第25話 真相
キマイラがアーレイにひざまずいている。
「…………」
そして、丁度保管庫から出てきた様子のアーレイの右手は手袋が外され、血の気を感じない、灰色の地肌が見えていた。
死人のような手に握られたケースは、モンスターのパーツを保管するのに使われる物だ。
「アーレイさん……何を、その手は…………」
見開いたまま閉じられない目がアーレイの視線と交わる。
「ああ、これ? なんだと思う?」
いつものアーレイではない、静かで、そして冷たい声だ。
「そのケースの中って……お宝本なんかじゃ、ないですよね?」
震える問いに、アーレイは薄く笑う。
「君はさ、なんで私がCランク勇者の君と接触するか分かるかい?」
「それは……」
「右手がね、言うんだよ、カリバーの使い手を殺せって」
ケースを左手に持ち替え、アーレイは人外の手を眺める。
「魔王城の遺跡では何も見つけられなかったと言ったけれど、実際には素晴らしい収穫があったんだ、そう、この魔王の右手だ、私の体にすぐ馴染んでくれた」
「まさか瘴気事件やここのモンスターも」
「当然じゃないか、私は再び世界に絶望をもたらしたい、そして魔王となる」
双眸に宿る邪気に射ぬかれ、ウィルトは一歩退く。
「暗黒時代再来の為に、この右手から作り出せる瘴気の扱いかたを学び、魔獣の作り方も習得した」
魔獣、その単語を聞いてフィリアの言葉を思い出し、ハッとする。
今までこんな物をどうやって制御していたか知らんが
「気づいたようだね、あれは私が魔獣へと作り変えたんだよ、こんな風にね」
魔王の指、三本が触手のように伸びてキマイラの背中に突き刺さる。
苦痛に跳び起きたキマイラの筋骨が膨らみ、獅子とヤギの頭から炎が漏れだす。
「あの数のモンスターと、あれほどの魔獣なら君を殺せると思ったんだけどね、流石はカリバーの使い手」
「そのカリバーってなんだよ、カリバー系使える奴なんてセイバーグループにはいくらでもいるだろ?」
「あれは全部偽物だ。本物のカリバーはこの世にただ一つ、勇者レギスが魔王バルアードを殺した一撃のみ、他は全部そこから派生したオマケだよ。
滑稽だね、みーんなただのオマケを使っているだけなのに勇者気どりしているんだから。
でもね、君と出会ったのだけは偶然だよ、あの日初めて会った日、偶然私の車を盗み、瘴気入りのカプセルに触れた連中がいてくれた助かった。
おかげで君に会えて、手袋越しに握手することでカリバーの力を感じ取り本物の勇者をいち早く見つけられたのだからね」
魔王の手を口に当て、アーレイは小さな笑い声を漏らす。
「だから君を殺す事にした。武装していない君をレストランに連れてって、あらかじめ魔王の手で洗脳しておいた引退勇者にレストランを襲わせたり、ここのモンスターを瘴気で狂わせて逃がしたり、魔獣を作ったりして君を呼び付けた。
だけどやっぱりこの程度じゃ君を殺せないみたいだ。だけど準備はもうできた。今度は全力で行かせてもらうよ」
「全力?」
「ああ、子供の頃から思ってたんだよね、漫画やゲームの魔王ってなんで勇者に強いのぶつけないんだろうって、ちまちま弱いのぶつけて勇者が強くなってから幹部や自分が戦うんだもん、あれって非効率的だと思わない?」
人をバカにしたように問いかけるアーレイの姿を見て、自分を殺すという言葉を聞いて、ウィルトの中で認めてしまう。
自分は騙されていたと、だが同時に思う。
「だから私は君に最強の敵をプレゼント――」
「貴方は俺が助けます」
「は? 君は何を言っているんだい?」
理解できないとアーレイが一蹴する。
「貴方は魔王の右手に操られている。だから、俺は魔王の右手だけを殺して貴方を助けます。そして」
と切ってウィルトは無理矢理笑う。
「一緒にポルノ映画でも見にいきませんか? なんなら、ずっきゅん妹パラダイスのアニメDVDの観賞会でもいいですよ」
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