最終話
それからしばらくして春樹は、不景気により給料が下がった事と、中村主任の嫌がらせに耐え切れなくなり、仕事を辞めた。春樹は康夫に相談し、まずは繋ぎとして、また恋愛相談所を始めることを決めるのだった。
「何ジッと見てるの?」と、春樹は恋愛相談所で、向かいに座る朱莉に話しかけた。
「ハル君の久しぶりの清々しい顔を、見ていたかったから」
「そう……あの時、後押ししてくれて、ありがとうね」
「いえいえ。それより──」と、朱莉は言って、長形4号の白い封筒をバッグから取り出し、スッと春樹の前に差し出す。
「なにこれ?」
朱莉はニコッと微笑むと「私が復帰第一号のお客様ね。相談に乗って貰いたいことがあるの」
春樹は嬉しそうに微笑み「なんですか?」
「実は……好きで好きでたまらない彼氏が居るんですが、どうしたら良いですか?」
「うーん……こんなにも美人で可愛い女性にそこまで言わせて困らせてしまうなんて、困った彼氏さんですね。さっさとプロポーズしてしまえばいいのに、こんな風にね」
春樹はそう言って、机の上に置いていた朱莉の手の上に、自分の手を重ねる。
「いつも明るく俺を支えてくれる君の事が大好きです。そんな君となら幸せな家庭を築けると思えます。だから……どうか俺と結婚してください」
朱莉は会話を楽しむつもりでそう言ったのかもしれないが、プロポーズが返ってきて驚いている様で、目を丸くして固まっている。
「えっと……それって本気?」
春樹が微笑み「本気に決まっているじゃないか」と言うと、朱莉は幸せそうな表情で「あぁ……嬉しい」と、声を漏らした。そして「もちろん、ハル君と結ばれる未来を望んでいました。よろしくお願いします」
※※※
こうして二人は結ばれ結婚する。結婚相談所は春樹が復帰したことを知った友人たちが宣伝をしてくれたおかげで、大繁盛! といかないもののコンスタントにお客さんが来るようになっていった──。
世間は狭いようで、中村主任を好きだという美人な同級生の女性が相談所に来たが、春樹は正直に話、やんわりと仕事を断っていた。
女性は引きつった表情を浮かべて、春樹の話を聞き、あっさり「もう大丈夫です……」と、言っていたので、そこから先は進展しなかったに違いない。
それから何年かして、漫画家になった将太は、春樹が考えたシナリオを元に、漫画を描いた。その漫画は人気作となり、アニメ化が決定することになる。主人公の声を陽音が担当したことによって、そのアニメは更に人気作となっていった。そのおかげで春樹は退職した会社以上に収入を得るのだった。
二人は今、春樹の自室で肩を並べながらベッドの上に座り、あまーい一時を過ごしている。
「ねぇ、ハル君」と甘えたような声を出し、朱莉は春樹の肩に頭を預けた。
「どうしたの?」
「ずっと恋愛相談所が続けられれば良いね」
「そうだね」と春樹は返事をし、朱莉の頭に頬を寄せた。
朱莉は自分のお腹を優しく擦りながら「そうしたらこの子、継いでくれるかしら?」
「さぁ? でも、継いでくれると良いね」
「うん」
二人は思い出の恋愛相談所を、子供が継いでくれることを夢見ているようだが、果たしてどうなるのか、その答えが出るのは、まだまだ先の話である。
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後書き
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性悪女子に振られたら、なぜか恋愛相談所を手伝うことになりまして、様々な出会いのお蔭で、学校の人気者になっていました。振った女性? もう眼中にありません 若葉結実(わかば ゆいみ) @nizyuuzinkaku
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