『紫水 レイの初配信』


 自分のプライベートルームに入っているレイはつい先ほどフレンド登録した先輩をルームに招待した。

 転移してきた先輩の名前は平等院ひといん ソルン。

 月光をモチーフにしたレイの逆、陽光をモチーフにしている。

 真っ白の髪に大きな胸に目立つほくろと目の下の泣きぼくろ。

 彫刻のようにきれいな顔に、日本人特有の肌色。

 豊満な体を包む服は神女が着るような真っ白いローブで、のぞく足には対照的な真っ黒のニーハイソックス。

 頭の後ろには後光のような線が円形に広がっていた。


「招待ありがと。」


「はい。」


 無表情なレイと微笑みを浮かべるソルン。

 青白い肌のレイはその無表情さから少しだけ人外めいた感想を抱く。

 そんなレイの頭をソルンはいつくしむように撫でる。


「緊張してる?」


「はい。」


「ふふふ…大丈夫よ。落ち着いてやりましょう?」


「…はい。」


 物静かという似た雰囲気の二人は配信開始時間まで真面目に打ち合わせをする。

 ある程度発現する言葉すら決めているのは、真面目を通り越して怖い。

 いよいよ時間になり、待機画面からムービーに移る。


「夜、曇る空に、真の暗闇。」


 レイの録音した声で語られるとおりに真っ暗闇に旅人の姿の顔のない人間がうつされる。

 ぼんやりとしか光らない手持ちのランタンを掲げながら旅人は警戒した様子で進む。


「真の暗闇には、悪魔が住まう。」


 旅人のランタンが揺らめき、唐突に旅人がよろめく。

 よく見れば旅人の背中には3本の爪のひっかき傷のような跡が。

 急いで振り向くが、旅人のランタンの光は何も照らさない。


「故に、私は空から君を照らす。」


 突然、周囲が明るくなり、暗闇に隠れていた人外めいた外見の悪魔が見える。

 薄く見えるのは草、草原だろうか。

 旅人と悪魔が見上げるのは空。

 カメラアングルが旅人の頭の後ろに移動し、空を見る。

 巨大な月が旅人を見下ろしていた。

 カメラアングルが戻り、旅人は持っていた小さなバッグをその場に落とすと腰にさしていた剣を抜き、悪魔の胸を刺した。

 刺した瞬間からカメラアングルが上に上る。

 真っ黒い空に浮かぶ月にをとらえると、一度止まり、カメラが月に寄っていく。

 画面いっぱい真っ白い月の光に満たされた後、黒い輪郭が浮かび上がり、それが徐々に色付いていく。

 流れる金髪に青白い肌。

 無表情な童顔の顔は見つめ返すと引き込まれるようだった。

 ぴっちりとした飾り気の少ないドレスを着たレイはゆっくりと近づく。


「君が見てくれるなら、私も君を見つめよう。」


 フッと笑うと画面がホワイトアウトした。

 左下にnow loading…と表示され、その横に月の上に乗ったミニキャラレイが無表情で回る月の上を走るというシュールなGIFが流れる。

 謎の間の後、ミニキャラレイの乗る月にグイッとより、画面が切り替わった。

 画面の右の大半がレイで、その下の端の方に動かないソルンの立ち絵。

 画面左下にコメント欄、その上におそらく文字を書いたりするスペース。


「こんばんは、今日も君を照らす月光、レイです。」


:すげええええええええ

:きちゃああああああ

:かわいいいいいいい

:NOTPON!

:無表情ロリ!?


「そして、レイちゃんに付くのは私、今日もあなたを照らす太陽、ソルンだぞい。」


:ソルン!

:太陽礼拝ネキ!

