『狂人、異世界に降り立つ』
フルダイブシステムによるQDAが始動して3時間、すでにログイン数が100万を超えたあたりで、トモコの病室にフルダイブをするための機器が運び込まれた。
とはいっても、PS4くらいの大きさのゲームコアに、カチューシャをT字にくっつけたみたいなフルダイブシステムコンソールだけだが。
カチカチとスタッフが準備するのを横目に見ながらさくはトモコにいろいろと説明をしていた。
「ともちゃんには『マッド・ディカルド』って名前でデビューしてもらいます!設定はこれに書いてあるから、読んでね。」
「うふふ、うん、う、ん。わかか、へへへ…わくぁった!」
上機嫌に体を揺らすトモコの手元をのぞく。
持っている紙にはこんなことが書いてあった。
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名前 マッド・ディカルド
年齢 不明
性別 なし
好きなもの なし
きらいなもの なし
自己紹介 (代筆)Vとしてデビューすることになりました!
マッド・ディカルドです。
楽しく配信できることを願っています。
注意事項 マッドさんは事務所が取り付けた協力の下、
言動・行動にRPしてくれています。
過剰な誹謗中傷や非難の声は運営によりバンさせていただきます。
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ザ・贔屓な内容だが…
ンフフフ…と笑うトモコを見れば、その言葉も引っ込む。
「ログインしたらその場で待っててね。カロラインって名前の人が迎えに行くからね。…じゃ、準備もできたっぽいし、ヘッドセットつけるね。」
「うん、うふふふ…」
カチカチっと顎ヒモをしめてトモコを優しく押し倒し、寝かす。
ピポポ、と、コアを起動して接続されたヘッドセットのライトが白から赤、青色に変わる。
「さ、さっささ、さくちゃん、い、いってきまぁ、あ、す!」
「今度、コラボしようね!いってらっしゃい!」
カチリとヘッドセットのリンクボタンを押し、トモコの視界がスパークするとともにカクリと、トモコの体から力が抜ける。
開いていた目がゆっくりと閉じ、ベッドの隣に置かれたテレビにトモコの現在の視点が三人称視点で写されていた。
^^^^^
トモコが降り立ったのは、アルブルンの中心都市、イレベレムのリスポーンポイント。
トモコがその場で左右をキョロキョロと見た後、その場に座り込み、フンフフンと鼻歌を歌う。
数人が彼女を注視してみていたが、そこから彼女の奇行が広がり、リスポーンポイントに居る全員がトモコ…いや、マッドのことを注視しだした。
どうするよ、声かけるか?と話している者達の人込みを一人の女性がかき分けるようにマッドを囲む円から出てくる。
「マッドさん!本当にその場で待たれてたんですか…」
女性はマッドに近寄ると座っているマッドに視線を合わせるようにしゃがみ、小声で話しても周りに聞こえないくらいの距離に近寄る。
「私はカロライン。さくさんから聞いていませんか?」
「カロ、ろいんさん?ん?」
「はい、カロラインです、あーっと、場所を移しませんか?」
「んー?」
マッドはノーモーションで立ち上がるとカロラインの後ろに回り込み、フンフフンと鼻歌を歌う。
「えっと、あー。ついてきてくださいね。」
「~♪」
カロラインの後を子鳥のようについていくマッド。
その場にいる全員からの注目を集めながら、二人はイレベレムの街に消えていった。
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