なに?」
「あの……僕、小学校の頃から君の事が好きでした。付き合ってください」
真奈美はこの時、クシャっと可愛い笑顔を浮かべて「はい」と、たった一言だけど、しっかり返事をした。
※※※
「拓真、ご飯よ」と、一階から母親が呼ぶ声がして、拓真は目を開ける。
「はーい、いま行く」と、返事をすると、ベッドから立ち上がった。
「さて飯を食べ終わったら、告白した時みたいに何度か練習しておくかな。僕も上手に感情を出すのは苦手な方だから」
※※※
空はカラッと青く晴れ渡り、爽やかな朝を迎える。チュンチュンと雀がさえずる中、拓真は学校へと向かった――拓真は目の前に真奈美が歩いているのを見かけ、駆け寄る。
「真奈美、おはよ」
「おはよ」
相変わらず無表情だが、拓真はほのかに耳が赤くなっているのは見逃さなかったようで、ジッと見つめていた。
「ねぇ、真奈美。今日、誕生日だったよね?」
「あら、覚えていてくれたの」
「うん。ちょっと立ち止まって、向き合うように立ってくれるかな?」
拓真がそう言うと、真奈美は立ち止まり、向き合うように立つ。真奈美はジッと拓真を見つめた。照れくさかったようでチラッと視線を逸らしたが、直ぐに真奈美を見つめ「あのさ……誕生日おめでとう」
真奈美はキリッとした目を細め、優しく微笑む。
「ありがとう」
拓真は緊張で汗をかいたようで手を制服のズボンで拭うと、真奈美の手を取った。
「行こ」
「うん」
拓真達は肩を並べて歩き出す。
「誕生日プレゼント、何が良い?」
「いらない。だって、もう貰っているもん」
「そう」
真奈美が拓真の腕にピッタリくっつくように寄ると、拓真は込み上げてくる想いを抑えきれなかったようで「好きだよ」と、呟いた。
「もう……そんな事、書いて無かったじゃん」
拓真の呟きはしっかり真奈美の耳に届いていたようで、真奈美は恥ずかしそうに、そう呟いた。拓真はたまに漏れる真奈美の本音が、愛おしくようで、幸せそうな笑みを浮かべていた。この後、二人がSNSでデレデレしたのは言うまでもない。
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