『レイとコラボ』


 ふんふんふふーんと鼻歌を歌いながらうつ伏せで本を読む少女が一人。

 可愛い小物の多いベッドの上にはハンド掃除機、タオル、チップ菓子、ベッドに開けられた丸い穴に刺さった炭酸ジュースの入ったコップ、が置かれている。

 少女は少しくたびれたライトノベルをめくり、チップ菓子をつまみ、それを小さな口でもしゃもしゃ食べる。

 唇から引き抜いた唾液で濡れた指をタオルで拭くとコップに刺さったストローが口に入るように顔を動かし、(目はライトノベルに釘付けのまま)ちゅうちゅうとジュースを飲む。


「ケプ」


 小さくげっぷをした後、再び鼻歌を歌いながらライトノベルを読――


たんたたたんたたたんたたたん、たんたたたんたたたんたたたん!


「うえあ!?」


 爆音で流れるアラームを聞いてびくりと驚く少女はライトノベルを閉じると、ハンド掃除機以外のモノをベッドから机に移し、ハンド掃除機でベッドを一通り吸った後、ヘッドセットをつけてQDAの世界に入っていった。


^^^^^


 紫水レイはログインすると同時にフレンド欄からパーティー申請をした。

 申請先は平等院ソルン、咲桜さく、マッド・ディカルド。

 三人ともログイン済みで、パーティーもすぐに全員参加した。

 本日はレイとマッドのコラボの日。

 コラボ配信まであと10分ほどしかない。


「レイちゃん遅いぞ!」


「すみません」


 テレポートしてきたソルンに戒められるも、レイは仕事モードで謝る。

 その姿を見てソルンははあ、とため息をついて、後ろに隠れていたさくとマッドがレイから見えるように横に避ける。


「あ」


「( ,,`・ω・´)ンンン?」


 いたずらの失敗した子供のようにおろおろとするさくと目の前にいた人がいきなり居なくなったせいか、首をかしげるマッド。

 二次元ライトノベル好きで少女博愛ロリコンなレイとしてはマッドに抱き着いて頬っぺたすりすり、髪の毛くんかくんかしたいところではあるが、ぐっとこらえてソルンに近寄る。


「それで、私はどうすればいいですか?」


「ん~、昨日のわらべちゃんと同じで一応の話題はあるけど、まあ、成り行きでって話になったぞ。」


「なるほど。」


 若干化けの縄がはがれて来たのか、~だわ口調が消えてきたソルンの指示を聞いてレイはとりあえず話を合わせようと楽観的に考えていた。

 今回で自分の化けの皮が剝がれるとは知らずに。


^^^^^


「こんばんは、今日も君を照らす月光、レイです。」


「今日もあなたを照らす太陽、ソルンだぞい。」


「わーい!リスナーのみんなこんばんわ!咲桜games所属の山桜さくです!」


「ま、マッどどド・でぃかるーど、です!えへへ!」


:生きがい

:ロリコラボ助かる

:太陽礼拝!

:太陽礼拝!


「というわけで!五期生デイズ二日目は紫水レイちゃんです!」


「挨拶もそこそこに、スタートトークタイトル!だぞ。」


「第一印象とどう思っているか…」


「じゃあ、先輩は引っ込むぞ。」


 昨日の反省点を踏まえて今日の放送は先輩二人も配信枠を取って後輩のトークに考察や感想を話しているらしい。


「私は、可愛いなって。そんな感じ?」


「( ,,`・ω・´)ン、れ、レイちゃん、んん、の、ことは、く、くくクールな娘、かな?な?」


「クール…」


「( ,,`・ω・´)ンンン?違う、の?」


「いや、そんなことはないけど、クールか…」


「( ,,`・ω・´)ンンン?」


:れいたそはクールって思われたくないのかな?

:ダウナー系とか?

:冷静沈着とか?

:マッドマンマが可愛いのは当然だな


「( ,,`・ω・´)ン…れ、レイちゃんは、す、すす好きなものとかって、あ、あるの?」


「好きなモノ…ラノベ?」


「( ,,`・ω・´)ン…くれ弾、せきセル、ライラベ…」


「ら、ライラベ知ってるの!?」


「えう!?う、うん、し、ししし、知ってる。」


「えー!誰推し?私はやっぱり主人公のテラス・ライラックくんかな!物憂げな感じとか、他の人の才能に押しつぶされながらも必死に努力するところとか、ヒロインのピンチを察知してすぐに助けに行けるところとか、あ、あと、絶対に勝てないって自分でも分けってても他の人のために自分を犠牲にしてまで動けるところとか、すごいと思うし、かっこいい!よね!」


「( ,,`・ω・´)ンンン…そ、うだね。」


「あ、でも、時々見せる弱さとか――


^^^^^


:オタク君話が長い

:レイさん、マッドちゃんが困ってるよ

:さくちゃん止めたげて


「それで…」


「ストップストップ!レイちゃん、一つの話題が長すぎるよ!ってか、レイちゃんしか話してないじゃん!」


「レイってオタクだったんだな…引くわけじゃないけど、ちょっと話が長すぎだぞ…」


「( ,,`‐ω‐´)ンン…」


 熱くなっていたことにやっと気が付いたのか、高速トークにより体温が上がり、真っ赤になったほっぺたと同じくらい耳を赤く染めると恥ずかしそうに下を向く。


「ご、ごめんなさい。」


「( ,,`・ω・´)ン、ダイジョブ。」


「さすがに30分話し続けるとは思わなかったわ。」


「好きなことを否定するわけじゃないけど、配信中なのを忘れてたんだぞ。今度から気負付けるように!だぞ。」


「ハイ…」


 しょげるレイにトテトテとマッドが近寄ると背伸びをして頭をなでる。


「( ,,`・ω・´)ン、こ、今度、おおおふで聞かせて?ね?ね?」


「マッドしゃん…!」


がば!


「あ!」


 レイは背伸びをするマッドを抱きしめるとすりすりと頬を合わせて擦る。

 ( ,,`・ω・´)ンンン、と擦られるたびにマッドが鳴くのが面白いのか、だんだんと顔の速度が上がる。


「可愛いねえ、可愛いねえ」


「ちょっと、レイちゃん!マッドちゃんは私が!」


 と、レイの腕からマッドを取り上げるさく。

 あ、としょんぼりとするレイにフンと顔をそむけるさく。


:てえてえ

:マド×さく

:マド×レイ

:二つの派閥が出来上がったなwww


「やれやれ、だぞ…」


 完全に置いてけぼりなソルンがため息を出した。


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