第30話 女剣士の苦悩
深夜、カーテンの隙間から洩れる月明かりの中でフィリアは鎧姿のまま頭を抱えて息を荒立てる。
ソレはウィルトからの着信音が鳴る携帯を殴り潰してからも収まる気配は無い。
しばらくして代わりになり続けたチャイムとウィルトの呼びかけの時は気取られまいと必死に耐えたが、もうこの衝動を抑えていられる余裕は無い。
「何故だ……何故…………」
昼間の第五研究所、自分とウィルトのカリバーの衝突が頭から離れない。
同じ技でも使用者の力量によって威力には大きな差が生まれる。
だがあの時、自分が放ったバーニングカリバーはアーレイの話を立ち聞きしながら必殺の機会を覗い、一分もの間じっくりと魔力を練り上げ両手で剣を振り抜いた最高の一撃。
対するウィルトはキマイラ達の相手をしながら咄嗟に出した小手先のカリバー。
否、そもそもカリバー系はあのようにして出せるものではない。
全身の魔力を剣に収束させ、心技体を一つにし全身のバネを使い両手で振り抜き放つ法術最強の技。
それを振り向きざまに、ろくに魔力を込める時間も無い状態で自分と同レベルのカリバーを放った……ならどれだけ救われた事か。
そう、フィリアは見てしまったのだ。
互いのカリバーを相殺したと思いウィルトの愚行を責めてから自分の剣を見れば、白銀の刃は結露していた。
灼熱の業火を纏っていたフィリアの剣はウィルトの急造フリージングカリバーに冷却されていたのだ。
すなわち、フィリアのバーニングカリバーが負けた事になる。
あの一瞬で自分を超えるカリバーを放つ。
自分とウィルトにはどれほどの差があるのか、考えるだけで脈が止まる。
ウィルトと背中を合わせて戦った時はウィルトと並べた気がして、いままでに無い嬉しさと心地よい多幸感に満たされて、ウィルトに隠れて笑顔になったりもした。
だが全ては自分の妄想、勘違いだった。
嫌な記憶がジワリ、ジワリと登ってくる。
幼いあの日、一人ぼっちだった頃を思い出して恐怖で背筋が凍る。
「駄目だ、駄目なんだ……私は強く無いと、最強でないとみんなが見てくれない……誰も相手にしてくれないんだ…………」
六年間、フィリアが一人だったのはその逆、ウィルトに固執し、修業にしか興味を示さなかったからだが彼女にまともな判断などできなかった。
強く無いと誰も寄ってこない、ウィルトより弱いから六年間孤独だった、ウィルトより弱いから勇者になれなかった。
過去の汚点が全てウィルトより弱いのが原因のように思えてならない。
「そうだ、勇者に、勇者になれれば……」
「へー、フィリアちゃん将来勇者になるんだ」
「うむ、見ていろ、きっとレギス以来の偉大な勇者になってみせるぞ」
「すごいねー勇者になるんだー」
「僕達の勇者ばんざーい」
「フィリアちゃん偉いねー、きっと勇者になれるよー」
「うん、なれるなれるー、だって」
「フィリアちゃん強いもん」
「!?」
月明かりの中、部屋の大鏡を覗き、そこに映る自分を見た。
真紅のマントも、エンブレムの入った盾も無い。
ただの剣士がそこにはいた。
「うあぁあああああああああ!!」
大鏡を両断して何度も踏みつける。
何度も、何度も、だがいくら鏡を粉々にしても頭の中で故郷の人達の声が木霊して離れない。
六年間修業して、クロエ達とただバカをやっていたウィルトに勝てない。
それどころか今まで以上に差がついているようにすら感じる。
「力が、力が欲しい……普通の修業じゃダメだ……何かもっと別の……別の何かが……でなければ、ウィルトに勝つ事ができない…………」
薬の切れた麻薬中毒者のように唸り、息を乱してフィリアはのたうちまわる。
「ちからぁ……力がぁ…………あ……あはは、そうだ、そうだ!」
狂ったように飛び起きて、フィリアは笑う。
「そうだ、その手があったなじゃないか、力が無いのなら」
勇者堕ちの剣士は月を見上げて声を張り上げる。
「奴から奪えばいいんだ!!」
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