【冴えない俺だけど、どうやら人気者の可愛い女子が俺の声を気に入ったようで、好きと言わされちゃいました】

 三人目の春樹のお客さんは日向の友達の沙月で、イケボ《イケてるボイス》のクラスメイトが居るからお近づきになりたいとの相談であった。


「ねぇ、どうしたら良いかな?」

「うーん……陽音君は友達とかいない感じです?」

武志たけし君って子が友達だよ」

「マジか。俺、知り合いだよ」

「え。じゃあ、いけそうな感じ?」


 春樹は眉を顰めながら「どうかな……知り合い程度だし、どうやって話を繋げるかが思いつかないです。陽音君の声は誰かに似ているとかありません?」


「アニメの主人公みたいな声してるよ。ほら、醜い魔法使いの」

「あぁ……だったら、こうしましょう」


 春樹はそう言って、作戦を沙月に説明し始めた。


 ※※※

 

 ある日の昼休み。弁当を食べ終えた武志と陽音は向かい合って座りながら、世間話をしていた。すると武志は「ふと思ったんだけど、陽音はるとの声って、醜い魔法使いに出てくるアルウィンに似ているよな」と口にした。

 

「人気アニメの主人公に? いや、似てないだろ」

「いや、似てたよ。試しに、ここから先は通さねぇ!! って言ってみ」

「嫌だよ。恥ずかしい……」

「大丈夫だって! 騒がしいから誰も聞いてないって」


 陽音は辺りを見渡した。確かに各々が会話を楽しんでいるから聞いてないかもしれない。そう感じたのか陽音は「じゃあ……少しだけ。ここから先は通さねぇ……」


「いや、そんな言わされてる感じゃなくて、声優になった気分で」

「分かった。──ここから先は通さねぇ!!」


 思ったより春樹の声量が大きかったからか、教室が静まり返る。春樹はそれが恥ずかしかったようで、俯いた。武志は興奮した様子で「そうそう、それそれ! ヤバッ、鳥肌立ったわ」


 近くで友達と話していた沙月は、「ちょっと、ごめん」と言って、待っていたかのように、直ぐに動き出し、陽音の方へと向かう。


「そりゃ、どうも」と陽音が武志に返すと、沙月は陽音の後ろから「ねぇ、陽音君。アルウィンの真似したの陽音君?」と声を掛けた。


 陽音は後ろを振り返りビックリする。沙月はサラサラの薄い茶髪のポニーテールにクッキリ二重、そしてアイドルのような整った顔立ちをしていて、男子の人気者。そんな沙月が行き成り声を掛けてきたので、驚いたのだろう。


「えっと……そうだけど?」

「わぁ、凄いね。さっきの似ていたよ! 他には何か出来る?」

「出来ると思うけど……言って欲しいセリフを教えてくれた方が、やりやすいかも……」


 沙月は両手をポンっと合わせると「じゃあ──」といくつかお願いする。周りにクラスメイトが居る中で、陽音は恥ずかしそうな様子を見せるものの、嬉しそうだった。


 昼休みが終わり、チャイムが鳴ると、沙月は慌てた様子で掛け時計をみて「あ、もうそんな時間なの」


 陽音の方に体を向け、ブレザーのポケットから携帯を取り出すと「ねぇ、陽音君。電話番号、教えて」


「あ、うん」


 陽音は返事をしてブレザーのポケットから携帯を取り出し、電話番号を登録した。


 ※※※


 それから数日後。陽音がトイレから戻り、教室に入るとクラスメイトの女子の声が聞こえてくる。


「ねぇ、陽音君の声真似。ちょっと痛くない?」

「痛いよねぇ。しかも声が高いから子供っぽいつうか」

「分かる~」


 陽音は聞こえないふりをして女子の前を通り過ぎるが、顔は正直で暗い面持ちをしていた。


 ※※※


 その日の午後、陽音が次の授業の準備をしていると、沙月が近づいて「ねぇ、陽音君」と声を掛ける。


「なに?」


 沙月は陽音の横で立ち止まり「ここ最近さ。声真似をお願いしたことあったけど、やっぱり周りに人が居ると恥ずかしいよね?」


「──うん、恥ずかしいかな」

「やっぱり? ごめんね気付かなくて。陽音君の声がイケボだから、そっちに集中しちゃって」と、沙月は言って髪を撫でる。


「あぁ、気にしなくて良いよ。嫌だったら断ってるし」

「そう? でも恥ずかしいんだよね? ちょっといい場所を見つけたの。あとでメールするね」

「あ、うん。ありがとう」

「うん」と、沙月は返事をして、小さく手を振りながら自分の席の方へと戻っていった。


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