:こんルンでっす

:そっかソルンネキか…


「それじゃあ、初めての配信始める。」


「困ったら言ってね。」


「ん。じゃあ、まずは君達の呼び方とファンアート#とH絵#。」


 画面左上に3列の表がかかれ、そこにリスナー名、ファンアート#、H#と書かれた。


「まずはリス名ねよーいどん」


:『月光の君』

:『旅人』

:『旅人』

:『ムーンレイズ』


「MV補正かしら?」


「君達はじゃあ、「旅人」ね。」


:おk

:おk

:公式MVには勝てん…

:ミスリード!


 画面のリスナー名が埋まる。


「ごめんごめん、じゃ、次は…」


「ファンアート#どうぞ」


:『月光絵画』

:『月見アート』

:『月写し』

:『旅人の絵日記』


「ん、絵日記…」


「リス名旅人のファンアート#旅人の絵日記…繋がってていいね。」


「それにする。」


 ファンアート#が埋まる。


:並べるとしっくりsくる

:しっくりきた

:はまったな


「最後、H絵#」


「カゲキなのはNGだすよ。」


:『悪魔の絵日記』

:『光届かない暗闇』

:『月光レイビュー』

:『紫水日記』


「むーん…」


「ん?何で悩んでるの?」


「月光レイビューと紫水日記…苗字やっと出たけど、苗字=Hみたいになる…」


「どっちもいいと思うけど…」


「ムーン…」


:どきどき

:わくわく

:二択なんだなww

:ほかの選択肢ェ…


「…レイビュー。月光レイビューにする。」


「おっけ。じゃあって、早!今更気が付いたけど、まだ15分じゃない!」


 ポンポンレイが決めるため、配信が始まってまだ少ししかたっていなかった。

 ソルンはチャットで指示を仰ぐ。


「これで完成。」


 完成した表を見て満足げなレイと対照的にソルンは顔を青くした。


「…?先輩?」


「え、あ、ちょっとっまってね。」


 後ろでチャットしているソルンに首を傾げるレイ。

 コメント欄は何のトラブルか当てるゲームを始めていた。


「っ…はい、失礼しました。」


「終わった?」


「うん、じゃあ、QDAのカメラに切り替えようか。」


「はい。」


 わらべと変わらない何もおいてない部屋に画面が移り、部屋の真ん中に女の子座りしている二人が居た。


「改めまして、こんばんは、旅人たちを照らす月光、レイです。」


「そしてソルンだぞい!」


:ソルンネキちっすちっす

:レイたん身長高!?

:高身長美少女というnewジャンル

:惚れました推します


「ってことで、QDAに来たんだけどね、レイちゃん、進行早すぎるよ」


「すみません」


「怒ってはないんだけどね…時間余っちゃったし、撮影会場行く前の軽いコメント質問に答えるコーナーしよっか。」


「はい。」


 と、それから30分ほど旅人の質問に答えたレイはソルンと撮影会場に赴き、スレンダーモデル体型を生かしたポーズでDOU帝を悩殺した。


「楽しかった。」


「よ、よかったね。」


 むふーと息を吐くレイのノリノリポーズに引き気味のソルンは配信時間を見る。

 配信開始から57分が経っていた。


「さて、そろそろシメだよ。」


「はい。私、レイは次の配信でストーリーモードをします。あと、ネタバレですが、他の咲桜gamesの先輩・同期もストーリーモード配信をするらしいです。よね?」


「うん。私のストーリーモード配信も予定してるよ!あと、ゆるさんが言い忘れてたけどゆるさんもね。」


「そういうわけです。では旅人のみんな、また、月の上がるころに。」


「ばいばーい!」


「あ、次の5期生は灯火之ひびの カケスちゃんの配信です。移動してね。」


:おk

:あたりめえよ

:僧院とつげき!


 エンドロールが流れ、配信が終了した。

 カメラの消滅したレイのプライベートルームに残ったレイはソルンに初の配信とは思えない出来栄えと褒められながらログアウトした。

 ログアウトした二人はそれぞれの端末でカケスのチャンネルの待機画面に移った。


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登録名 紫水 レイ@rey-sisui in sazakuragames


登録者 35K


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