第17話 てがかり

「これが現場で回収されたカプセルよ」


 セイバーグループ本社C‐三会議室で行われる勇者会議では、リレイ部長が壁一面に白いピンポン玉ほどのカプセルの映像を見せる。


「解析したところこれは瘴気を溜めておくモノで手動、タイマー、遠隔操作のいずれかで瘴気を周囲に散布するわ」


 ウィルト達新人のCランク勇者達が注視する中、リレイ部長は話を進める。


「けれど極端に瘴気の発生地帯が減って貴重な存在になった今、瘴気を的確に扱える人は限られているわ。

というわけでみんなには瘴気を手に入れる事ができてかつ、このカプセルを製造使用できる人達の身柄を確保してもらうから、皆の携帯とパソコンにメールが送られるけど指令書を配るわ、呼ばれた人は来て、っと、そういえば」


 そう切って、リレイはメガネ越しにウィルトへ視線を投げる。


「ウィルト、あんた達はアーレイさんのところに行ってもらうから粗相の無いように頼むわよ」

「え?」


 と驚いたのはウィルトだけではない、会議室全体がドヨめいてウィルトに視線が集まる。


 アーレイと言えばあのアーレイである。


 魔科学研究のエキスパートで世界的に有名な、超がつく天才でどのテレビや雑誌でも引っ張りだこでありながら、なお研究を次々完成させて学会の度肝を抜き続ける若き鬼才、誰もが認めるこのレイドガルズ王国の超重要人物だ。


 その身柄確保ともなればSランクパーティーによるVIP扱いが妥当だろうが、何をどうすれば新人Cランクパーティーの中でも、さらに底辺に位置するウィルトパーティーにこの仕事が任されるのか、理解できる人は一人もいない。


「というわけで指令書を取りに来い、ウィルト」





 会議終了後、誰もいない会議室ではウィルトが当たり前な質問をリレイに投げかける。


「っで、なんで俺らなんですか?」

「私に言われても、アーレイさんの指名なのよ」


 眉間にペンを当ててため息をつくリレイに、


「指名?」


 と聞き返す。


「アーレイさんから私にね、もし自分の身柄を拘束する事が起こったら迎えはウィルトパーティーにしてって言われたのよ」

「なんでまた」

「えーっと」


 口ごもってから、リレイは視線を外しながら頬を染める。


「クロエの胸が見たいからだそうよ」


 なんて欲望に忠実な人だろう。


「それと今回ばかりは本当に気をつけてよ、ちょっとのトラブルでも起こしたらただじゃおかないから」


 言葉に力のこもるリレイに気押されながらウィルトはあとずさる。


「な、なんかあったんすか?」

「何かあったじゃないでしょ? 貴方も知っての通り、アーレイさんはレストランの襲撃事件でまた自分の車大破したのよ、本人は自分は巻き込まれ体質だからと笑っていたけど、二度も連続して車壊されて平気なわけないでしょ、とにかく今回だけはなんのトラブルにも巻き込まずスムーズに送り届ける事、わかった?」

「分かりましたけど、巻き込まれ体質ってか普通に不幸ですね」


 クロエの胸に鼻息を荒くするアーレイを思い浮かべて、ウィルトは思わず口がへの字になった。




 エデンガルドの昼下がり、民家をまたぎ、ビル群を縫うようにして空に身を預ける空中高速道路を、セイバーグループ正式採用、勇者用移動車スレイプニル二〇三〇が猛スピードで疾駆する。


 見た目は普通の車だがアダマント加工と対魔力術式が施された装甲車で並の銃火器や攻撃呪文ではビクともしない。


 純白の車体が太陽光を反射しながらウィルトのハンドルさばきで優雅に、そして力強く向かうのはエデンガルドの第五研究所。


 主にモンスターの研究をしている施設で数千にも及ぶモンスターを飼育、保管し、他にも極めて貴重なサンプルが多数保管され、ドラゴンの心臓などはその最たるものだ。


 さすがはテレビインタビューで専門分野を聞かれ『この世の全て』と答えるだけのことはある。


 科学が物理学や医学、機械学などに分かれるように、魔法と科学の融合たる魔科学もその分野は多岐に渡るが、アーレイはその全てに精通している。


 瘴気の扱いも機械カプセル製造も彼ならお手のものだろうが、今度はモンスターの研究にまで手を伸ばしていると見える。


「でもあたしは良く知らないけどそのアーレイだっけ? 随分ふざけた理由であたしらを呼び付けたもんよね」

「そう言うなよエリカ、おかげでいい仕事が回って来たんだから、今回の特別手当は高くつくらしいぞ」

「そうだエリカ、ボクの胸でもこんな事の役に立てるなら……」


 クロエがそこまで言って、顔を伏せる。


「別にいいじゃないか……」


 隣の席であからさまに落ち込むクロエにウィルトもかける言葉が見つからない。


「そうね、ドジでグズな牛魔女もこんな時くらいは役に立つわね」

「牛……ボクだって好きでこんな……なぁウィルト」


 チラリと視線を向けて来て、


「ボクの魅力は胸だけなんだろうか?」

「!?」


 ガタタン!

 スレイプニルが大きく揺れる。

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