新人Vの初配信

『元笑 わらべの初配信』


 フルダイブでマッドの身体調査を行った数日後。

 マッドより一日先に五期生がデビュー配信することとなった。

 咲桜gmesの新人デビューは企業内の祭りのようなものになり、全演者が公式の新人デビュー配信に出演する。

 さらに言えば今回は二日続けて行われるうえに、トップの元ママのデビュー。

 事前配信ですら同時接続数30万を超え、シャベッターのトップニュースに取り上げられるほどの盛況を見せた。

 満を持して一人目の配信。

 フルダイブ配信をする場合、三人称視点が配信される。

 プライベートルームであればカメラが実体化するため、好きな位置に移動させられ、さらに、カメラを細かく設定することができる。

 設定といっても、カメラの大きさやレンズ後ろの発光体の追加、追従するか、その場にとどまるかなどだが。

 新人の配信は2期前の同じ期生番号ナンバーを持つ先輩に助けてもらいながら進めることになっている。

 わらべの助っ人は3期生の浮世絵うきよえ ゆるという和をテイストにした先輩が担当する。

 配信前の打ち合わせの時間。

 作成してすぐのわらべの部屋にわらべとゆるが居た。


「って感じだーよ。キンチョーせずに張り切ってコー!」


「はい!わかりまひあ!う、カンジャッタ」


「かわー、わらちゃんはポンキャラ枠かなー」


 ゆるゆるッとした雰囲気のゆると天然な真面目のわらべ、二人の相性は結構よさそうに見える。

 フルダイブが誕生して初めての新人。

 会社も入念に準備をして、作戦を練って配信をしている。

 フルダイブ制作の第一人者である少女をスタッフルームに呼んでいることからも本気度が透けて見える。

 いざというときはフォローするから!と、配信開始まで十秒を切った。

 視界端のカウントダウンが進み、4、3、2…

 0の表示とともに配信を見ている画面がブラックダウンする。

 ボッと音を立てて遠くで炎が燃え、連続して手前に近づくように炎が左右対称に燃える。

 明るくなったその場所は道でも廊下でもなく、広間。

 そして、炎の下の膝くらいの高さの机に豪華な料理が並んでいた。

 炎の光ではまだ薄暗かった広間が炎が消えると同時に明るくなる。

 最奥の上段に座るのは白頭に簪を挿し、目元を出した般若の破面をかぶった巫女装束の美女。

 手に持った杯を開けるとにかッと笑い、逆の手に持った瓢箪を上に突き上げる。

 ワッと話し声が響き、何時の間にか左右の机に人が座って料理を食べたり酒を飲んだり大騒ぎしていた。

 それを見て豪快に笑う美女は杯に酒を注ぐとこちらに差し出してきた。


おれの名はわらべ!元笑 わらべだ!新たな仲間よ、己と笑おうぞ!」


 肩を揺らして笑うわらべからカメラが引くとぴしゃりとふすまが閉じられ、そこでMVは終わった。

 ふすま下半分に描かれた絵が動き、ミニキャラになったわらべが瓢箪から杯、杯を飲み干し、人心地、瓢箪から杯…と、繰り返しながら、その横で達筆なひらがなで書かれた「なうろーでぃんぐ」左から順番にポコココとジャンプするという謎の間の後、ふすまが空き、2D状態のわらべがど真ん中に、その右側にコメント欄、左下の隅っこにゆるがいる画面に飛ぶ。


「あー、き、聞こえるか?」


:きこえtr

:きちゃ

:kうぃいいいいいい

:不安なギャップスコ


「聞こえてたか…じゃあ、改めて、わた…お、己の名はわらべ!元笑わらべだぁ!」


:PON

:PIN

:いかついキャラではなくポンだった!?

