【陽キャラだった頃の性格を隠しているはずなのに、彼女と居ると本性が晒されていく。周りに人が集まってくるけど、俺は彼女にだけ本性を見せたいと思う】

 それから数日が経ち、汰月は日向に慣れてきたようで休み時間になると話をするようになっていた。


「何をイチャイチャ話してるの?」と、友恵が近づきながら二人に話しかける。汰月が少しずつ明るい性格を曝け出すようになったからだろうか、最近、二人が話していると、男女問わず人が集まるようになってきた。


 日向さんは髪の毛を撫でるように触りながら「イチャイチャなんてしてないよ~。昨日のテレビの話。動物のやつ」


「あぁ、あれね。可愛かったよね。汰月君もあぁいうの観るんだ」

「まぁね」と、汰月は返事をして立ち上がる。


 日向は首を傾げると「あれ、どこに行くの?」


「トイレ」

「あぁ、ごめん」

「大丈夫」

 

 汰月は素っ気なく返事をすると、そそくさとその場を後にした──汰月が廊下を歩いていると、クラスメイトの男子が後ろから「お、汰月君。丁度良いところに」

 

 汰月は立ち止まり、振り返ると「なに?」


「ちょっと頼みたい事があって。最近、汰月君。日向さんと仲が良いじゃんか。俺も仲良くなりたいから、紹介してくれないか?」


 汰月は明らかに嫌そうな表情を浮かべ「俺そんなに仲良くないし、他の人に頼んで」と、突き放すようにそう言って、また廊下を歩き出した。


「何だよ。ちょっと仲が良いからって、調子に乗りやがって!」


 クラスメイトは汰月に聞こえるようにそう言って、汰月とは反対側へと歩いて行った──。汰月は立ち止まり後ろをチラッと見ると「日向さんと話すまで、挨拶さえ無視していた奴に、何かしてやる訳ないだろ」と、ボソッと呟いた。

 

 そして歩き出すと「それに日向さんは、誰にも紹介したくはない」と好意を口にした。

 

 ※※※


 授業が終わり、放課後を迎える。汰月は席から立つと、通学鞄を手に取った。すると突然、制服のズボンに手を突っ込み、携帯を取り出した。汰月は日向から届いたメールを開くと、キョロキョロと辺りを見渡す。でも日向は教室には居なかった。

「あれ? さっきまで居なかったっけ?」


 メールの内容は玄関で待ってます。すぐ来てねと可愛い絵文字と共に書かれていたのだが、汰月はなぜ直接、声を掛けてこなかったのか疑問を抱いたようで首を傾げる。


「まぁ、いっか」


 汰月はそう呟くと、携帯をポケットにしまい、直ぐに玄関へと向かった――。


「あ、日向さん。どうしたの?」

「シッ!」


 日向さんは人差し指を唇にあて、キョロキョロと辺りを見渡す。


「大丈夫そうね。早く行こう」

「あ、うん」


 汰月は黙って靴を履き換えると、日向さんに合わせて歩き出した――校内から出て、通学路の並木道を歩きだす。


「いきなりメール送って、ごめんね」

「いや、気にしてないけどさ。どうしたの?」

「こうでもしないと二人だけで帰れないと思って」


 汰月は二人だけという言葉に動揺したのか、髪を撫でながら「えっと……何で二人だけで?」


「ちょっと聞きたい事があって……あのさ、前から気になっていたんだけど、何で汰月君、本当は明るくて優しいのに隠しているの?」

「え?」

「あ、ごめん。話したく無ければ話さなくて良いから」

「いや、大丈夫だよ。どうして日向さんは、俺が優しいと思うの? 教科書ことで、そう思ったの?」


 日向は手を後ろで組み、青く澄み渡る空を見上げると「それだけじゃないよ。お気に入りボールペンを失くして困っているクラスメイトのために、バレないように探して、ソッと机に置いてあげたり、他のクラスの子がゴミ袋の中身をぶちまけてしまった時に、一緒に手伝ってあげたり。そんな優しいところ、何度か見てる」


「そう……見られていたんだ。実は俺、昔から人の笑顔を見るのが好きでさ。小学校の頃から馬鹿やって、人を笑わせていたんだ。そうしたら、次第にクラスの人気者になっていてさ。俺の周りには沢山の人が集まるようになった」と、汰月は過去を語りだす。その表情は暗く、あまり思い出したくない過去のようだった。


