第31話 市内にヒュドラ出現
その頃、ウィルトは同じ月を見ながら、携帯電話にもチャイムにも出なかった、頑張屋で、いつも自分の後ろを追いかけ回していたもう一人のフィリア(ゆうしゃ)を心配し、想い続けた。
軍隊と警察の迅速な対応により、昨日の第五研究所のモンスター集団脱走事件は鎮火し、その日の休日は安穏とした穏やかな空気が流れ、市民も昨日の事件をネタにネット上に勝手な書き込みをしたりそれを読んで楽しみ、モンスターが暴れた場所へは野次馬が携帯で写真を撮ったりしている。
大方自分のブログにでも上げるつもりだろう。
エデンガルド市民が昼ご飯を食べ、午後からはどうしようかと思う頃、空に魔法陣が広がり空気が震える。
政府が使う広域通信呪文だ。
『緊急事態発令! 緊急事態発令! エデンガルド郊外にヒュドラが出現しました。市民の方々は警察の誘導に従い、速やかに非難してください、繰り返します』
平和は一瞬で崩れる。
ヒュドラとは五歳の子供でも知っている最上級のモンスターで、もはやその存在は伝説上の、雲の上の存在である。
本当に実在するのかも怪しい掛け値なしの怪物だ。
まさかそんなものがエデンガルド郊外にいきなり現れるわけが無いと、当初は半信半疑だった市民達も次々到着する警官隊の姿に動揺し、そして次の瞬間。
VOOOOOOOOOOOOOOOO!!
空の彼方から響く、轟音にしか聞こえない咆哮、そして本物の爆砕音。
立ち昇る黒煙をトドメに、全市民が狂気した。
誰もが我先にと逃げだし、倒れる人を踏みつけ、警官を突き飛ばして爆音の方角から逃れようとした。
だがそれは無駄な事、なぜならば……
『全勇者に通達、エデンガルド郊外、東西南北(・・・・)それぞれにヒュドラが出現、Sランク、Aランク勇者パーティーは担当区域へ急行、Bランク、Cランク勇者パーティーは本社にて待機』
セイバーグループの全社宅の小型スピーカーと勇者達に支給した通信機から一斉に知らされる内容に誰もが冷静ではいられない。
ヒュドラと言えば九つの頭と無限の再生力を持ち、本体の頭を潰さない限り死ぬ事が無く、神の子が視力を尽くしようやく退治したとされる神話上の存在。
それこそ千年前に勇者レギスた倒した魔王にも近い存在だ。
それでも、そこらの三流勇者とは違う、Sランク、Aランク勇者達は剣を手に仲間を引き連れ現場へと向かった。
「ちょっとヒュドラってマジで!? アーレイの奴ヒュドラ召喚したの!?」
「嘘の連絡が入るわけないでしょサル剣士、いいから四〇秒で支度しなさい」
「制服のシスター服が私服のあんたに言われたくないわよ!」
社宅で慌てて甲冑を着るエリカ、とは言っても特別な術式が組み込まれたソレは中世時代のような手間は無く、体に押し当てて魔力を込めれば自動的に装着ささるお手軽設計である。
テーブルの上でウィルトの携帯が鳴ったのはその時だ。
「誰だよこんな時に、メール? ってアーレイから!?」
自分携帯画面を見て驚くウィルトにクロエ達も駆け寄る。
ヤッホーイ勇者ウィルト諸君
私のプレゼントは気にいってくれたかな?
悪いけど君達は会社に行かないで指定した場
所に来て欲しいんだ。
断ったり、この事を誰かに言ったららどうな
るか、君達なら分かるよね?
指定場所↓
「アンタ随分好かれてるのね」
「……あいつは、俺を殺すって言っていた」
神妙な顔つきに、サーシャが続ける。
「アンタの強さを恐れてるって事かしら?」
「あいつは俺をカリバーの使い手だって言ってた。だから危険だって」
「カリバー……ね、まぁいいわ、とにかく、この場所に行けばいいんでしょ?」
「だったら行くしかないわね」
「そうだね、行こう、ウィルト」
三人の仲間に押されて、ウィルトは携帯を閉じて頷く。
「ああ、俺がまいた種だ。きっちり片付けてやるよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます