2話

 こうして恋愛相談所を続けた春樹は、慣れてきたようで男女問わず普通に人と話せるようになっていた。そんなある日のこと――。


「春樹君ってさ、何でお父さんの手伝いをしようと思ったの?」と、朱莉に質問される。


 いきなりの質問に、春樹は驚いた表情を浮かべるが、直ぐに表情を戻して「えっと……実は俺、ある女の子に告白して振られちゃって」


「まぁ……」

「その理由が好みじゃないと、暗いからって言われて」

「なにそれ! 春樹君は全然、暗くないよ」

「ありがとうございます。それが原因で落ち込んでいたら、親父が女性に慣れるために手伝えって言うから、始めたんです」

「なるほどねぇ……」


 朱莉はそう返事をして、頬杖をかく。


「それで?」

「それで?」

「それで女の子に慣れてきた?」

「あ、はい。ここで手伝いだしてから、相談に乗った女の子と、ちょっとした話したり、気軽に挨拶を交わせる様になってきました」


 朱莉はそれを聞いて嬉しそうに微笑む。


「うんうん、それ大事よ。あとそれね」と、朱莉は言って、春樹のお腹を指差す。


「お腹がどうかしましたか?」

「痩せなさい。モテるには見かけも大事よ」

「はは……ですよね」


 確かに春樹は少し、太りだしていた。


「見事に痩せたら、お姉さんが御褒美あげる!」

「え!」


 ボン、キュ、ボンと男性が好きそうなスタイルをした朱莉にそう言われて、春樹は何やら想像しているようで、ニヤァ……ッとする。


「こらこら、イヤらしいのじゃないぞ」

「あ……顔に出てました?」

「残念、出てました! 気を付けなさい」

「はーい。ところで御褒美って何ですか?」

「内緒! その方が頑張れるでしょ?」

「確かに」

「目標はマイナス5キロ! 頑張れる?」

「はい!」


 春樹はやる気があるようで、元気よく返事をしていた。

 

 ※※※


 次の日の放課後。春樹は廊下を歩いていると「ヤベッ、本を返すの忘れてた」と、つぶやいた。慌てて教室に戻り、ロッカーから取り出すと、直ぐに図書館へと向かった――。

 

 その途中、キャキャと楽しそうに話している女の子二人組が春樹の前から歩いてくる。


「ねぇねぇ、上野君のこと聞いた?」

「聞いたー。マミさんと別れたんだってね」

「それを聞いて、密かに狙っている子いるみたいだよ」

「へぇー、そうなんだ」


 春樹は二人を見送ると「ふーん、別れたねぇ……」と、呟いた。しばらくその場で立ち止まっていたが、「まぁ、様子見か」と歩き出した。


 ――春樹は図書室に到着すると、受付に目をやり、足を止めた。受付に座っている眼鏡を掛けた黒髪おさげの女の子と過去に何かがあったのか、ジッと見つめたまま動かなかった。


 受付の女の子は視線に気付いたのかチラッと春樹の方を見る。


「返却ですか?」

「あ、うん」

「どうぞ」

 

 ――春樹は受付の女の子の前に立ち、本を差し出す。女の子は黙って受け取った。


「あの……久しぶり。俺のこと、覚えているかな?」

「春樹君でしょ」


 春樹は笑顔を浮かべ「あ、うん。覚えていてくれたんだ」と言ったが、受付けの女の子は無表情で「――確かに受け取りました。期日が過ぎていたので、次からは気をつけ下さいね」と、淡々と返事をした。


 春樹は寂しそうな表情を浮かべ「あ、ごめんなさい。気をつけます」と返事をして、すぐに図書室から出た。


 ──廊下を歩きながら春樹は「そうだよな……友香さんにとって、俺も忘れ去りたいクラスメイトの一人だもんな」と意味深の言葉を口にした。

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