:ふーん、チャンネル登録とGDしました


「ふぐぐぐぎ…はポンじゃ!」


:キャラ崩壊RTA新記録

:キャラwww

:草

:可愛いから許す


「はぁい、わらちゃん落ち着いてー、あ、どーもー、咲桜所属の浮世絵の方のゆるだよー」


「センパアイ…」


:どもどもー

:わらべちゃんの助っ人はゆるるんだったか。

:わらたんの助っ人はきよえんだったか

:↑あ?ゆるるんだろ?

:↑↑↑きよえんだよなぁ?


「はあい、ここはわらちゃんの枠だから喧嘩はなーし、おけー?」


:イエスマム

:イエスクイーン

:もちろんですよ(汗)

:イエスゆる


「ふいぃ、ま、ってことで、わらちゃん、自己紹介言っちゃおう!」


 わらべの体にかぶせるようにプロフィールが出現する。

^^^^^


名前 元笑 わらべ


年齢 127


性別 女


好きなもの お酒 お刺身 ゲーム


きらいなもの 辛い物 苦い物 ホラー


自己紹介 100年以上前から大宴会を開き続けている別次元の鬼だ!

     酒と肴が欲しい奴はの配信を視ろ!


^^^^^

 体が隠れていることをわかっていないのか、わらべはそのまま話を続ける。


「こんな感じだ!わた…もう、私でいいや…私の年齢は127!チョー昔から死者も生者も問わずに大宴会に招いて寝ても覚めても騒いでるぜ!私のリスナーはこの宴会に呼んでやってるんだぜ!ふっふっふー、うれしいだろォ」


:メスガキ?

:PONガキ?

:わからせるか?

:PONガキwww


「PONじゃないし…メスガキじゃないし…」


「わらちゃん、台本台本」


「あ、えっと、次は…名前決め?えっと、『リスナーさんの名前と公式切り抜き#と公式ファンアート#と非公式ファンアート#を決めましょう』だって!」


「読まないでよ~!」


「ア」


:PON

:PIN

:PAN

:PEN

:PAINAPPO

:APPLE

:PEN


「…まあ、うん。しゃーないねーってことで、今見てるリスナーさんにはわらちゃんのリス名と~基本#名ボシュ―しまーす!」


「ボシューシマース」


 プロフィールを消して、代わりにリスナー名、ファンアート#、非公式#と書かれたウィンドウを出す。

 相変わらずわらべの2D体の上に出していてわらべは見えない。


「まずはリス名から~」


:悲報、わらべちゃん配信を乗っ取られる

:『わらべの肴たち』

:『酒飲み』

:『飲んだくれ』


「わらべの肴たちいいじゃねえか」


「おー本人ご指名~」


「これでいい…デスカ?」


「好きに決めちゃっていいのよ~」


「じゃあ、決まり!」


 ウィンドウにその場でリスナー名『わらべの肴達』と入力された。

 を変換しているが、気づいた様子はない。


「次はわらちゃんの全年齢ファンアートを投稿するときにつける#ね~はい、どんどーん」


:漢字変換www

:ファンアート…むずいな

:『わら油絵』

:むずいなぁwww


「わら…あぶらえ?」


「わらゆえじゃないかな~」


「かわいい!それにしましょう!」


「キャラァ~…」


「ア」


:ブレブレ鬼

:PON


「うーん、まあ、先輩方ももうRPしてる人の方が少ないし、後からばれるより最世の方が~かな~?」


「センパアイ!」


「じゃあ、取り敢えずファンアート#に~」


「はい!」


 ファンアート#には『わら油絵』と入力する。


「最後!」


「ってことで、わらちゃんのHな絵をぼしゅーするとこの#だよー」


「え、H///」


:KAWAII

:KWII

:宴開いてるのに純情!?

:酒カスPOM鬼純情真面目ガキ!?

:性癖の宝箱さん!?


