第16話 幼馴染がエロすぎる


「あーあ、結局クロエちゃんお前のパーティーかよ」

「いいですねー、幼馴染ってだけで組んでくれて」

「ていうかお前らいつも一緒にいるよな?」

「ああ何? お前らもしかしてそういう関係? もうヤっちゃった?」

「はぁ! マジで!? あの爆乳爆尻好きにできるってどんだけ勝ち組よ! 俺なんか毎日エロ本でヌイてんだぞ」

「はいはい童貞発言おつかれさん、ああでも俺、合同練習でクロエちゃんの乳揺れ見た日の夜はクロエちゃんでヌイたね」

「あの乳と尻反則だろ、なんかもう見てるだけで犯したくなるよな」

「つうかクロエちゃんの存在そのものが誘ってるよな、あれレイプされても文句言えねーよ、逆に今まで我慢した自分をほめてやりたいぜ」

「まあクロエちゃんもセイバーグループだし、犯る機会なんていくらでもあるだろ」

「てかすぐ犯らね?」


 一人の言葉に男子達が注目する。


「だからさ、みんなでクロエを犯るんだよ、あいつの性格考えたら裸の写真一枚でもあれば黙ってるだろ?」

『おおぉおおおお!』


 途端に湧き立つ男子達。


「なになにやっちゃう? やっちゃう?」

「あのおっぱいヤレちゃうの?」

「やべー俺、あのおっぱい揉み過ぎて、もいじゃうかも」

「そんな上手くいくか?」

「バカ野郎、確かに同じエロボディでもフィリアとかならしねーよ」


 自分の名前が出てグラスを持つ手に力が入るが、我慢してウィルトの反応を待つ。


「でもクロエは術師だろ? マジックキャンセラー系で魔術さえなんとかすればどうにでもなるだろ?」

「いやいやいや、クロエちゃん黒魔術学科主席卒業だぜ、俺らが用意できる道具じゃ抑えられないって」

「だったらよ」


 男子の一人が立ち上がり、ウィルトを見下ろす。


「ウィルト人質にすればいんだよ」


 あまりの外道ぶりにフィリアの手が震える。

 こんな連中が勇者学科を卒業したのかと思うと吐き気がした。


「実はこいつ呼んだのって腹いせじゃなくて最初からクロエ呼び出してもらう為にだったんだわ、だけどこいつが人質になれば絶対言う事聞くだろ? 何せエリートコースまっしぐらの連中の指名断ってこいつと組んだんだ。

 よほどウィルトが大事なんだろうよ、つうわけでウィルト」


 リーダー格の男子が粘着質の声を発する。


「俺らに協力してくれよ、大丈夫タダとは言わねーよ、どうせお前クロエちゃんに手え出せてないんだろ?

 お前にそんな度胸ねーもんな、でも俺らに協力したら最後にお前にもクロエ犯らせてやるよ、つってもこの人数相手にしたら気い失ってるだろうけどよ」


 いやらしく笑うリーダー格の男子に別の男子達が、


「でも意識ない女ヤるのもいいもんだぜぇ」

「あぁ、抵抗するのもいいけど完全に好き放題ってのもいいよな」


 狂っていた。


 男子達の言葉の一文字一文字を聞く度に血管が切れそうになる


 こんな生き物と空間を共有することが、同じ空気を吸うことが腹立たしい。


 今すぐ地獄を見せてから学園に卒業認定取り消しを申請したい気分だった。


 幼馴染を集団レイプする計画を聞かされ、それでもなおお前はヘタレのままかと、フィリアはウィルトに対する怒りも込み上げる。


 男子達の隙間から僅かに見えるウィルトを注視して、そしフィリアは、ウィルトから素人には分からないほど静かな、だがマグマのような温度の怒気を感じ、コップを置いた。


 まさかウィルト……


「クロエに手ぇ出したら殺すぞ」


 初めて口にした言葉は、あまりに攻撃的な内容だったが男子達はゲラゲラ笑って答える。


「殺すって、お前が俺らを?」

「お前自分の弱さ分かってんのか?」

「頭湧いてんじゃねーの?」

「まあいいじゃねえか、一応こいつも勇者ってことだろ? だからこういう時はさ」


 それが合図のセリフだったのだろう。

 合計八人の男子達が一斉に腰の剣に手を掛け、


 キィン

 グリップ部分だけのソレをウィルトに向けた。


『?』


 八人の男子の目が理解不能で止まった。


 刀身が無くなっている。


 否、刀身が根元から切断されているのだ。


 見下ろせば、刀身はまだ鞘の中に納まっている。


 そして席に座ったままのウィルトが腰の剣から手を離した。


 まさか、と男子達は足を震わせ、フィリアだけは確信を以って目を見開いた。


 話は至極単純。


 ようするにウィルトは八人の男子が剣を抜く前に、自分の剣を抜き、八連突きで全員の刀身を根元から切り裂いたのだ。


 学園から支給された同じ材質の剣で、なおかつ本人達が切られた事に気付かないほど滑(なめ)らかに行(おこな)った技量以上に、驚くべきはその速力。


 キィン と小さな金属音は一度しか聞こえなかった。


 つまり、八回の金属音が一つの金属音に聞こえるほどの速度だったのだ。


 しかもウィルトは肉体強化の法術は使っていない。


 イスに座った状態で、なおかつ素の力でそんな芸当ができるものだろうか?


 自分ではどうやっても法術を使う必要があるだろう。


 慌てて逃げ出す男子達が視界から消え、それからウィルトが店を出てもフィリアは動けなかった。


 六年化の修業で自分はウィルトを超えた。

 それがどれほど甘い妄想だったのかを痛感し、手が震えた。



 セイバーグループに入社してから数カ月。


 買い物帰りにウィルトと別れてから、フィリアは自室で八本の剣を立てる。


 パーティーをタライ回しにされるフィリアは一人用のワンルームを借りているので家の中には他に誰もいない。


 フィリアが腰に刺した剣をつかみ、一気に引き抜く。


 キキィン


 八本の刀身が切り裂かれて床に落ちる。


 音が長く響く、そして残った刀身が僅かに震えている。


 速度も技量も、まだウィルトには及ばない。


 卒業式のあの日から欠かさず続けるこの鍛錬、成功した事は一度も無い。


 これが抜刀術による半円斬りならば簡単なのだが、ウィルトは男子達を傷つけずに腰の剣だけを斬ったし、一瞬だけ見えた白銀の閃きは確かに突きだった。


 八連突きの音が一つに、そんな絶技、世界中を見渡しても何人の人間ができることか。


 少なくとも、Sランクパーティー勇者でもできるとは断言できない。


 それを学生の身分で、


「くそ」


 額に手を当て、被りを振ってフィリアはその場に座り込んだ。

 外で気丈に振舞い、自室でこうするのはもう何度目か。


「ウィルト……貴様は何故…………」


 どのパーティーにも仮所属しかしない彼女の問いに、答えてくれる人はいなかった。

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