「中学になってもそれは変わらず、過ごしていたんだけどある日。クラスの大将的存在の男の子に好きな子に告白したいから手伝って欲しいと頼まれてさ。いつもなら直ぐにOKするのに、その時は出来なかったんだ」


 日向は汰月の方に顔を向け「なんで?」


「その子が好きだったからだよ」

「そう……」

「そこから人間関係が崩れていって、気付いた時には誰も俺を相手にしてくれなくなってた」

「酷い!」

「だろ? だから俺は明るい性格を隠す様になったんだ」

「そうだったんだ……」


 日向そう言って俯き、黙り込む。汰月も黙って歩き続けた――。


「もしかして私が話しかけたり、こうしているのも迷惑だったりするのかな?」


 汰月が日向の方へと視線を向けると、日向は申し訳なさそうな表情を浮かべていた。汰月はそんな日向に対して、何かしてあげたいと思ったのか、右手を動かすが、直ぐに止めた。


「そんな事ないよ。俺はいつも日向さんだけには本性を見せたいと思ってる」


 汰月がそう言うと、日向は明るい表情をみせ、サッと汰月の方へと顔を向け「本当! 良かった……」


 汰月はそんな日向をみて、安心したようで穏やかな表情を浮かべる。日向は顔を正面に向けると、俯き加減に「えっと……ちょっと気になるところがあったんだけど」


「なに?」

「好きだった女の子はどうなったの?」

「そりゃ、駄目になったよ」

「そう……」


 日向の声は低かったが一瞬、頬が緩んだように見えた。いまは普通の表情で歩いている。


「じゃあ、もう一つ質問良い?」

「どうぞ」

「――えっと、さっき汰月君。私だけって言ってくれたじゃない? それってつまり……その……そういう意味?」


 頬を赤く染め、モジモジしている日向をみて、汰月は悪戯を思いついた時の男の子のような表情でニヤニヤし、「そうだとしたら?」


「――嬉しい」


 汰月は恥ずかしそうに、そう答える日向を見て、思わぬカウンターを食らってしまったようで、顔を真っ赤に染め、日向から顔を逸らした。お互い恥ずかしくて言葉が見つからないのか、無言で肩を並べて歩き続ける――。


「あ、あのさ。私ばかり質問してたら悪いから、汰月君は何か聞きたいこと無い?」

「じゃあ……どうして日向さんは俺なんかを見ていたの?」

「え?」


 日向は思わぬ質問に驚いたようで、円らの瞳を丸くして、汰月の顔を見つめていた。


「優しくしている所、何度か見てるって言ってたよね?」

「あ……」と、日向は声を漏らすと、汰月から顔を逸らして正面を向く。


「えっと……それ聞いちゃう?」

「うん、聞いちゃう。質問して良いっていったよね?」

「言ったけど……あー、恥ずかしいな」

 

 日向は落ち着かない様子で、髪を撫で始め「実はね……私、入学した時から汰月君の事がカッコ良いなって気になって見ていたの」


 それを聞いた汰月は興奮し過ぎて鼻血が出ていないか心配になったのか、鼻を擦って確認していた。


「だから汰月君の優しいところが、いっぱい見られてね。ますます気になっちゃって、それでね――恋愛相談所でアドバイスを貰って、わざと教科書を忘れて仲良くなろうとしちゃったの。てへッ」


 日向はそう言って、照れ臭そうに舌を出す。汰月は神様に御礼を言うかのように天を仰いで目を瞑る。そして直ぐに目を開けると、日向の方を向いて「ありがとう」


「え?」

「教えてくれて、ありがとう」

「あ、うん!」


 日向は元気よく返事をするとニコッと笑った。ガードレールがあって細くなった道に差し掛かった時、日向の手が汰月の手にコツンっと触れる。


「あ、ごめん」

「大丈夫だよ」


 汰月はもうこの時しかないと思ったのか、日向の手を握った。

 

「あ……」


 日向はそう声を漏らすが、その後は何も言わずに、そのままでいた。


「――日向さん。俺、君の優しい性格、明るい笑顔が大好きだよ。君と過ごしていく中で、君の笑顔が見たいから、本当の自分を曝け出してしまうほど、どんどん話したくなるんだと感じた」


 日向は恥ずかしそうに髪を撫でながら「本当? 嬉しいな」


「うん、本当。だから……俺の側でもっと笑顔を見せて欲しい」

「うん、もちろんだよ」


 日向は笑顔でそう答えながら、汰月の腕に寄り添った。

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