「///」


「かわー、ってことでぼしゅーかいしー!」


:『わからせわらべ』

:『わらべの宴』

:※コメントがバンされました

:『わらべわらわら』

:↑↑コメバンw


「音はめでいいのは「わからせわらべ」か「わらべわらわら」かな~どっちがいいともう~?」


「え!?えっと、じゃ、じゃあ、わらべわらわらで…」


「おけ~」


 わらべの2D体の前のタスク表の空欄には『わらべの肴達』、『わら油絵』、『わらべわらわら』と入力された。


「よしゃ、おわたよ~」


「えっと、次は…」


 タスク表に書かれている内容はここからQDAへ移行、プライベートルームで以下のタスクをこなすこと!と。


「QDAへってことは、この部屋を!?」


「そだよー私とわらちゃんしかいない上に家具が一つも存在しないこののっぺりとした部屋を写すんだよ~」


「オワー…」


「そんじゃ、移行ー!」


 画面が再び左右から閉じられたふすまに阻まれた後、すぐにふすまが開いた。

 映されたのは薄く光るウィンドウを見ているゆるとカメラ右半分を占めるわらべの顔だった。


「これ、もう映ってるんですか?」


 わらべが振り向きながら問う。


「ばっちりわらちゃんの凛々しい顔がまじかで映ってるよ」


「映ってたんですか!?」


「移行っていったよね…」


「アウ///」


 外見に似合わわずに内又でもじもじするわらべ。

 コメント欄はほとんどがかわいいで埋められ、もう最初のMVのイメージはない。

 ウィンドウ消し、ゆるがカメラに振り向く。


「やっほー!どーもどーもー、咲桜所属の浮世絵の方のゆるだよー!」


 左手を上げてピョンと小さく飛び、にっこりとカメラに笑う。


「ほら、わらちゃんも!」


「あ、え、あ、えっと、わらべの肴達よ、よく集まった!今日も今日とて飲み明かすぞ!」


 右手を挙げ、左手を胸の前まで上げるわらべは不敵な笑みを浮かべながらカメラにニヤッと笑いかけた。


:いまさら定期

:男らしいはずなのになんかかわいく見えるのなぜ?


「はいー自己紹介は以上!さっそく次々!じーかんなーいよー」


「次!次は…カスタムのキャラクタームービーワールドで撮影タイム!」


「よっしゃー行ってみよー!」


 メニューを開いたゆるがテレポートを始める。

 同じパーティーのわらべも同時にテレポートを始めた。

 二人がテレポートしたのは20個ほどのセットのあるカスタムの平面世界フラットワールド

 咲桜gamesが用意した新人撮影所だ。


「とうちゃーく!」


「わぁ!可愛い!」


「わらちゃんかわー、ってことで、一個目から順々に行くよー!」


:きちゃああ!

:スクショ準備!

:ゆるわら!?

:ユル様激おこなんじゃね?

:百合の間に挟まる鬼


 一つのセットで10個程ポーズをとり、はい!はい!とシャッターチャンスアピールをする。

 終わったころにはちょうど配信終了予定時間だった。


「最後の方は走った感じがしたね~」


「つ、つかれまひた…」


「かわーってことで、わらちゃん、二人目の子と自分の次の配信の~説明!」


「はい!私の次の配信はストーリーモードをクリアするまでやります!」


「ちょっとしたネタバレすると~…ストーリーモード結構短いんだよね~」


「そして、私の次に配信するのは…紫水しすい レイさんです!」


「みんな移動してね~それじゃあ…?」


「…あ、えっと、『今日お前らが参加できるのはここまでだ!また、来てくれよな!』バイバーイ!」


:バイバーイ!

:お疲れ様!

:総員、移動開始せよ!

:バイバーイ!


 エンドロールが流れ、配信が終了した。

 カメラの消滅したわらべのプライベートルームに残ったわらべはふー、と息をつくと倒れるように座り込む。


「き、緊張したぁ…」


「わらちゃん、全然笑えなかったね~」


「そ、そりゃあ、まあ…」


「まあ、次回から、ね~。」


「はい!」


 二人はそのままログアウトし、レイの配信待機画面を開いた。


^^^^^


登録名 元笑 わらべ@warabe-gensyou in sazakuragames


登録者 32K


^^^^^


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