第15話 女剣士の過去
勇者養成学校歴代最強と言われるフィリアは孤児院で育った。
親の顔なんて知らないし、気がついた時には孤児院で暮らしていた。
そんなフィリアは、幼稚園で親の来ない行事の度、孤児院で他の子が引き取られていく度に寂しくて泣いた。
けれど、たまたま人よりも運動ができたフィリアはクラスのいじめっ子を殴り倒した。
いじめられていた子が可哀相だったとかいう正義感ではなく、弱者をイジメる事でしか自分の立場を維持できない様がムカついて、逆らわずにイジメられている子にもムカついて、それでまずはいじめっ子を殴った。
続けていじめられている子も殴ろうとしたらその子が飛び付いてきてお礼を言ってきた。
周りの生徒達もフィリアに賞賛の声を送った。
どうやらそのいじめっ子には皆困っていたらしく、それでも誰も逆らえずにいたらしい、その日以来、クラス中の生徒がフィリアの周りに集まるようになった。
イジメっ子を倒す度、困っている人を助ける度にその人数は増えて、学年中、学校中の生徒がフィリアに集まり、剣術や格闘技の大会で優勝するうちに、教師やPTAの大人までフィリアを褒め称えた。
フィリアはもう寂しくなかった。
誰もがフィリアと関係を持ちたがり、誰もフィリアを好きで、誰もがフィリアと一緒にいたがった。
強ければ人は寄ってくる。
フィリアはそう学習していた。
だが、フィリアの勝利は続かなかった。
小学生の時に優勝した全国剣術大会。
その女子部で優勝したフィリアは、男子部で優勝したウィルトという男子に目をつけた。
女子の身で男子部の優勝者を倒せば自分は文字通り最強の戦士。
その時、周囲から寄せられる声は今までの比ではないだろう。
だが、大会終了後に競技場に呼び出し勝負を挑んでみれば、フィリアは完敗だった。
元から全試合を一撃で終わらせたウィルトの戦闘力を侮っていたわけではないが、フィリア自身も全ての試合を一撃で終わらせた身。
だからウィルトは自分より少し劣る同格の相手、そんな甘い評価をしていたが、ウィルトは自分をしてもなお圧倒的な力量を持っていた。
ウィルトからすれば、自分も他の選手達同様、取るに足らない存在だったのだろう。
放心状態の自分に可愛いとか将来有望とかさんざん言ってから、黒い服を着た女の子と一緒にどこかへ去るウィルトをフィリアは忘れなかった。
試合を見ていた人は男子が相手じゃしょうがないと言ってくれたし、ことさら彼女の敗北を広めるような事はしなかった。
だがやっぱりフィリアも男子には勝てないんだ、という声が少なからずあったのも事実だ。
自分の人生に初めて土をつけた男を、しかしフィリアは恨んだりはしない。
ウィルトを目標に、フィリアは本格的に剣術、そして魔力を使った法術を学び、ついには魔術にまで手を出した。
魔術と法術、すなわち、魔法を習得していった。
小学校を卒業した後は町を出て勇者養成学校の中等部へ入学、そこでウィルトを見つけたフィリアの興奮度合いは、人生で何度も味わえるものではない。
こんどこそ自分が勝つ。
しかし、そう意気込んで、同じ勇者学校の戦友になろうと近づいてみれば、彼は彼でなくなっていた。
魔術や法術はおろか、剣術においても学科の最低レベル。
試合をすればフィリアの振るった剣で簡単に倒れてしまう。
自分はこんな奴を目標にしていたのか?
そう自問して、フィリアは悩んだ。
本人は昔のあれが自分の限界で、もう強くはなれないと言った。
そう言われて、フィリアは諦めかけた。
ウィルトが強かったのは子供の時の話。
今では自分のほうが遥かに強くなってしまったのだと。
だが、ある日の課外授業でフィリアは偶然見てしまった。
他の生徒がいない場所で森の主、ベヒーモスを一撃で倒すウィルトを。
その強さに目を奪われた。
思わず見惚れた。
今の自分にあんな真似ができるか? いや、無理だろう。
それからフィリアは今まで以上に鍛錬に打ちこんだ。
なのにウィルトは皆の前ではいつも弱くて、劣等生の烙印を押され、自分との試合でも必ず負けていた。
戦闘面においてクラスメイトや教員から賞賛されても、今まで感じてきたあの多幸感は無かった。
違うと、真の最強はウィルトだと喉が裂けるまで叫びたかった。
だがそんな事を誰が信じるだろうか?
つのる思いをぶつけるようにまた鍛錬に打ち込み、それこそ勇者に必要なパーティー集めもせず、指揮統率方面でどれだけ成績が悪くなろうが、フィリアにとってはウィルトを超え、真の最強となる事のほうが重要だった。
息が詰まりそうな六年間に耐えて、卒業を迎える頃、ウィルトとは一度も本気で戦えなかったが、それでもフィリアはある程度の達成感は持っていた。
それほどにフィリアは強くなっていたのだ。
一つ習得するだけでも至難の業であるカリバー系を学生の身で九属性も会得し、剣術、法術、黒魔術、白魔術、どの分野でも最強の名を欲しいままにして、学園長をして歴代最強とまで言わしめる実力に至り、さすがにウィルトを超えただろうと、そう思い込んでいたのだ。
そんな、六年間の青春を投げ捨てて手に入れた僅かな希望は一日で崩壊した。
卒業式の日の放課後、フィリアはウィルトに勝負を申し込むべく後を着けながら今なら本気で戦ってくれるだろうかと悩んでいた。
するとウィルトは地下のバーと思しき場所へ入り、同じ勇者学科の男子達八人と合流する。
離れた席から観察すると、どうやら彼らに呼びつけられたらしい。
しかしウィルトがその男子達と仲が良かった記憶は無い。
それどころか一緒に卒業を祝うような男友達自体いないはずだ。
とはいえ、自分もウィルトを二四時間監視しているわけではない、自分の知らないところで交友関係があってもおかしくないかと、頼んだコーヒーミルクを口に含んだところで男子達の正体が分かった。
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