第24話 手加減無用
先程ウィルト達がいたのは地下二階、そこから床をブチ破り一気に地下五階まで跳び下りると当たり過ぎてしまった。
つまり、植物園の入り口近くではなく。
「いきなりですか?」
降り立ったのはリノリウムの床では無く地面の上、周囲は壁ではなく人間サイズの食人植物の群れ。
「猫の次は食虫植物かよ、フィリアの奴どこにい――」
背後の爆音に振り返ってウィルトは冷や汗を流す。
「うわー、わかりやす」
「バーニングエッジ!」
「ぬぉおおおおおお!!」
巨大な炎の刃が飛んできて、ウィルトは瞬速ブリッジでかわす。
「ウィルトか?」
「ウィルトだよ! てかお前捕まったんじゃないのか!?」
「ツルを斬って逃げたがこの階層は植物だらけだな、それよりアーレイ殿は見つけたのか?」
「ああ、お前を追いかけたらたまたま見つけてな、今は安全な場所にいる」
「たまたまって、見つけられたからいいようなものを、この程度で私に助けがいるとでも思っているのか?」
やっぱり言ったよこの娘。
「目の前で女友達がさらわれたら助けるに決まってるだろ」
「私なら貴様を見捨ててアーレイ殿を探しているぞ」
襲い掛かる植物を斬りながら「友達甲斐ねーなー」
襲い掛かる植物を焼き払いながら「前から言おうと思ってたがいつ友達になった」
植物を薙ぎ捨てながら「学生時代からずっとだろ」
植物を蹴散らしながら「貴様はずっとライバルだ」
ブリザードエッジを撃ちながら「てかなんで炎系で攻撃してんだ?」
バーニングブレイクを撃ちこみながら「この植物は何故か氷に強い、焼き払ったほうが良い」
「「じゃあ二人揃ったし」」
互いに背を合わせ、
「「ヴォルケーノウェーブ!!」」
手を横に薙ぐと足元からマグマの津波が巻き起こり、周囲の植物を残らず焼き殺す。
植物園の土を焦土に変え、植物を灰も残さず焼き尽くして、遥か遠くに見える壁のその奥へと続く廊下を見咎めた。
「ここどうなってるんだ?」
「どうやらいくつかのブロックに分かれていて各ブロックがそれぞれ廊下で繋がっているようだ。
今のでこのブロックの敵は殲滅したがまだ他のブロックはモンスターでいっぱいだろうな」
「じゃあさっさと逃げようぜ、別にここのモンスター一掃しなくてもアーレイさん連れてトンズラだ」
「そうだがここの植物は異常だ、今までこんな物をどうやって制御していたか知らんが、私を襲った事を考えればここで討っておかないと上にどんな影響があるか」
「それはそうだけど」
「そういえば貴様、安全な場所と言ったが具体的にアーレイ殿はどこにいるんだ?」
「保管庫室」
「の、中に閉じ込めたのか? 鍵はどうした?」
「いや、保管庫室の中にいるだけで人間のアーレイさんを保管庫に収めたりはしてねーよ」
何を当たり前の事をとばかりに言うと、フィリアは声を荒立てる。
「貴様! いくらモンスターが少ないと言っても一匹もいないかはまだ分からないのだぞ! 貴様はすぐ戻れ!」
「でもここお前一人じゃ」
「確かモンスターについては貴様のほうが詳しかったな、ここの植物は人を食う時溶かすか咀嚼るか分かるか?」
「え? ああ、確か……」
以前、クロエから教えてもらった植物型モンスターの特徴を思い出し、ソレを先程のモンスター達と重ねる。
「ここには咀嚼系のモンスターばかりだな」
「ならここらに人がいてももう食い殺された後か?」
「俺はそう考えるな」
返答を聞くとフィリアの剣が燃え上がり、二つの瞳の奥に紅蓮の滾りを感じる。
「ならば手加減無用でいいのだな?」
ウィルトの額から冷や汗が流れて、この階層のモンスター達に黙とうを捧げた。
「じゃあ俺行くわ」
「ああ」
自らブチ破った天井の穴から地下二階へと上がると、たった今通って来た背後の穴から業火が噴き上がる。
熱気で鎧越しに背中が熱くなる。
「うわー、本気で容赦ねーなー」
加減知らずの戦乙女の炎にたじろぎ、ウィルトはすぐ近くの保管庫室に向かう。
だが、廊下を曲がると保管庫室へキマイラが三頭駆けこんで行く。
「やべ!」
すぐさま法術で脚力を強化して自身も跳び込む。
アーレイは絶対的な地位と権力を持ちながら決してひけらかさず、気さくで、落ちこぼれのウィルトにも自然に接してくれる。
そんなアーレイはウィルトにとって好ましい人物であり、美少女好きという同好の士である事を見ても、ウィルトはアーレイに少なからず友情のようなものを感じていた。
「アーレイさん!」
このスピードならギリギリ間に合う。
フィリアが言ってくれなかったら、きっと自分はアーレイを失っていただろう。
心の中でフィリアに感謝しながら、ウィルトはアーレイに襲い掛かろうとしている筈のキマイラに間髪いれず剣を振り……かけて踏み込む足を止めた。
「!?」
そこには信じられない光景があった。
キマイラがアーレイにひざまずいている。
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