性悪女子に振られたら、なぜか恋愛相談所を手伝うことになりまして、様々な出会いのお蔭で、学校の人気者になっていました。振った女性? もう眼中にありません
【冴えない俺だけど、どうやら人気者の可愛い女子が俺の声を気に入ったようで、好きと言わされちゃいました】
【冴えない俺だけど、どうやら人気者の可愛い女子が俺の声を気に入ったようで、好きと言わされちゃいました】
昼休みになって、陽音は昼食を食べ終わると、沙月のメールの通り体育館に向かう。中に入り辺りをキョロキョロと見渡すと、体育用具室の前で手を振る沙月を見つけ駆け寄った。
「こっちこっち」
「いまから運動するの?」
「ブーッブー、外れ。この中だったら二人っきりだし、恥ずかしくないかな? って思って誘ったの」
「あぁ、なるほどねぇ……」
高校ともなると休み時間に運動する人は、ほとんど見かけない。だけど陽音は思春期の男子に、この状況はヤバいと感じているようで、顔が強張っていた。
「中に入ろ」
「あ、うん」
二人は体育用具室の中に入ると辺りを見渡す。跳び箱やらマットやらがゴチャゴチャ置かれていて狭そうだった。
「狭いねぇ……」と、恥ずかしそうに髪を撫でる沙月の姿を見た陽音は、高揚する気分を鎮めるかのように静かに目を閉じた。
「は、早く終わらせて出ようか?」
「う、うん……」
こうして二人の怪しい密会? が始まった──。
※※※
それから数週間が流れる。陽音と沙月はスッカリ仲良くなり、普通に電話のやりとりをしたりしていた。そんなある日、陽音が自分の部屋でベッドに横なり休んでいると、電話が鳴る──。
「はい」
「あ、陽音君。いま大丈夫?」
「うん、大丈夫」と陽音は返事をしながら、起き上がった。
「今日の醜い魔法使い、観た?」
「観た観た。主人公、カッコよかった」
「ねぇー……私もあんな風に言われてみたいな」
陽音は口を開け、何か聞きたそうな様子だったが黙り込む。すると沙月は「──ねぇ、一つ厚かましいお願いがあるんだけど、良いかな」
「なに?」
「えっと……今日のセリフの真似、して欲しいな」
「あぁ、いいよ。いま部屋だし周りに誰も居ないからさ」
「やった! じゃあ今日のラストシーンをお願いします!」
「了解!」
陽音はそう返事をしてスゥー……っと息を整える。
「あ、ちょっと待って」
「どうしたの?」
「あの……えっと……ヒロインの名前は私の名前に変えて貰って良いかな?」
「あー……」
陽音は何か考え事をしているのか黙り込む、すると沙月は遠慮深げに「ダメ……かな?」
「──分かった。やってみるよ」
「やったぁ」と、沙月は本当に嬉しそうな声が上げる。電話の向こうでは小さくガッツポーズをしていた。
「じゃあ行くよ」
「うん!」
「沙月、ありがとう……こんな姿の俺でも好きと言ってくれて、本当に嬉しいよ。俺も君の事がずっと好きだった。こんな姿でも君を守り抜くから、ずっと俺の側に居て欲しい」
陽音がセリフを良い終わると、「はぁ~……」と、沙月は吐息を漏らす。陽音は黙って目を閉じた。
「もちろんだよ。陽音君」
「ん?」
「ん?」
「えっと……いま俺の名前が聞こえたけど気のせいだよね?」
「──ふふ、気にせいじゃなかったら?」
いたずらっぽくそう言う沙月の声を聞いて、陽音は何かを想像しているようでニヤニヤしていた──いや、いまはそれどころではないと思ったのか、口を開けると「それってつまり……俺の事を?」
「うん……せっかく仲良くなってきたのに、陽音君。全然アプローチしてこないじゃない? だからダメもとで言って貰おうかな……なんて思いついちゃって」
「はは……」
陽音は沙月の言葉が信じられないようで、苦い笑いを浮かべながら太ももをつねっていた。
「私ね。陽音君の声はもちろん、私のお願いにしっかり応えてくれる。そんな優しい所も好きだよ。今度で良いから、ちゃんと返事を聞かせてね。バイッ!」
沙月は照れくさかったのか、言いたい事だけ言って、電話を切った。陽音はしっかりと痛かったようで、太ももをさすりながら「ふぅ……せっかちだな」
「まぁいいや。今度、心の準備が出来たら、自分の言葉で返事をするとしよう」
陽音はそう呟きながら、電話を切った。
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